第32話 閑話 シロガネ 4
「リムリール先生、この前は釣りを教えて頂きありがとうございました。おかげさまで、あれから魚が釣れています」
わたくしはとりあえず、まずお礼を述べます。最初に言わないと、もう言う機会がない可能性が高いですから。
「あははー。シロガネお姉さんはやっぱり面白いねー。お姉さん達は本当に反応が読めないよー」
リムリール先生が答えます。
しかし、いくら先生とは言え、お姉さん達とは心外な表現です。
文脈からして、わたくしとカルドがいっしょくたにされていそうです。
わたくしは思わず抗議します。
「そこを反論するんだー。やっぱり反応が読めないねー。さすが特異点とその眷属ー」
わたくしはカルドに隷属しているのは本当なので、今回は反論出来ません。
不本意であることだけ、表情で伝えます。
「でも、何でこんなことをしたとか、お姉さんたちのことをどうして知っているのとか、色々きかないんだねー?」
「聞いたら、教えてくれるんですか?」
「うーん、ここまで聞かれないと、逆に話したくなっちゃうかもー」
「それでしたら、お話し下さい」
「でもダメー。怒られちゃうしー。本当はこうやって見つかっちゃうのもNGなんだよー。でも、お姉さん、見つけられちゃう人になっちゃってたもんねー。不可抗力不可抗力ー」
「では、一つだけ聞いて差し上げますね。なぜあのとき釣りを教えて下さったんですか?」
「うーん。気まぐれかなー。このリムリールって子も生前は釣り好きだったし、僕も故郷の世界ではよく釣りをしていたから、同好のよしみー?」
わたくしはその瞬間に、攻撃をしかけます。
右腕を前に伸ばし、左足で地面を全力で蹴りこみます。
高いステータスに頼りきったごり押しの攻撃です。
クレナイには軽くあしらわれてしまいましたが、リムリール先生はどうでしょう。
反応、出来ていないようですね。
急速に近づくリムリール先生の胃の辺りを狙いながら、様子を観察しますが対応してくる気配はありません。
右手が直撃する瞬間、最後に右足で加速をかけ、だめ押しです。
右手がリムリール先生のお腹を貫通しました。
(っ、手応えがない)
とっさに飛び退きます。
最初のドアの前まで一足で避難します。
反撃はありません。
リムリール先生はゆっくり姿が変わります。
その変わり様を見るに、スライムやドッペルゲンガー系ではなく、シェイプシフター系のようですね。
「いきなりひどいなー。シロガネお姉さんー」
リムリール先生はすっかり元の少女の姿から、異形の姿に変わっています。
「やっぱり、リムリール先生はカルドが三叉路の町で戦った敵の、お仲間だったんですね」
「あんな知能の低い雑兵と一緒にされるのは心外だなー。ようやく質問するんだねー」
わたくしは、次のチャンスを伺います。これだけ無防備に構えているのですから、何かありそうです。
「この村へは観光にいらしたのですか」
「まさかー。ご想像通り、君達のことを探りに来たんだよー。特にシロガネお姉さんのことは勧誘しようと思ってね。あのカルドに反発心があるでしょ。僕のとこに来たら自由だよ」
「シェイプシフターの読心能力ですね。本当に残念なことに、契約ですから」
「あー、ほんとだねー。そりゃ残念ー」
その瞬間、再度、突貫をかけます。
僅かに体を傾けるリムリール先生。
しかし、わたくしも僅かに軌道を変え、リムリール先生を捕らえます。
今回は最後の加速がなく、右腕がリムリール先生の体に埋まる程度。
しかし、好都合です。
わたくしはスキル・爆弾魔レベル1を発動、右手の魔力を爆発させます。
わたくしの腕が、軌道を変えたことで僅かにズレて刺さっていたのでしょう。
リムリール先生は半身は吹き飛びましたが、まだ辛うじて半身が残っています。
「あらあらー。やられちゃったねー。勧誘も失敗しちゃった。でも、気が変わったらいつでも仲間にしてあげるよー」
私は左手を残ったリムリールの半身にあて、爆発魔レベル1を発動しました。
吹き飛ぶリムリール。
しかし、手応えがありません。
敵の存在を消したなら、何かステータスやレベルの上昇等が感じられるはずですが、それがありません。
もしかしてあれは分体だったのでしょうか。繋がっている本体が別にいた可能性が高そうです。そういった本体と分体をつなぐパスを通して攻撃を届ける手段が、残念ながらわたくしには不足しております。
それに、むざむざと手の内を晒しただけになってしまいます。
カルドは何と言うでしょうか。
今から塔に戻るのが憂鬱です。
わたくしは、爆発音に驚いて様子を伺う村の人を避け、とぼとぼと塔に向かいました。
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