第7話 男の子とココア

「なかなか、よいぞ!」

「うん!結構集まったね」

 ココアはワンダーラビットの東に位置する川の近くに来ていた。川の近くには水車があり、今も音を立ててカラカラ心地よい音を立てて回っている。

 最初、ワンダーラビリットのまるでパステルカラーの絵の具を溶かしたような虹色の水にココアは大はしゃぎだったが、〝ぴぴ〟に叱られ今はもくもくとカラットの欠片を集めている。

「あっ!また見つけた」

 ココアはキラキラ光るカラットの欠片をブローチになった〝ぴぴ〟の口元に近づけると〝ぴぴ〟それを飲み込む。

 最初はその〝ぴぴ〟の動作に怖がっていたココアも30個も続けていくと不思議と慣れていくものである。

「まぁ、出遅れはしたが、なんとかなるかもしれんの」

「うん!私こういう宝探しみたいなの好きなんだ!」

「でも、もうここら辺は探し尽くしてしまった感があるの」

 そう、出遅れたココアは皆が探し終わった後の探しきれなかったカラットの欠片を集めているに過ぎなかった。

「〝ぴぴ〟他によさそなところある?」

「うむ……」

 その時だった。

「〝ぴぴ〟……誰か泣いてない?」

「む?そうかの?」

「うん、聞こえる。こっちだ!!」

「ちょ!カラットの欠片を集めなければの!!」

 ココアは川の上流に向かって走り出した。

「お主!!聞いておるのかの?」

 〝ぴぴ〟のその声も今のココアには届くことなく、ココアは一心不乱に走り続ける。

「声、ハッキリ聞こえるようになった」

 その場所には小さな木の橋が架かっていた。小さいながらもしゃがみ込めば人が隠れるくらいの高さのあるその橋に近づけば、その影に小さな男の子がうずくまっていた。

「どうしたの?」

「うぇぇぇん」

 ココアを見上げる男の子の顔は涙と鼻水で濡れていた。男の子はココアより小さい。ココアの学校の1年生よりも背が低そうだ。

 そして、この男の子の側に転がっている、うさぎの耳がついている帽子はこの男の子のものだろう。

 ココアはそれをそっと拾い上げ、汚れを払い落とす。

「ふぇ〜ん。僕の……い……が〜」

「待って!君、怪我している」

 男の子は膝を擦りむいていた。

 ココアは男の子の頭に帽子をちょこんと乗せてあげると、いつものようにポケットを探るが、ハンカチは入っていない。今はこれしかないと、自分の服のリボンを振りほどいて、男の子の膝に巻く。

「これでなんとかなるかな」

「あ…ありがとう…」

 ココアがそうしたことで少しは今までの不安がなくなったのだろうか、男の子は濡れていた顔を拭き、鼻をすすった。

 よく見れば、男の子はくるくるとした金髪の髪におとぎ話に出てきそうなあどけない優しい顔立ち、服装はベージュのシャツと少し膨らんだブロンズのカボチャパンツを着ていた。

(か…可愛い…お人形さんみたい…)

 ココアは声に出しそうになるのを押し殺し、男の子に再び聞く。

「なんでこんなところで泣いていたの?」

「ぼ、僕〜…ぅぅううわぁぁぁ」

 思い出してしまったのか、男の子はまた泣き出してしまう。

「〝ぴぴ〟どうしよう?」

「そんなこと言われてもじゃな…」

「あっ! この男の子にも〝ぴぴ〟みたいな子がいるんじゃないかな?その子に聞けば!」

 男の子の胸にもうさぎのブローチが付いている。

「いるのはいるんじゃがの……ココアと話はすることはできないのじゃ…。変身している時はあくまで直接話できるのは自分が選んだ者だけなのじゃ」

「なんだ……そうなの」

「それよりもココア、カラットの欠片を見つけないとじゃ」

 〝ぴぴ〟の話を最後まで聞くことなく、ココアは男の子の隣りに腰を下ろし話し続ける。

「大丈夫だよ!私が側にいてあげる!」

「本当に…?」

「うん!」

 ココアは男の子が安心出来るようにとたわいもない話を続ける。

 その結果か男の子がポツリポツリと話し始めた。

「僕ね……綺麗な石を探してたんだ。でもそこで滑っちゃって。石無くしちゃったの」

(石って、カラットのことかな?)

 ココアは〝ぴぴ〟からカラットの欠片を1つ取り出しそれを男の子に見せた。

「石ってこれのこと?」

「うん……とても綺麗だから、集めたやつ手に持っていたの……でも……転んだ時に川に流れていっちゃった…」

「そうだったんだ……」

「石がないと……僕……ママに会えない」

(そっか……それがこの子の夢なのかな)

「君にも叶えたい夢があるんだね?」

「うん……僕は最後まで頑張ってママに会いたい」

「ねぇ、〝ぴぴ〟さっき集めたカラット、全部出して?」

「お主!お人好しにも程があるぞ。これを渡してしまったら、お主の夢も、ワシの夢も叶わないのじゃぞ」

「大丈夫だよ!まだ私達にはカラットの欠片を集める時間はある。でもこの子は怪我をしているんだよ?今から集めたって、全然集まらないかもしれない」

「お主……」

「だからお願い。カラットの欠片全部出して!私はここで見捨てていけないよ」

「……わかったのじゃ。じゃが、この試練が終わるまで、カラットの欠片を必死に集めてもらうからの!」

「〝ぴぴ〟……ありがとう!」

 カラットの欠片が〝ぴぴ〟の口から一気に吐き出された。

 その様子はどうもここワンダラビットの世界観とは似合わず、ココアはプッと吹き出してしまう。

「その出し方、もう少しなんとかならないの?」

「しょうがないのじゃ、一気に出すとこうなってしまうのじゃ」

 ココアは〝ぴぴ〟の口から出された、カラットの欠片を両手に閉じ込め男の子に渡す。

「お姉ちゃん……?」

「はい。これ私が集めた全部。あげる。」

「でも……お姉ちゃんのは?」

「私は大丈夫!!今からでも全然その数に追いつけるんだから!」

 ココアは男の子に半ば強引に渡し、距離を取った。

「じゃあ、私、急いで集めないとだから!」

 そう言って、男の子に手を振って別れる。

「お姉ちゃん……ありがとう!」

 男の子はココアの姿が見えなくなってもその言葉を繰り返し叫んでいた。

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