第2話 帰り道とココア

 終礼が終わり、皆思い思いに一斉に席を立つ。

 小学校4年生という遊び盛りのクラスメイト達は放課後、遊ぶ約束をして帰る。

 ココアはこの時間も苦痛だった。自分に声が掛かることはない。

 運動をしてはいけない、 走ってはいけないというこの身体は誰にとっても重荷なのだ。

 真っ先に、誰よりも早くココアはクラスを出る

 イジメられているわけではない。反対に何かあれば、皆労わってくれる。それが申し訳なく、なおココアの心を寂しくさせた。


 自分でさえ分からない、目には見えないどこかで何かが悪さをしている…毎週突きつけられる一向に良くならない病院の数値。

 それが……それだけが自分は病気なのだと突きつけられていた。


 ココアは家に帰るまでの時間が好きだった。

 家に着けば、身体を疲労を回復させるため、お母さんにすぐにベッドで横になるように言われる。それまでの時間がココアにとっては監視の目もなく自分が自由に出来る時間だ。

 学校の近くにある公園を通り過ぎれば、立派な木が並ぶ街路樹がある。今は鮮やかな瑞々しい緑達がそよそよと流れる風に身を任せているが、秋になると赤や黄色といった色鮮やかな紅葉が少し寒くなってきた人々の心をふんわりと優しく温めてくれている場所でもある。その下には人間の手が入った花が花びらをいっぱいに広げてやっと訪れた春を喜ぶように綺麗に咲いていた。

 ココアはその花に近づく。

 桜が咲くと同時に色鮮やかな花が並ぶようになり、最近はそれだけでココアの心はワクワクしていた。

 土の色が見えない程、植えられた花は仲のいい家族のようで花同士が会話をしているようだ。

「こんにちは!今日は何をしていたの?」

 ココアが周りに聞かれないようにボソボソと花達に語りかければ丁度、風が流れ、花びらが軽く揺れ自分の問いに答えてくれているようだった。

「花びらが濡れてるね!水をもらったばかりなんだね ……あれ? 何か…埋まってる?」

 ココアは花の間からキラっと光る何かを見つけた。

 花を傷つけないように堀り出せば、それはココアのまだ幼い両手に収まる程のガラス玉だった。

「水晶、かな? なんだろう?何か描いてある?」

 土で汚れたガラス玉を毎朝、お母さんが用意をしてくれるハンカチで拭く。

 ココアがガラス玉だと思ったそれには、所々に宝石のようなキラキラした石が埋め込まれており、どんな技法を使っているのか……水がガラス玉の中に閉じ込められていた。ガラス玉を揺らす度に中の水がぴちゃん、ぴちゃんと揺れる。

「きれい……」

 ココアはガラス玉をハンカチで包みランドセルにしまった。

(誰かの落し物かな?交番に届けた方がいいよね……)

 でも、そろそろ、帰らなければお母さんがまた心配をする。

 (明日の放課後に行こう。)

 そう決めて、家に向かって歩き出した。急いでいても走れない体と共に。

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