第3話 お買い物

 空腹で目が覚める。

 昨日はあのまま眠ってしまったようだ。


 寝汗やら埃やらでべたべたする気がする。


(うーん。あれなら初級のポーションだから作れるし、役に立つかな)


 インベントリから、触媒:純水とビンを取り出す。


 寝ぼけて失敗するのも悔しいので、大きく深呼吸して息を整える。あくびが出たのはご愛嬌。


 大きく息を吸い込み、魔力を巡らしながら呪文を歌いかける。

 歌い始めて、マナポーションを作るときより高音のキーがいることに気がついた。

 前の身体じゃあ、こんなに高音は出なかったのに、今ではまだまだ余裕があることが自然とわかる。


 その間にも、口が勝手に音を紡ぐ。


 こんなところにも、転移の影響出てるのかと思っているうちに歌い終わる。瓶の中にはうす緑色の液体が出来ていた。


 錬金術士のスキルである物品鑑定をしてみる。どうやら、ちゃんと初級清浄ポーションができたようだ。


 さっそく頭から被る。


 全身が濡れるが、即座に緑色の光を放つと、あっという間に揮発。全身がさっぱりした。


 ちゃんと服の汚れも取れているのを確認する。


(やっぱり汚れが取れたか! ゲームだと軽い汚濁や呪いを払うって設定だったから、汚れが落ちるかと思ったけど、ちゃんと効果あったなー。ゲームの時は、低レベルの錬金術士が最弱ゾンビに投げつけて倒して、レベル上げする用のアイテムだったよな。懐かしい)


 念のため、もう1つ作り、インベントリにしまうと部屋を出る。


 宿の主人に挨拶して宿を出る。


 どうやらこっちの基準では寝過ごしたらしい。

 宿の主人が呆れたような顔をしていた。


 隣の食堂も、朝と昼の間の中途半端なこの時間はやってないと宿の主人に言われたので、ぶらぶら歩いて屋台を探す。


 歩きながら、とりとめもなく今後に思いをはせる。


(今作れるのは、使える触媒が純水だけだから、初級のマナポーションとスタミナポーション、それとこの清浄ポーションだけ。なんとか新しい種類の触媒を手に入れたいとこだけど、こっちの世界にあるかな。あるといいな。ひとまず何か食べたら、生活雑貨を見つつ、触媒探して見るか)


 少し歩くとひらけた通りに出る。屋台も並んでいる。

 無難そうな串焼きの店をのぞいてみる。


「こんにちは。何の肉ですか?」


「大蛙のロースだよ。一個1500リル。」


 忙しいのか、なかなかに無愛想だ。肉自体は人気があるようで、並ぶほどではないが客足は途絶えない。


 1つ買い、歩き出す。

 このレベルMAXの体ならよっぽどの毒じゃなきゃ大丈夫だろうと、一口かじる。


 焼きたてだからか、意外と旨い。

 肉汁も豊富だし、変な臭みもない。食べたことがない香草の香りがする。


 少し路地裏に入った所でゆっくりと残りの蛙肉を味わう。食べ終わった串はインベントリにしまい、初級清浄ポーションで口をゆすぐ。

 少し口から緑色の発光が漏れるが、さっぱりする。


 食べ終わる頃には周囲のお店が営業し始めていた。まずは古着の店を探す。ちょうど数件先が古着屋のようだ。


 さっそく入り、普段着用に数枚試着する。

 奥のほうにマントやローブが並んでいる。少し高価だが、ファンタジー世界にきて、魔法系職なら買わない手はないなと物色する。


 少し古ぼけているがこの紺色のマントが良さげだ。

 まとめて購入し、マントだけ羽織って、あとはインベントリにしまう。


 お会計の際に店主におすすめの雑貨屋を聞いてみる。


「日常品を買うならこの隣の店でも十分だろ。変わったものを探しているなら、2つ奥の路地を右に行くとあるアンガスのとこの店がいい」


 店主にお礼をいい、とりあえず隣の店をのぞく。


 日常品の細々としたものを選んでいく。

 だいぶ懐が寂しくなってきた所で店を出る。

 しばし、考え込む。


 (これは早めにラインバルブのとこにポーション売りに行くかな。あんまり一ヶ所だけに卸すのも望ましくはないんだけどなー。

 どうやら初級のポーションでもこっちの世界だと高級品みたいなだし、変なとこに目をつけられるのも避けないは避けたい。

 そうだ、水で薄めて見て、薬屋とかに持っていってみるかな)


