第35話 宝玉、そして

 シロガネが帰ってきた。


 落ち込んだ表情。


(まるで人間みたいだ。ホムンクルスって、ゲームじゃ完全に無表情のNPCだったのに。シロガネも最初は完全に無表情で、話し方もセリフを話しているみたいだったけど)


 私は使い魔の二体目のシャドーを通してこっそりシロガネの様子を伺っていた。村に行ってリムリールと関わるようになってから、一気に感情の揺れ幅が増していたようだ。


 今は、どうやら取り逃がしたことに落ち込んでいるらしい。


 シロガネから話してくれることを待つことにして、研究を続ける。

 だいぶ異形の者達のことがわかり始めて来た。

 そして、私と、このゲームのシステムに則った力と、この世界の関係も。

 しかし、後一つ、ピースが足りない。


 ここ数ヵ月、ずっと研究は停滞していた。


 シロガネの誕生がその突破口になるかと期待していたのだけれど。


 今のところは興味深いデータは取れているけれど、それだけに過ぎない。

 もちろん、シロガネの今後には期待している。

 どうやら色々と面白いスキルを取っているようだし。


 私が基本生産メインのスキルしか持っていないので、シロガネの持つネタスキルには詳しくないが、道化師スキルは確か進化したら使えるスキルになったような気がする。


 シロガネのことを考えながら研究結果をまとめていると、クレナイが反応する。


 最初は、あたりを嗅ぎ回っていた異形の者達が襲ってきたかと身構えたが、どうやら敵ではなさそう。

 クレナイが防御体勢を取らない。


 そのまま待っていると、扉の隙間から黒い影が入りこんでくる。


「ロイ! 久しぶりだな。イブが近くに来ているのかな?」


 ロイのさとりスキルで、意志が伝わってくる。


「イブは元気にしているのか、それはよかったよ。うん、届け物?」


 ロイが宝石のようなものを渡してくる。


「なかなかまがまがしい色の宝石だね」


 物品鑑定をかけてみる。


 文字化けして読めない


「これは異形の者達のゆかりの物だね。これをどこで?」


 ロイからイメージが伝わってくる。


「ええと、イブの向かった砦にいた特異個体が持っていたものってことか。ふむふむ。ほう、イブの近くに夢占い系の能力を持つ人がいると。っ! その夢占いによると、これ、敵の召喚か増殖に関わりのあるアイテムなのか」


 これは、もしかすると、私が探していた最後のピースかもしれない。

 興奮が込み上げてくるのを抑え、ゆっくりと深呼吸する。


(落ち着け落ち着け、まずは確認が先だ。これだけじゃ鑑定は効かないから、実際に使われている所を確認した方がいいだろう。それに、イブにも一度会っておくべきだろう。袂を別ったと言え、今どうしているか気になるし。イブはイブで情報を集めているふしもある)


 私は久しぶりに塔から旅立つことを決意した。


 シロガネには所用で旅に出ることを伝える。

 しばらくの間、戻らないことを伝え、十分な額の生活費を渡す。

 もし、シロガネも出掛けるときは鍵をかけるように、スペアの鍵を渡しておく。

 基本的に私がいない時は自由に過ごしてよいと指示し、私はイブのいるところへ向かって旅立った。

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