第44話 新道ココア☆
白い螺旋階段も大分歩いた。そろそろ、下界に着く頃だろうか。
この螺旋階段は下に向かいながらピンク色の桜の花弁、青い若葉、赤や黄色が映える紅葉の葉が順番に舞っていた。
ココアが今歩いている場所は雪の結晶がチラチラと降っている。
どうやらこの階段は四季を巡っているらしい。
ココアはこの四季を感じる螺旋階段に最初は胸を踊ろかせながら、下っていたが、そのうち、徐々にカラットの記憶がなくなっていることに気付いた。
一段、また一段と降りていく中で、カラットに関わった記憶が一つ、また一つと忘れていく。
けれど、次の1歩を出す時には何を忘れたかを忘れてしまう。
考えても考えても、拾う暇もくれないまま、下っていく足と一緒に雨粒のように記憶が一つ二つと落ちて消えていく。
「どうしよう〝ぴぴ〟……。どんどん忘れていっちゃうよ……」
呟いたところで何一つ待ってはくれない。
ココアは蘇ったとろろを思い出す。
(白いフワフワの毛のとろろ。奈々ちゃんと私に改めて命とはどういうものか教えてくれたね)
階段を一つ降りると、記憶が一つ消えた。
雪の結晶も1つ2つと空気の中へその姿を溶かしていく。
ココアは自然教室で会った御神木を思い出す。
(人間をどこまでも愛して、力強く生きた御神木。御神木と話せるなんて貴重な体験したな。また……会えるよね)
階段を一つ降りると、記憶がまた一つ消えた。
結晶も3つ4つと空気の中へ溶けた。
ココアは夏休みに会ったお爺さんとお婆さんを思い出す。
(優しい心を持ったお爺さんとお婆さん。2人を通して、愛を感じた。心は絶対に忘れない。私もそう思な)
階段を一つ降りると、記憶がまた一つ消えた。
「〝ぴぴ〟また……忘れちゃったよ……。〝ぴぴ〟……」
いつの間にか、ココアの目の前には大きな木の扉がそびえ立っていた。
その扉の前まで辿り着くとココアは振り向く。
先が見えない程、竜巻のように上へと渦をまく白い階段だけがココアの目に映っていた。
(これを開けると、もう下界……。私の過ごしていた世界に戻るんだね。〝ぴぴ〟)
ココアは目を閉じた。濡れたまつ毛が下瞼に当たる。閉じた先に見えるのはいつかの〝ぴぴ〟との記憶だ。
初めてワンダーラビリットに行った日、変身や沢山のカラットを浄化した事、一緒に食べたおやつや行った場所、話した内容、一緒に過ごした自分の部屋の中。そして、〝ぴぴ〟の表情。自分の名前を呼んでくれた声。
(〝ぴぴ〟大好きだよ)
『ココア……』
扉の取手を掴んだと同時にその全てが溢れて消えた。
ココアの背中には雪の結晶が静かに、寂しい光を反射させてキラキラと光っている。
ココアは扉を開けた。
扉の先は自分のよく知った……ココアの部屋だ。
ベッドの位置も勉強机の位置もクローゼットの場所も何一つ変わらない。
自分の部屋に足を入れた瞬間に扉はまるで幻のように姿を消した。
暗い暗い部屋の中でココアは自分の手を見た。
裏にも表にもしてみる。
何か手の中に感触みたいなものが残っているがそれが何か思い出せない。
「あれ?私……何をしてたんだっけ?」
首を傾げたココアはしばらく、自分の部屋で立ち尽くしていた。
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