第19話 クラスと火曜日とココア☆後編


 それからというもの、熱は中々下がることなく、ココアは学校に登校できるまでに一週間かかることになった。

「おはよー!!!!!!」

「お、おはよう……」

 クラスメイトからの挨拶にココアと〝ぴぴ〟は目をまん丸くする。

(なんか……)

「なんか……パワーアップしておらんか?」

 〝ぴぴ〟のその言葉にココアは小さく頷いた。


 ホームルームのため山田先生が教室に入ってくるがその様子は一週間前と違っていた。

(山田先生……疲れてる?)

 ココアの目に見ても憔悴しきっていた。

 ホームルームも足早にすぐに1時間目の準備に入るよう指示をする。

(まだ、1時間目のチャイムも鳴っていないのに)

 文句の一つでも出るかと思っていたが、クラスメイト達も山田先生の指示に従い、素早く1時間目の準備を始めた。

「皆さん、準備はできましたか?」

「皆、できてるよな?」

 鳴海シンジがクラスメイト達に問いかけると合わせて「は〜い!!」という返事が返ってくる。

(鳴海くん、宿題を必ず忘れるくらい勉強なんて嫌いなのに……。どうしちゃったんだろう……。)

「では、この間の場所を開いてね。古典の続きをやりましょう」

(こ、古典??)

 ココアは国語教科書をペラペラと捲る。

 そのページはココアが一週間前に習っていたところよりもずっと先に進んでいた。

(ちょっと、私が休んだ間にこんなに進んだの?)

「先生!そこは終わったはずです!」

(えぇぇぇぇぇぇーーーー?)

「ごめんなさい……、そうだったかしら」

「先生!!ちゃんとして下さい!」

「僕たち、勉強したいんですから!」

「予習もしているのに」

 次々に山田先生を責める声が湧き上がる。

(ちょっと、ちょっと、皆……どうしちゃったの……)

「本当にごめんね……。あっ、そうだ60ページからだったわね。60ページから始めますよ……」

 はぁ……と山田先生が小さく溜息を吐くのをココアは見逃さなかった。


 その次の授業でも、またその次の授業でもココアが休む前と比べて、遥かに進んでいた。

 山田先生はその度にどこかしらで責められおり、時には、目を背けたくなる程のキツイ言葉も掛けられていた。

「やっぱり変だよ……」

「変なのは分かるが、皆がやる気になって、どんどん授業が進んでいるだけにも思うのじゃが……」

 どうしても気になったココアは休み時間に階段の踊り場までくると、〝ぴぴ〟を手のひらの上に乗せて、話をする。

「ううん、絶対変!365日1時間も勉強をしない鳴海くんがやる気になる訳ないよ」

「酷い言い様じゃの……」

「それに先生が可愛そう……。学級崩壊なんて程遠いクラスだったと思っていたのに、これじゃあ、皆のやる気のせいで学級崩壊になっちゃうよ……」

「皆のやる気で学級崩壊というのも、変な話じゃの」

「それに先生、クラスに入って来た時、元気なかった……。やっぱり疲れているんだよ」

「うむ……」

「ねぇ、〝ぴぴ〟!カラットのせいとかはない?」

「カラットじゃと!? うむ……なくはないと思うがの……。人をやる気にさせるカラットか……」

「うん……。探すにしても放課後じゃないとだね。後、3時間……。私がヘトヘトになりそう。もう授業についていけないもん」

「カラットの暴走じゃなければ、これからずっとこのままじゃの」

「……カラットのせいだって言ってよぉ~」


 帰りのホームルームも終わる頃にはいつもの元気な山田先生はどこに行ったのやら、やつれたという言葉がしっくりくるだろう、小さな元気も残っていないようだった。

 ココアもクラスメイト達のやる気にはついていけず、今日一日で大分エネルギーを消費し、机の上で伸びていた。

「また、熱出そう……」

 その2人とは反対にクラスメイト達は時間を追う事にヒートアップしており、ホームルームが終わった今、壊れたおもちゃが一斉にこの場所に集められたかのようにガヤガヤと大きな声を出しながら、放課後何をするか決めているようだった。

