第30話 記憶と金曜日とココア☆ココアの記憶

 ココアがおじいちゃんと、おばあちゃんに「さよなら、また来年ね!」を言ったのは、ほんの1時間前だ。

 1時間前だと言うのにまだ、心はおじいちゃんとおばあちゃんの家に置いてきているような、そんな寂しいような名残惜しいようなそんな気分に浸りながらも車はどんどん、本来の自分の家に向かって走行を続ける。

 緩やかなブレーキで止まった車は次の青信号も渡れないだろう。

 お母さんの「時間掛かりそうね」と言った言葉を心の中で反芻するようにココアは窓の外を見た。

 近くの歩道をこの距離からでも目を引く、絵画の中からそのまま飛び出してきたような金髪の少年が歩いている。

 少年はまだ小さく、少年というよりは男の子という表現のほうがしっくりとくる、5、6歳くらいだろうか。

 ココアは目でその男の子の後を追う。走ってどこかに向かっているようだ。

(あの男の子どこかで……?)

 その男の子は自分よりも遥かに背のある女の人に走って飛びついた。女の人はブロンドの長い髪だが、どこか、その男の子と似てる。

 ココアは自分の胸を抑える。

(これが、心の記憶だったりするのかな……)

 自分の顔が自然とほころんでいくのを感じる。

 ただ、ただ、感じてしまったのだ。

 よかったね、と……

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