 近くで探すと井戸で水が売っている。インベントリから、さっき雑貨屋で買った桶を取り出し、水を買う。


 路地裏に行って、昨日草原で試しに作っていた初級スタミナポーションをインベントリから取り出す。


 ふたを開け、桶に注いで水と混ぜる。


 物品鑑定をしながら、二本、三本と混ぜると、四本目で水の表示が劣化スタミナポーションに変わる。


 (だいたい濃度は十分の一ぐらいか)


 ビンを取り出し、40本分詰める。

 そのままアンガスの店とやらを目指す。


(この劣化ポーションはいくらになるかな。ゲームにはないアイテムなんだよなー。たぶん、一段階等級の下のアイテムになるはず。

 ゲームだとだいたい一等級違うと50倍くらい値段が違ったから、一本2000リラくらいかな。高級な栄養ドリンクだとしたら妥当か)


 考え事をしながら歩いているとアンガスの店らしき建物に着く。


「こんにちはー。見せてもらってもいいかな」


「いらっしゃい。何かお探しかい」


 店主らしき中年の男性が答える。どうやら彼がアンガスのようだ。だいぶ疲れた様子に見える。


「ここは珍しいものを扱っていると聞いてね。自由に見ても?」


「どうぞどうぞ」


 アンガスはそう答えると何やらカウンターのなかで作業を続け始めた。


 許可も出たので、物品鑑定を発動しつつ、ぷらぷらと店内を巡る。


 (ここは民芸品みたいだな。特に珍しい効果とかは無さそうだ)


 次の通路の棚をみると、変わった形のアクセサリーが並んでいる。時々、微少な効果がある品が混ざっている。


 (買うほどではないな)


 次の通路の棚は様々な石が並んでいる。


(鉱物の原石もあるが含有率が低いな。錬金術では使えないレベルだ。あっ、スライムの魔石がある!)


 十数個あるそれを持ってアンガスのもとに向かう。


「すいません、これは出てるだけですか?」


 アンガスはちらりと私の手元を見て、ちょっと興味を示して答える。


「残念ながらスライムのコアはそこにあるだけだよ。お客さん、薬師かい?」


(また名称がゲームと違うな。ここではスライムの魔石は薬師が使うのか)


「似たようなことをしてます。じゃあこのスライムのコアをください」


 お支払いがすむと乗り出すようにアンガスが聞いてくる。


「お客さん。薬師なら体力を回復させる薬を持ってないかい?」


「ありますけど、買取りしてるんですか?」


「あるのか! ありがたいっ! 見せていただいても?」


 私は懐から取り出す振りをして劣化スタミナポーションを取り出す。


 アンガスもおもむろにカウンターから黒い石を取り出すと、劣化スタミナポーションの蓋を開け、匙で数滴石に垂らす。


(ラインバルブの使っていたのたと同じやつか。なにも聞かずに試すのは、薬を買い取るときの普通の手順なのか、アンガスが切羽詰まっているのか)


 石は徐々に黄色く染まり、大きさの半分くらいで黄色の色が消える。


「素晴らしい! 純正品のライフポーション! 何本ある?」


「十本ありますよ」


「おお! 純正品なんで買い取り1万リルでいいか?」


「瓶は再利用するので中身だけで良ければ」


(意外と安いなー)


「今持ってくる!」


 そういうとアンガスは陶器のかめのようなものと銀貨が入っているだろうと袋を店の奥から持ってきた。


 銀貨を数え、十枚差し出してくる。


「じゃあまず一本1万リルで合計10万リル」


(一本1万か! 想定の五倍だ。ラインバルブの奴、だいぶ足元見てたんだな)


「確かに。その甕に入れてけばいいのかい?」


「ああ、入れるのはこちらでやるから貸してくれ」


「了解」


 私はインベントリから劣化スタミナポーションを9本取り出し並べる。


「インベントリ持ちか!」


 アンガスは驚いたようだが作業の手は止めず、直に移し替えは終わった。


 私はビンを回収して、スライムの魔石とともにインベントリにしまい、別れの挨拶をして店を出た。


(いい取引が出来た。さっそく宿に戻って錬金しよう)


 ウキウキ気分で足取りも軽く、宿に向かって歩き出した。

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