第18話 新しい使い魔

 あの話し合いの日から、イブは自分でも色々と動いていたようだ。


 お店にポーションを買いに来ているお客さんから話を聞いて、近所に剣術を教えている所があるのを知ったらしい。


 見学に行きたいとのことで、許可を出す。


 私は菩提サボテンが花を咲かせたので、採取をしている。

 本当はこのまま触媒にしてしまうつもりだったが、イブのために、別の用途で使う予定だ。


 ラインバルブからこっそり買い付けておいた、黒いスライムの魔石の様子を見る。


 クレナイを作ったときとは違い、この魔石は貴重らしく、拳大の魔石が一つしかない。

 物品鑑定をする。


 ブラックスライムの魔石(魔力充填)


 充填しておいた私の魔力は十分馴染んでそうだな。


 私は次に、鍋に初級マナポーションを八分目までいれ、弱火で温める。


 沸騰する前に火を弱め、そこに菩提サボテンの花びらを一枚入れて煮出し始める。花びらのエッセンスがすべて煮出されたら取り出し、次の花びらを一枚入れる。

 そうして根気よくすべての花びらからエッセンスを取り出すと、冷暗所に保管する。


 ちょうど作業が終わり片付けた頃にイブが帰ってくる。


 お茶にすることにする。


 イブに剣術の指南所のことを聞くと、どうやら気に入った様子。


 通いたいそうだ。許可を出し、費用がどれくらいかきく。どうやら月謝制ではなくて、一回いくらという感じらしい。


 次に行くときに一緒に行って、しばらく通える分を支払うことにする。


 道具は貸し出ししているそうだが、服や靴なども揃える必要があるらしい。

 そちらはマルティナさんと買いにいく約束をしていると嬉しそうに話している。


 少し余裕をみて、そちらの分のお金は渡しておく。


「余ったらマルティナさんと何か食べてきなさい。付き合ってくれるマルティナさんへの御礼も兼ねてね」


「ありがとう。そうする」


 イブは嬉しそうに微笑んでいる。


 本当に最近は表情が柔らかくなってきたな。私はこの時はそんなことを思っていた。



 次の日、イブがマルティナさんと買い物に出掛けると、私は昨日の作業の続きを始める。何か食べてくるはずだから、帰ってくるまでに完成させられるだろう。


 私は昨日準備した菩提サボテンのエッセンスの溶け込んだ初級マナポーションとブラックスライムの魔石を取り出す。


 呪文の歌のおさらいをする。

 今回はクレナイを作ったときと、歌が少し異なる。


 前回はそのまま魔石からスライムの使い魔を生成するための歌だったが、今回は劣化転生をするつもりだ。


 これはランクを一つ下げることで、ブラックスライムとは異なる使い魔を生成できる。

 ゲームの時の設定として、ブラックスライムはスライムがシャドーという魔物を取り込むことで進化する魔物だった。

 今回はこの、シャドーという魔物を使い魔として生成するつもりである。

 シャドー自体は弱い魔物だけど、菩提サボテンのエキスを素体に取り込むことで、あるスキルを獲得してくれるはず、と想定している。


 準備がすべて終わったので、さっそく錬金を始める。


 ポーションに漬かった魔石に手を伸ばし、歌い始める。 


 高く、低く、そしてより高く。少しもイブの助けになることをひたすらに願いを込めて、歌い続ける。

 何度も何度も繰り返し歌い続け、魔力を込め続ける。


 前回同様、別に用意した初級マナポーションを何度も浴び、魔力を回復させながら歌い続けていると、魔石がゆっくりと溶け始める。


 そのまま菩提サボテンのエキスのつまったポーションと混ざり始める。


 また、暴走するかと身構えるが、今回はそのまま無事に錬金が完了する。


 そこにはまさにシャドーと呼ぶにふさわしい、不定形の影だけの使い魔が生成されていた。


 私はシャドーに、まずは名前をつける。


「シャドー、『命名』:ロイ」


 ロイのステータスを確認する。


(よしっ、やった。狙い通りのスキルがついている)


 そこには、『さとり』のスキル表示があった。




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