第5話 ワンダーラビリットとココア
「早くしないと時間に間に合わなくなるのじゃ、とりあえず、窓を開けるのじゃ」
ココアは言われた通りに部屋の窓を開ける。
夜の少しひんやりとした風がココアの鼻を優しく撫でる。
「そして、ワシの鼻を押すのじゃ」
「えっ!?押すって、ここを?」
ココアは〝ぴぴ〟のブローチの鼻の部分を触る。
「そうじゃ!」
「なんか……すごく押しづらいんですけど」
「早くするのじゃ!!」
「わかったよぉ……えぃ!」
「押しすぎじゃ、痛いのじゃ」
すると、窓の外にシフォンのような布が眩ゆい光を放ち、輝く星に近づこうとするように夜空に向かって折り重なり、それは階段のように伸びてゆく。
「わぁ〜綺麗!」
「そうじゃろう!だが、見とれている場合じゃないぞ!早く、それを登って行くのじゃ」
「この布の階段のこと?フワフワしてるから、落ちちゃうよ」
「大丈夫なのじゃ」
ココアは恐る恐る、シフォンで作られた階段を右足で確かめる。
落ちないことを確認し、一段目に恐る恐る、身体を全部預ける。
「本当だ!大丈夫だ。フワフワだけど、頑丈で不思議な感覚がする〜」
慣れてきたココアはその場で足踏みを繰り返す。
「何してるのじゃ!早く登って行くのじゃ」
「わかってるよ」
ココアは一段一段、階段を登って行く。
「そんなんじゃ、間に合わないのじゃ。走るのじゃ!」
「そんな、走るって言ったって……私、走っちゃダメだもん」
「さっきも言ったじゃろ、心配いらないのじゃ。お主の魂とワシの魂は今繋がっていて、病気の肉体とは今はさよならしている状態じゃ。なんにも、心配いらないのじゃ」
「でも……」
「そんなこと言ってると、ワシが身体を乗っ取ってしまうのじゃ〜」
〝ぴぴ〟がそう言うと、ココアの身体は金縛りにあったように動かなくなり、自分の意志とは関係なく階段を駆け上っていく。
「ちょっと、〝ぴぴ〟!」
しばらく階段を登ると、夜空の空気をふんだんに含んだ雲を通り抜けた。
「わぁ〜凄い、雲を通り抜けちゃったよ!」
すると、夜だった景色が一変し晴れ渡る空色になる。
そこには見たことないパステル色の鳥たちが飛び回っていた。
しばらくして、2羽の鳥がココアに近づいて来た後、ココアの周りを歓迎するように2~3回程飛び周り、仲良く去って行く。
「わぁ〜、鳥さん達、すごく可愛くって綺麗!!そして、いい匂い!春の匂いだぁ〜」
「うむ〜、ワシにはよくわからんの」
「この匂い分からないかな〜」
しばらく走っていると、階段の終着地点のような所にココアの何十倍もの大きさの扉が開かれ、そびえ立っているのが見えてきた。
「すごい大きい扉!」
「あれが、ワンダーラビリットの入口じゃ!」
さらに扉に近づけば、扉の前にうさぎの着ぐるみを着た2人が門番のように立っていた。
「着ぐるみ?」
「着ぐるみなわけなかろう!ちゃんとしたワシの国の住人じゃ」
「へぇ~、凄く可愛いね」
ココアは先程から、心臓が体を突き破って踊り出しそうな程ワクワクが止まらない。
ココアに気付いた門番が「早くしろ!後1分で扉を閉めるぞ」と大きな声で知らせる。
「わわわ、早くしないと!」
「分かっているのじゃ。スピードを上げるのじゃ〜」
するとココアの走りが一段と早くなると同時に門番がカウントダウンをはじめる。
「5」
「4」
「ぬうぁぁぁぁ〜!!」
「3」
「2」
「あと少しぃぃぃ」
「1」
「0」と同時にココアはギリギリ滑り込むことが出来た。
「なんとかなったのじゃ……」
「ギリギリセーフだね!あれ?あんなに走ったのに身体が疲れてないよ!」
「そんなの当たり前じゃろ?」
「ん?当たり前?当たり前……かな」
すると、ココアの目の前をオーロラ色の花びらがその身を風に任せてひらひらと一枚、飛んで行く。
「ん?」
足元を見れば見渡す限り、太陽の光をこれでもかというほど吸収しオーロラ色にキラキラ光を放ち輝く、一面の花畑だった。
「わぁ!綺麗〜」
「見とれている場合じゃないぞ!これから試練があるのじゃ、お城まで〝れっつごー〟なのじゃ」
「私ここでいいよ〜」
「ダメなのじゃ!一緒に夢を叶えるのじゃ」
「わわわ、また勝手に私の身体動かさないでよぉ〜」
ココアの身体は意に反して進んで行く。
「仕方ないのじゃ〜」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます