第11話 偽りの火曜日とココア☆後編


 ココアと〝ぴぴ〟は再び学校に戻って来ていた。

 先程と違うのは今はお互いの魂と魂が繋がれて一つになっていることだ。ココアの肉体は今は自室で眠っている。今のココアの姿は誰にも見えない。

 そして、学校では先生達が何故この場所だけが暑くなっているのか、原因を探しているようだった。

 ある先生は職員室でパソコンや携帯で探しながら、ある先生は校庭や教室を探し回ったりしている。

「先生達、暑い中で頑張ってくれているんだね」

 ココアは汗をダラダラと流しながら探し回る先生達の横を堂々と通り過ぎる。

「本当に先生達も大変じゃな」

 ココアは先生達にペコリと頭を下げる。

「うん。こうやって、私達が安全に勉強をできるようにしてくれているんだね」

「そうじゃの……」

「先生達もかなり暑そうだし、カラットを早く見つけてあげよう!〝ぴぴ〟」

「そうじゃな。少しづつじゃが、気温も上がっているようなのじゃ。早く見つけてあげないと、先生達が熱中症で倒れてしまうじゃ」

「そうなんだ……。今の私じゃ暑さを感じないせいか、さっきよりもどのくらい暑くなってるか、わからないよ」

「数字にしてみれば、5度くらいかの」

「ご、5度!? さっきでさえ真夏ぐらいの暑さだったのに……」

 暑さを想像するだけで、体力が奪われそうになるココア。

「カラットも大分、暴走してきているのじゃ」

「でも、〝ぴぴ〟、カラットを探すといってもどこを探せばいいの?」

「そんなことワシに言われてもわからんのじゃ。すぐにカラットの場所が分かれば、この間の試練も苦労せんわ」

「そうだよね……ってことは」

「探すのはこの学校全体じゃ」

 世界から見ればほんの小さな建物。でもココアからすれば自分よりも、ましてや自分の家よりも大きな場所だ。

「うぅぅ……」



 ココアは一番南端にある体育館から始め、各教室を探していた。教室ではできるだけ机の中まで。

「すごく気が遠くなるよぉ……」

「頑張るのじゃ」

「〝ぴぴ〟はいいよ!ブローチになった今は私の胸にくっついているだけだもん。猫の手も借りたいよぉ~」

 ココアの口からそんな愚痴が出始めた頃には外は日が落ち始め、教室から校門を見れば、諦めたのか、それともまた明日に持ち越すのか、先生達がポツポツと帰り始めていた。

「〝ぴぴ〟……。私、夜の学校は嫌だな……」

「それじゃあ、早く見つけるのじゃな」

「先生も帰り始めてるし、本当にやだよ~。そうだ!夕飯の時に私がいなかったら、ママも心配して部屋に見に来るだろうし、起こしても起きない私がいたら、あんなことや、こんな事態になっちゃうかも……だから、あまり遅くなるようだったら、また明日にしようよ!」

 ポンと手を叩くココア。

「うむ……そうじゃの」

「ねっ?」

「でも、いいのかの?明日にしたら、また明日先生達が暑い中頑張ることになるのじゃぞ!気温も1日経てば今日よりずーっと暑くなっているのじゃ。それでも構わないと言うなら、全然いいのじゃ」

「そ、それはダメ!」

「我儘じゃの~。そしたら、できるところまで頑張るのじゃ」

「うぅぅ……。わかったよ……」


「ねぇ、〝ぴぴ〟」

 突然、さっきまでのココアの声とは違って、地に足が着いたようなトーンに変わった。

「なんじゃ?」

「すごく綺麗じゃない?」

 気付けば教室が徐々にオレンジ色に染まり始めていた。沈みゆく夕日をもっと見ようと、ココアは引き寄せられるように教室の窓に近付いていく。

「ほぅ、綺麗じゃの……」

「こんなことしてなかったら、見れてなかったね。ほら、校庭なんてオレンジ色の海みたい……。 あれ?」

「どうしたのじゃ?」

「あそこ!」

 ココアは校庭の真中を指差す。

「何か光った」

「うむ……」

「〝ぴぴ〟わからない?ちょっと、行ってみようよ?」

「ちょ、ちょっと待つのじゃ」

 ココアは2階にあった教室を飛び出すと近くの階段を駆け下りて、校庭まであっという間に辿りたく。

「確か……ここら辺だったと思うんだけれど」

「ココア、カラットを探さないとじゃ……」

「でも、気になるの……」

「早くしないと夜になってしまぞ?」

「あ、あそこだ!!」

 ココアはバスケットゴールを差した。

 光を放つものはバスケゴールのリングと網に挟まっているようにあった。

「おお!!でかしたのじゃ、ココア!あれはカラットじゃ」

「えっ!?本当に?でも、あれじゃ取れないよ……」

 見事にリングと網に挟まっているカラットを見上げる。今年になってやっと147cmになったココアにはバスケットのゴールは遥かに遠い存在だ。

 ココアは何かないかと周りを見渡すが、これといって、長い棒のようなものは見当たらない。

「あっ!」

 何かを見つけたココアは小走りでそこに向かいそれを拾い上げる。

「確か、誰かが後1つが見つけられなかったって言ってたボールかも。これでとれるかな?」

 それはココアのクラスの授業で使われたバスケットボールだった。

「うむ……」

「これをゴールしたら、カラットも落ちてくるかも」

「ココアはバスケットボールをしたことがあるのかの?」

「ううん、ない!でも、このボールをあそこにゴールすればいいんでしょ?大丈夫だよ!」

「そんな簡単にいくかの?」

「と、とりあえず、やってみないと。早くしないと暗くなっちゃうし」

 ココアはボールを両手に構え、ゴールに向かって投げる……が、どうにも様にならない構えでボールを投げるのでボールはバッグボードに当たり見事に跳ね返る。

「あっ……」

「言った通りじゃ」

「で、でも思ってたよりいい線いってたと思わない?」

「まだまだ、だったと思うのじゃ」

 その後もココアは何度かチャレンジをするが、ボールはバッグボードに当たって跳ね返るか、もしくはまったく届かず、ころころと転がっていくかの繰り返しだった。

「ダメだ……」

「ココア、諦めて届きそうな長い棒を探すのじゃ」

「ううん。頑張る!」

「入らなくても仕方ないのじゃ。ココアは運動が出来ないのじゃから、上手くいかなくてもあたりまえなのじゃ」

「そうだね……」

 ココアは背筋を伸ばし前をじっと見る。

「でも、私は病気で運動が出来ないけれど、今はこうやって体を動かせるんだもん。そして、そう遠くない未来に私は絶対に病気を治すの!その時に人よりブランクがある分、また出来ないっていう壁に当たることがあると思う。その時に諦めたくないから。病気を理由に出来ないは嫌なの」

 そう言ったココアの目はただ、目の前のバスケットゴールを見ているだけではなさそうだった。

「ココア……。わかったのじゃ、付き合ってやるのじゃ」

「〝ぴぴ〟……ありがとう」

 ココアはもう一度、ボールをゴールに向かって投げる。ボールは綺麗な軌道を描き、バスケットゴールにシュートされたと同時に、挟まれていたカラットが勢いよく飛び出し、ココアの頭上を飛んで行く。

「〝ぴぴ〟、ヤッター!ゴールしたよ!!」

「ココア、やったのじゃ!盛大に喜ぶのは後じゃ、今はカラットが飛んでいったほうに行くのじゃ」

「う、うん」

 ココアはカラットのほうに走っていくとどうやら何かにぶつかったようで、数メートル先に転がっていた。

「あった!」

 ココアはカラットを拾い上げようと手を伸ばした時だった。

「待つのじゃ!」と突如〝ぴぴ〟が静止を掛けた。

「な、何?」

「そのカラットは地上の穢れを集めて暴走しているのじゃ、気安く触るのは止すのじゃ」

「じゃあ、どうするの?」

「浄化で穢れを祓うのじゃ」

「じょ、浄化?そ、そんなこと出来るの? 」

「あぁ、ワシと魂が繋がっている今なら出来るのじゃ、とりあえず、カラットの近くで〝ピュリフィケーション〟と唱えるのじゃ」

「……」

「……」

「えっ?……それだけ?」

「そうじゃ!まぁ、それっぽく手をかざしてみるといいんじゃないかの」

「じゃ、じゃあ……やってみるね?」

「信用してないのじゃ……」

 ココアはカラットに近付き手をかざす。

「ピュリフィケーション!!」

 カラットは目に見える変化はなく、ココアの思っていた以上に呆気なく終わる。

「えっ!?終わり?」

「終わりじゃ!穢れも綺麗さっぱり払われたのじゃ。触っても大丈夫じゃ」

 ココアはおずおずとカラットを拾い上げ、装飾の施されたカラットを見つめる。

 カラットはオレンジ色の輝く光を閉じ込め、周りを赤色や黄色の宝石のような石で装飾がされていた。

「わぁー、前のカラットも素敵だったけれど、このカラットも素敵!これで2つめの……」

「むむ!ココアこれは〝ひ〟のカラットなのじゃ」

「うん!火のカラットでしょ?」

「火のカラットではない!〝陽〟のカラットじゃ」

「ん?うん?火のカラットでしょ?」

「違うのじゃ。火のカラットじゃなく、太陽の〝陽〟のカラットじゃ」

 ココアは数秒瞬きをした後、やっと言われた意味を理解した。

「……えええぇぇぇぇぇぇぇぇ~」

「偽物じゃ」

「偽物があるなんて聞いてないよぉ〜」

「ワシは言ったのじゃ。ココアが最後まで聞く前に学校に行くからじゃ」

「それは言ったうちに入らないよ」

「とりあえず、ワシの口にカラットを持ってくるのじゃ」

「〝ぴぴ〟、話し逸らさないでよ」

「知らないのじゃ〜、早く持ってくるのじゃ」

「もう!〝ぴぴ〟ってば」

 ココアの手にしていたカラットが自分の口元に近付くとそれをパクッと飲み込む〝ぴぴ〟。

「とりあえず、家に帰るのじゃ」

「ぴぃーぴぃー!!」

「もう、7時じゃぞ!早く帰らないと母上が心配するのではないのかの?」

「えっ?そんな時間!早く帰らないと!」

「まぁ。とりあえず、ワシのおでこを触るのじゃ。肉体の所まで一瞬で戻れるのじゃ」

「〝ぴぴ〟また、後で話するからね!」

「むむっ……」

 ココアは言われた通り、〝ぴぴ〟のブローチのおでこを触る。

 するとココアの意識は徐々に遠くなり、しばらくすると完全に意識は途絶えた。

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