「ココア!益々酷くなっている気がするのじゃ!早く家に帰って、変身してから、学校を調べるのじゃ!」

 ココアは〝ぴぴ〟の問いかけに体をムクっと起き上がらせ、机の中から適当なノートを出すと、さらさらと書き始めた。

 そこには『今週、掃除当番なの』と書いたメッセージを〝ぴぴ〟に見せる。

「なんじゃと!? 聞いておらんぞ」

『言ってないもん』とさらに書き、パタンとノートを閉じるとココアは立ち上がり、教室の後ろにひっそりと佇む細長いロッカーの中から、箒を取り出した。

 一緒の掃除当番の他4人は、掃除にも気合いが入って居るようで、ココアの3倍以上の速さでどんどん机を後ろに寄せて運んでいく。

 ココアが2脚目を運んでいる途中で皆は運び終えてしまい、さっさと掃除に取りかかる。

 ココアが箒を持った瞬間には掃き掃除は終わってしまい、4人は今度は机を前に寄せ始めた。

(もう全然…追いつけないよ…早送りしているみたい)

 またもや2脚目の机を運び終えた頃には、4人は掃除を終えており、机を元の位置に戻していた。

 ココアも何とか追いつき、机を運んでいる時だった。

 その机の中から〝ゴトッ〟と何かがココアの足元に落ちた。

 確かここは鳴海くんの机だったはずと考えてながら、それに手を伸ばし、手が止まる。

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーー」

「びっくりした!!!新道さん、どうしたの?いきなり」

「ははは……。ごめんね。何でもないよ……」

 一緒に掃除当番をしていたクラスメイトが一瞬動きを止めたが、何もないとわかると、瞬時に自分達の仕事に戻った。

 先程のココアの声に机の上で待っていた〝ぴぴ〟も口からトランクを取り出しココアの近くまで飛んでくる。

「ココア、どうしたんじゃ?」

 ココアは〝ぴぴ〟にそう問われ、落ちてきたそれを指でさした。

「なんと!?カラットじゃな」

 ココアは数回、首を縦に振ると、〝ぴぴ〟にクラスメイト達にバレないように小さくジェスチャーをする。

「なにぃ?えっと、カラットを……浄化しないとじゃが……えっと………だめじゃ、わからん……」

 ココアは〝ぴぴ〟の言葉に項垂れるが、諦めずに続ける。

「えっと……カラットを回収して、うむ……走る?いや……帰る?」

 その時だった。

「新道さん……何をしてるの?」

 掃除が終わったクラスメイトから声が掛かった。

 ココアは一瞬、体を〝ビクッ〟と強張らせ固まるが「何でもないよ」と言っただけで、特にそれ以上の追求はなく、ココアも胸を撫で下ろした。

「じゃあ、掃除も終わったから、私達帰るね!」

「う、うん。また明日!」

「新道さんも早く帰って、今日の復習しないと」

「そ、そうだね。ありがとう」

「じゃあな」

「バイバーイ」

 クラスメイト達がそれぞれ、ココアに声を掛けると、足早に教室を後にする。

 教室の掃除当番が最後になるこのクラスでは必然とココアが教室に1人残された。

 1人とはいえ誰がいつやってくるか分からない教室でココアは小声で〝ぴぴ〟に話掛ける。

「とにかく、変身しないとだね」

「あぁ、誰もおらんし、ここでいいんじゃないかの?」

「ダメだよ!!先生でも戻ってきたら、どうするの?」

 ココアはそう言うと、〝ぴぴ〟を肩に乗せ、教室を出た。

「ココア!どこに行くのじゃ?」

「トイレ!」


「トレイなら、今通ったじゃろう?」

 ココアは近くのトイレではなく、なるべく人が来なさそうなトイレを見つけ、中に入って鍵を閉めた。

「なるべく、見つからないほうがいいでしょ?」

「それは、そうじゃが……」

