第35話 ココアと最後の試練☆
あれからどのくらい時間が経っただろうか……
1日経っても、2日経っても〝ぴぴ〟は帰ってこなかった。
ココアの部屋の時計の針は10の所を指しており、2時間後に今日が終わろうとしている。
〝ぴぴ〟はいないのにココアの日常はただ、過ごすだけで時は流れていく。
ご飯が喉を通らなくても、動作が遅くなっても時間は待ってくれなかった。
(〝ぴぴ〟どこに行っちゃったんだろう……。話がしたいのに……)
ベッドの中に入り、目を閉じても、すぐに開いてしまう。自分が寝ている間に〝ぴぴ〟が帰って来るのではないかという思いがココアの頭の中に淡く残っていた。
暗く静かになった部屋の中では時計の針の音だけがチクタクとココアの不安を煽るように時を刻んでいく。
(カラットを集めたのに……。これじゃあ、最後の試練も〝ぴぴ〟がいなきゃ、受けられない……。ううん。違う。〝ぴぴ〟がいなきゃ……意味ない。〝ぴぴ〟と一緒じゃなきゃ、夢を叶えても意味がないよ……。〝ぴぴ〟……)
最近のココアはこんなことを考えているうちにいつの間にか寝てしまう。疲れた体は自分の意志とは関係なく睡眠を欲しがるのだ。
でも、今日は違った。
更に夜が深まった頃、ココアは目を覚ました。
誰かに夢の中で呼ばれた気がしたのだ。
それに導かれるまま、歩いていたら、目が覚めた。
ココアは上体を起こし、真っ暗になった自分の部屋を確認したが、周りには誰もいない。やはり勘違いだったのだろうかと、布団に戻ろうとした時、ココアの目の前に手のひらよりは大きいが明らかに小さい何かが踊り出た。
「〝ぴぴ〟!?」
しばらくすると、輪郭ははっきりしてくる。
「〝ぴぴ〟……じゃない……」
そう呟いたココアの声は天から地へと落とされたような暗さを含んでいた。
ココアが手のひらを広げて見せると、花びらのスカートを広げてソレはちょこんと恭しく座る。
「あなたは……女王に仕える精霊さん……」
精霊は立ち上がると足を一歩下げ、スカートの裾を持ち、首を傾げ挨拶をした後、その姿を巻物に変えた。
ココアは部屋の電気を付け、巻物を広げる。
『ココア殿 これから闇のカラットの試練を開始する。 ワンダーラビリット女王』
「そんな……闇のカラットの試練て言ったって、〝ぴぴ〟がいないんじゃ……」
巻物から元の姿に戻った花の精霊はただ、つぶらな瞳でココアを見ているだけだった。
部屋が明るくなって、花の精霊が頭に黒紫の花を咲かせていることに気付く。光の角度や見方によっては、赤っぽくも黒っぽくも見える不思議な花だ。
「ブラックコスモス……」
ココアが呟くと同時に部屋の中にココアよりも背の高い黒い装飾鏡が出現した。
鏡、縁全てが黒く、縁はいろんな種類の花で見事に装飾されている。
「な…何!?」
ココアは精霊をベッドの上にそっと乗せると鏡に近付いた。
突然現れた鏡に驚きながらもココアは恐る恐る触ってみる。指先にはひんやりと冷たい感触が手に残り、今のこれが夢ではないことを示していた。
「えっと……どうしたらいいんだろう……、こんなのいきなり現れても……」
黒い中にぼんやりと移る自分を見つめる。
〝ぴぴ〟がいないまま始まろうとしている闇のカラットの試練。話ができないまま消えてしまった〝ぴぴ〟。黒い鏡に移る自分は今のココアの心をそのまま写しているようだった。
すると、黒い鏡に白い文字で言葉が浮かび上がる。
『あなたにとって、闇のカラットとは?』
ココアは1音、1音噛み締めるように呟く。
「あなたにとって……闇のカラットとは……? 私にとっての闇のカラット?」
ココアは少し考えた後、その問いの答えをすぐに出した。
「私にとって闇のカラットは夢を叶えるための最後の試練」
目の前の黒い鏡はココアの答えと同時に黒い影を溶かし始め、よくある鏡へとその姿を変えていく。
「普通の鏡になった」
ココアは鏡の周りを探る。鏡の周りには特に何もない。
「? ここから何かあるの?」
すると、近くで見ていたブラックコスモスの花の精霊がココアのところまで飛んできた。
どうやら、先を進めというようにココアの背中をマッチ棒のような細い腕で一生懸命押している。
「えっ!? このまま進むの?この鏡の中に入るの?」
ココアが聞いても、精霊は答えない。ただ、その背中を黙って押し続けている。
「わかった!わかったよ!でも、今パジャマだから着替えさせて!!」
ココアは半袖の淡い水色のブラウスとベージュのキュロットスカートにササッと着替える。
改めて、鏡の前に立つが、この鏡の中に飛び込めるものなのか疑心が募る。
(本当にこの鏡の中に飛び込めって言っているの?)
「ねぇ、行く前に〝ぴぴ〟がどうしているかわかったりする? その……ね、〝ぴぴ〟がいないのに、試練をするなんて……って思うから……」
着替えを待ってくれていた花の精霊を見れば、つぶらな小さな目はやや細められ早く行けと言っているようにも思えた。
「答えてくれないよ…ね……。わかったよ。じゃあ、行ってきます……」
ココアは恐る恐る、一歩ずつ前に進む。
鏡に頭をぶつけるかも……という疑心を持ちながら、目をギュッと瞑り、ひんやりと冷たいものが額に触れたと思った瞬間、それはマシュマロのような柔らかい、それでいて優しく包んでくれるような感触に変化した。
そこからは簡単で、それに身を任せるだけで、新しい空間へと移動した。
自分の部屋とは違う空気の匂いや重さに閉じていた目を開けると、そこはやっと周りが見渡せる薄暗い場所に先ほどと同じ黒い鏡がココアの周りを埋め尽くしていた。
しばらく歩けば、鏡に通せんぼされ、来た道を引き返す。先ほど通らなかった道を行けば、また新たに鏡に通せんぼされ、来た道を引き返す。
「これ……迷路だ……」
ココアはゴクリと唾を飲み込む。
(これが闇のカラットの試練……?ゴールに着いたら合格?分からない。でも、 取りあえず、進もう。ここから出られないのもいやだし)
ココアは現れた鏡の迷路を1人黙々と歩き続けた。
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