第34話 繋がる過去と現在とココア☆現在

「私に考えがあるわ」

 目の前の少女はココアを見てそう言った。

 ココアの中でその言葉が反復する。

(なんか……何か……今、チラついた……ダメ、今はカラットを浄化することに、集中しないと! 学校の外に出たら、大災害になっっちゃう。今までのカラットは、私でも後処理が出来るものがほとんどだったけど、これは規模が違う!!)

 ココアは少女に言われた通り走り出す。

『この地割れを起こしているのは一つだけ、地割れの先頭が動くことで、地面にヒビが入っていってる。幸いあの地割れは後ろに進むことはできないし、私たちを避けてくれているみたい。ならば、その地割れが起きないように私達で追い詰める!!』

 そう言って、少女は口角を少し上げて笑ったのだ。

 地割れは生き物のように動く。

 少女は校庭の真ん中で地割れを通せんぼするように立つと地割れは、左に向かって再び走り出す。そこにココアがまた通せんぼをして、地割れの行く手を阻む。

 2人はある一点を狙っていた。地割れを校庭の四隅の一つに追い詰めること。

 地割れが作り出す揺れに耐えながら、ココアは再び走り出す。

(ここでまた、私が通せんぼをして)

 ーーーここで、私が通せんぼをするーーー

「!?」

(何、今の!? 何か…… ダメ……)

 目の前の少女がココアに叫ぶ。

「新道さん!! もう少しよ!!頑張って走って!!」

 ーーー頑張って走りなさい!もう少しよ!!ーーー

「!?」

(まただ……記憶が……)

 ココアは頭を振る。

(今は、今は目の前のカラットに集中しないとなのに……!!)

 ココアと少女は地割れを何とか四隅の一つに追い込む。すると、行き先のなくなった、地割れは降参とでも言うように地面の中から、ボコボコと土を掘り出してガラス玉を出した。

「今よ!新道さんが浄化して!!」

 ーーー今よ!あなたが浄化して!!ーーー

 ココアはハッと少女の方に顔を向けると、力強く頷き返す。

「ピュリフィケーション!!」」

 ーーーピュリフィケーション!!ーーー

 その言葉と同時にココアの中の奥深くで眠っていた記憶が掘り起こされたように顔を出す。

 過去と現在の線がココアの前で一本道を作るように重なりあった。


 ココアはカラットを手に取り、それを見つめる。


 自分の目の中に入り込んでくるそれはガラス玉の中に虹色の地層を作っていた。

 下から、紫、青、水色、緑、黄色、オレンジ、赤と鮮やかに色を重ねている。

 地層が岩石や土砂と共にその中に長い年月を掛けて作り出されたように、ココアも1・1・年・分の記憶を積み重ねてきた。

 そして、今少しずつ封印をされていた記憶が蘇る。

「その、カラットはあなたの物よ」

 ココアはゆっくりと顔を上げて、目の前の自分に微笑みかけえるアゲハ蝶のような少女の名前を呼ぶ。

「中・前・さん……」

「何?」

「ねぇ、中前さん……。私、一・年・前・に・あなたに会ってるよね……?」

 目の前の少女は少しずつ目を見開いていく。

「!?」

「あの時もそうだった。中前さんは私を助けてくれた。今まで、忘れてた。私は一年前もカラットを集めてた……。まだ、全てを思い出してないんだけれど、私は中前リサさん、あなたに会ってる……」

 リサは驚いた様子でココアを見た後と口に手を当てて、考えている。

「ごめん。新道さん、私思い出せない……。私と新道さんが会ってる?一年前に?」

「うん。思い出した。きっと……心が……心が覚えてくれていたんだと思う」

「心……?」

「うん。夏休みに会ったお爺さんに教えてもらったの。大切なことは心が覚えてるって……。少しずつ思い出しているの。一年前のこと、本のカラットでは御伽噺の中に入ったし、光のカラットの試験は大変だったのに、中前さんに取られちゃったりして……そして、幻想のカラットを手にした時に初めて会った……」