「それじゃあ、〝ぴぴ〟いくよ!我が身に宿りし魂よ、古に伝わる魂と融合せよ」

 ココアの体は眩い光に包まれ、光が消えると同時に自分の体はゆっくりと洋式トイレに腰を掛け、〝ぴぴ〟の魂と融合した魂の姿でココアはすぐ洋式トイレを後にした。


 教室に着くとココアはランドセルからステッキを取り出した。

「なんじゃ、持ってきておったのか?」

 〝ぴぴ〟が少し呆れたように聞く。

「だって、いつカラットが見つかるかわらないでしょ? 念の為だよ!」

 ココアはカラットに近づき、「ピュリフィケーション!!」とステッキを振りながら唱える。

 ココアの目には正しく浄化されているのか、分からないが〝ぴぴ〟の「〝おーけー〟なのじゃ」の一言を聞き、教室の床に落ちていたカラットを拾い上げる。

 遠目に赤っぽいカラットだなぁと思っていたココアは手にしたそれを改めて見る。ガラス玉の中にゆらゆらと揺れる炎を閉じ込め、その周りには赤やオレンジ色の宝石のような石で装飾されていた。

「綺麗ー…………」

 カラットを見るココアの瞳が一緒に揺れる。

「おう!ココア、やったのじゃ!」

「うん?」

「これは火のカラットじゃ!」

「えっ!?火? じゃあ?」

「これで、最初に集めるべき、3つのカラットは集まったのじゃ」

「本当!?やったー!! また、ワンダーラビリットに行けるんだね?」

「そうじゃ! よくやったのじゃココア!!」

「ううん。私、1人じゃきっと出来なかった……〝ぴぴ〟もいてくれたからだよ!」

「なんじゃ……なんか照れるのじゃ……」

「それよりもこれできっと、皆、元に戻るんだよね? てっきり、やる気のカラットだと思っていたのに…… なんでだろう?」

「うむ……、ワシの憶測になるのじゃが、きっとこの火のカラットが皆の心に火をつけてしまったのじゃ」

「何それ……そ、そんなことあるの!?」

「まぁ、カラットの暴走がどんな風になるのか、ワンダーラビリットの住人でも全然わからないからの」

「そうなんだ……」

「あぁ、次はいよいよ、光のカラットを手にする試練じゃな。心してかかるぞ」

「うん。頑張ろうね」

「そうじゃな」

「きっと、〝ぴぴ〟と一緒なら大丈夫だよ」

 ココアは手の中にあるカラットに写る自分の顔を見つめた。



 やはりクラスメイト達のやる気はカラットの暴走が原因だったようで、次の日には今までの平穏なクラスに戻り、その間の出来事もクラスメイト達の記憶から消されていた。

「いや~、もとに戻ってよかったのじゃ」

 ココアは〝ぴぴ〟の言葉に首を縦に振る。

 今日一日使用した机の中の教科書や筆記用具をランドセルの中に仕舞う。ランドセルを背負い、まだ数人残っているクラスメイトに挨拶をして、教室を出ると肩に乗っていた〝ぴぴ〟がココアの三つ編みを意味ありげに引っ張った。

「何?〝ぴぴ〟?」

 まだ、教室にいるクラスメイト達に気付かれないように口パクで話すと、〝ぴぴ〟は廊下の掲示板を手で差した。

「あっ」

「この間の自然教室のレポートが張り出されているのじゃ」

 ココアは自分のレポートを探す。

 ほとんどのレポートが富士山の事が書かれている中、ココアの題材は『私と御神木』というタイトルで書かれている。

「これは私だけの貴重な思い出だもん」

「そうじゃな。なかなかいいレポートだと思うのじゃ」


『老木のため伐採が決まった御神木、私はこの日この御神木とさようならをしましたが、またいつか、会える気がするのです』


ココアは目を逸らしながら少しはにかんだ。

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