第23話 新たな錬金
店にいたマルティナさんとマリアさんに、先ほどラインバルブに聞いた話を伝える。
二人は急いで店を閉めると、雨避けのコートを羽織り、避難の準備のため家族の元へ向かった。
部屋に戻った私は、まず、ステータスでロイの状態を確認する。
変化はないな。
イブの無事を祈り、今自分の出来ることに集中することにする。
作りおきしておいた自分の魔力を充填してある魔石を取り出す。
だいたいがスライムのものだが、たまに別の獣系の魔石もちらほらとある。
ラインバルブの店に入荷する度にこまめに買い足し、魔力を込めてきた魔石達。
その中の一つ、一番小さな魔石を手に取りる。これは本当に小さくて、小指の爪ぐらいの大きさしかない。ラインバルブはクズ石と言ってたな。それをマナポーションに浸ける。
そうして、慎重に、呪文を歌わずに、魔力を込めていく。
すでに私の魔力が限界まで充填されている魔石。その魔石にそっと魔力を継ぎ足して行く。
抵抗する魔力を力で押さえ込み、注ぎ続ける。
最初は手応えを感じられなかったが、ある瞬間に、限界を超えた感触。
そこからは急にスムーズに、徐々に注がれていく魔力。
魔石は急速に発光しはじめ、熱も帯びて来る。
込めた魔力が魔石の中で渦巻き、今にも暴れだしそうだ。
それでも構わず、しかし慎重に慎重に魔力を継ぎ足して行く。
すでに臨界点を超えている魔石が、もう、もたないっと感覚的にわかる。
魔力の供給をやめる。
インベントリから取り出した、いつもお世話になっている瓶にそっとポーションごと魔石を入れる。
急いで封をする。
大きく息を一つ吐き、安堵。
改めて、できた魔石に物品鑑定をかける。
魔石:暴走状態・臨界突破
「よし、できたぞ! 想像どおりだ」
私は思わず独り言を呟く。
体感的には、製作に失敗していたらこの建物はおろか、周囲数店舗まとめて吹き飛んでいたぐらいの威力がありそうだ。
この錬金した暴走魔石は、ゲーム時代に存在しなかった私のオリジナルになる。
クレナイを作ったときに魔石が暴走したときから、何か出来るんじゃないかと、ずっと考えていた。
その後、この世界に転移してきたときからお世話になっている、ビン×∞の特異性に気づいていた。
ポーションを一切劣化させず、また眠り薬はビンを割らない限り状態が変わらない。
そこから、魔力を暴走させるまで魔石にこめ、ビンに封じることで、ビンを割ると、暴走する魔力が襲いかかる爆弾のようなものが出来ないかと考えていた。
ここまでは私の理論どおりに出来ている。
後は試すか、出来るだけ作っておくかだが。
今の状況的に外出は難しい。
ふと窓の外を見ると、どうやら避難が始まっているらしい。
家からどんどん人が出てきている。皆、最小限の荷物だけ背負い、雨具をまとい、南門に向かって歩いている。
時たま兵士が避難を呼び掛ける声が辺りに響く。
老人と幼子は互いに手を取り合い。夫婦はお互いに助け合い。
独り者も病めるもの、怪我をしているもの。
人々は雨の中、身を寄せあい、一丸となって南を目指す。
その様子を見て、改めてここは、いい町なんだなと、私は思った。
出来るだけのことをしよう。
私は再度ステータスでロイの安否だけ確認すると、私は限られた時間の中、錬金作業に没頭した。
出来るだけの切り札を量産するために。
雨音だけが響いていた状況から一転、周囲が騒がしい。
その物音に、錬金術に没頭していた私は錬金をやめ、作成した暴走魔石をインベントリに全てしまう。フード付きコートを羽織り店の外に出る。
周囲は避難が完了しているのだろう。だれもいない。
雨に包まれた無人の町並み。
北門の方が騒がしい。
ここまで、明らかに大規模に争っている雄叫びや絶叫が雨音を通り越し、聞こえる。
クレナイに護衛を改めて頼み、北門へ急ぐ。
途中、路地の角を曲がった瞬間、何かとぶつかりそうになる。
私の影から伸びるクレナイの粘体。
三条に分かたれたそれが、まるで槍のように目の前の何かに突き刺さる。
クレナイの粘体が引き抜かれ、崩れ落ちる人型の何か。
私はゆっくりと近づき、観察する。
それは人型をしているが明らかに人とは異なる、異形ななにか、としか言えないものであった。
私は念のため物品鑑定を掛けてみる。
ダメだ、文字化けする。
明らかにゲームの時にも存在しなかった異形のもの。これらが今回の侵略者であろう。
(しかし、まずいな。もう町の中に入り込まれてしまっている。私の切り札の暴走魔石は威力が強すぎて、町中では使いずらい。町に入り込んでいるのが一部だけならいいんだが)
私は戦況を確認するため、改めて北門へ急いだ。
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