「ごめん。私まだ思いだせないわ」

「ううん。試験に落ちちゃったら、記憶を消されるって、〝ぴぴ〟に教えてもらったの。こうして思い出せたのもきっと運がよかったんだと思う。きっと一年前の試練で、私は夢を叶えられなかったんだと思う」

 リサはしばらくココアの話を黙って聞いていた。

「でも、私また、中前さんに会えてよかった。中前さん……その……一年前は寿命が……短いって話してたから……中前さんに奇跡が起こってよかった。また、こうして、会えたんだもん」

「ごめんなさい。私本当に……思い出せなくって……。でも、私、どうしても会いたかった人がいるの。カラットを集めて、叶えてもらうつもりだった」

「そうだったんだ……。よかったの?この土のカラット……私に渡しちゃって?」

 リサは首を横に振り、優しい声色で答えた。

「その話をしたいんじゃないの。今回はカラットをあなたにあげても私はまた、すぐにまた、土のカラットを手にできると思っていたわ。でも今、叶った気がする」

 ココアは首を傾げる。

「私はね。奇跡的に病気が治って行く中でなんとなく感じていた。会わなきゃいけない人がいるって……でも、その人の顔も思い出せないし、その人の名前なんてもってのほか。でも、絶対に会って、お礼を言わなきゃいけないと思っていたの」

 リサはココアの目に焦点を合わせる。

 リサの吸い込まれそうな力強い瞳にココアは視線を逸らせなくなる。

「きっと、あなただわ。新道さん。あなたの……いえ、あなたが会ったお爺さんの言葉を借りるなら……心が覚えていたんだわ。あなただって……。


 ありがとう」



 その瞬間、リサの瞳から一つの涙が頬を伝った。

「いやだ……。私、涙脆くないのよ……。まだ、一年前のこと思い出せないのに……泣いちゃうなんて……。どんだけ、浸っているのって話よね」

 そう言って、リサは顔を隠しながら背を向けた。

「じゃ……じゃあ、そういう事だから、この後も頑張りなさいよ! ちゃんと、自分の夢、叶えるのよ」

 そう言って、リサは去っていく。

「こっちこそ、ありがとう!」

 その声を聞いて振り向いたリサの目と鼻先はまだ、ほんのりと赤かった。

「何がありがとうなのよ!」

「えっと、土のカラットのこととか、お礼のお礼と、応援してくれていることとか……かな?」

「変な子」

 リサは「ふっ」と笑いをこぼすと手を振り去っていった。

 ココアはリサの背中を見送った後、上がっていた口角を途端に下げる。

 一年前の記憶を少し取り戻した今、何よりも聞かなければいけない相手がいる。

 なぜ、自分は〝ぴぴ〟と再びカラットを集めることになっているのか、100年に1度の開催と言われたこの試練がなぜ、2年続けて行われているのか。

「〝ぴぴ〟……〝ぴぴ〟は全部知っていたの?」

「……」

「なんで、答えないの? 何か、言えない事があるの?」

「それはじゃな……、今は言えないのじゃ……」

「そんな……」

 その瞬間、ココアの耳はプチっと何かが切れたような音を感じ取った。

 暗闇に突如放り出されたココアは自分の部屋で目を覚ます。

 服は変身前に着ていたお気に入りの淡い水色のカットソーに白のスカートだ。

「〝ぴぴ〟との繋がりが切れた?」

 周りを探しても、うさぎのぬいぐるみ……〝ぴぴ〟はいない。

(私が起きる前にどこか行っちゃったんだ。あんな風に〝ぴぴ〟を疑ったことはなかった……。〝ぴぴ〟を信じられなくなったから? 自分の意思で変身を解く前に繋がりが切れたの?)

「〝ぴぴ〟……どこ行っちゃったの?ちゃんと、お話しようよ……」

 ココアの声が部屋の中で静かに響く。

 窓の外は光をゆっくりと闇に落としていった。

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