第24話 水の世界とココア
突如、引きづりこまれた場所で、ココアはそっと目を開ける。
目に見える世界は右も左も上も下も青、青、青。
自分が水の中にいることに気付き、意識した途端、呼吸が出来なくなる。
手や足を動かせば動かす程、今より悪くなるばかり、徐々に息が出来なくなるこの状況で、その体力も奪われていく。
(苦し………、誰か……たすけ………)
ココアは手を伸ばすが、その手を掴む者はいない。
(……〝ぴぴ〟……)
目の前が暗く閉ざされようとしていた時、ココアの胸元のうさぎのブローチが光り、閉じかけていた瞼はココアの脳から送られる命令を無視して、水の中でしっかりと目を開く。
ココアが認識できるのは水の中の様子だけ、自分の手と足は勝手に動き、鮮やかな青色の世界を自由に泳いでいく。
(〝ぴぴ〟?)
相変わらず、〝ぴぴ〟からの返事はない、それでも、今この状況で自分の体を支配しているのは〝ぴぴ〟だという確信があった。
〝ぴぴ〟と繋がっているという安心感からか、ココアの心にも徐々に余裕ができ、今いる世界を見渡す。
小さな魚が尾ひれを必死に動かし、泳ぎまわっている。何匹かはココアを見つけ、隣にピッタリとついて泳いでいる様子はまるで寄り添ってくれているかのようだ。
サテンのようにテカテカと光る、色とりどりのリボンが海藻のように水の流れと一緒に左右に踊り、まるで夜空を泳いでいるのではないかと錯覚していまいそうな程、空に浮かぶ星をこの水の中に解き放ったのではないかと思うほどの光を放つ貝殻とヒトデ。
ココアは自分の意思に従って口角が上がるのを感じた。
(ふふっ。なんか、久しぶりに笑った気がする……)
視界が少し明るくなり、それは水が吸収した光だと分かるとその方向に向かって、上へ上へと上がるように泳いでいく。
その光の明るさが徐々に濃くなり、もうこれ以上の光は……目が開けてられないと思ったその瞬間、水の皮を破るように望んだ世界に顔を出す。
〝ぴぴ〟がココアを導いてからは水の中でも、苦しいと感じなかったが、それでもココアは大きく息を吸い、久しぶりの空気に肺が少し温められる。
1・2回、手を動かすと、草が生茂る場所に行き着き、腕を使って体を持ち上げ、地上に出る。
「〝ぴぴ〟、ありがとう……」
ココアは自分の胸元のブローチを見るが、水の中にいた時に感じた〝ぴぴ〟との繋がりは感じられず、どうやら、また〝ぴぴ〟は眠りについたまま、ココアの声に答えることはなかった。
ここからはまた1人だと、気合いをいれるように立ち上がると、近くからカラカラという聞き取りづらくもなければ、大きな音を立てるわけでもなく心地よく耳に響いてくる音の方を見た。
カラカラと音を立てるそれは水車だった。
「この水車……、そうだ!」
ココアは周りを見渡せば、見たことのある景色がほんの数ヶ月前の記憶の糸を辿る。
「ここ、ワンダーラビリットに初めて来た時にカラットの欠片を集めにきた川だ」
ココアは改めて、川の方を振り向くと、川は虹色に輝いてサラサラと流れている。
(今、ここから上がって来たんだよね……?この中を泳いでいたなんて不思議な感じ、今見ている、この景色なんて作り物みたいなのに……)
ココアは甘い匂い気付き、それが自分からだと分かると、まだ体に付いている雫を少し舐めた。
(あっ……、甘い……。なんかシロップみたいな?) 「ってこんなことしている場合じゃない!急いでお城に向かわないと!!! 確か……お城はこっちだったはず」
記憶を便りにココアはお城に向かって走り出した。
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