第31話 思いと金曜日とココア☆前編

 太陽の生き写しのような黄色い花は今まさに水の恩恵を受けていた。

 花びらに1つ2つとついた雫は太陽の光を受け、宝石のようにキラキラと輝いてる。

「ココアは本当に花が好きじゃな!」

「うん!花って可愛くって、人の心を豊かにするだけじゃないの。種を植えてね、芽が出るでしょ?どんどん大きくなって、蕾をつけて花を咲かせる。それを見ているとね、花も生きているんだなぁって思う。枯れても、ちゃんと手入れをしてあげたりすると、また咲かせてくれたりするんだよ。生命って本当にすごいよ!」

「結構、壮大な話になってしまったのじゃ」

「〝ぴぴ〟もそう思うでしょ?あんなワンダーラビリットみたいな素敵なところに住んでるのに」

「うむ……そうじゃな……」

 今日も〝ぴぴ〟はココアの肩に捕まり、2人は学校の花壇の前で話をしていた。

「ココアちゃーん!!」

 ココアは唐突に呼ばれた自分の名前に体を強張らせた。そのまま、声が聞こえた方に体を向ければ、そこには、1人の人物が後ろで1つにまとめたポニーテールの髪が手を振る動きと一緒に揺れている。

「奈々ちゃん!」

 ココアは今まさにこちらに向かって歩いてくる、彼女の名前を口にした。

「ココアちゃん、栽培委員?水やり?」

 奈々はココアの隣にしゃがむ。これから丁度、帰るところのようだ。ランドセルの中の荷物が彼女の動きと一緒に音を立てる。

「うん。そうだよ」

「ココアちゃん、お花好きだもんね」

「うん!」

 奈々が何もない時にココアこうして話掛けてくることは珍しい。

 そう、奈々が話掛けてくるということは何かあったということでもあった。

 ココアの隣にしゃがみながら同じ位置にある横顔を見れば、奈々の顔はどこか明るい。

「奈々ちゃん、いい事あった?」

 ココアのその一言で、奈々はその顔をさらに輝かせた。

「わかる?」

「うん……。何となくそうなのかなぁと思って……」

「ココアちゃん!今日遊ばない?」

「へっ?」

 唐突に出た誘いにココアは戸惑う。

「えっと……私、外では……」

「外で遊ぼうって言ってるんじゃないよ!私の家に来ない? 本を読んだり、絵を描いたりしよう?」

「それなら……、お母さんから許可がもらえれば大丈夫だと思う」

「じゃあ、決まり!また後でね!」

 奈々はそう言うと、ランドセルを背負い直して、走って去っていく。

 公園で遊ぶことが好きな奈々が家で遊ぼうとココアを誘うこと自体が珍しかった。

 ココアに見せたい何かがあるのだろうか。

 それが、今の奈々を笑顔にしていいる何かかもしれないと。

「ココア、行くのかの?」

 それまで、2人のやり取りを見ていた、〝ぴぴ〟がココアに問い掛けた。

「うん。誘ってくれたんだもん。お母さんが許してくれれば」

「そうか」

「さてと。奈々ちゃんも待ってくれているかもだから、ランドセルを取って早く帰らないと!」

 ココアは水やりに使っていたジョウロを持って立ち上がると、点々とひまわりが咲く花壇を後にした。



「ココアちゃん!久しぶりね。いらっしゃい!」

 奈々の家に行くと、彼女のお母さんがココアを出迎える。

「奈々ちゃんのお母さん、こんにちは」

「こんにちは!ごめんなさいね、奈々にちょっとお買い物頼んじゃって、すぐに帰ってくると思うから、奈々の部屋で待っていてくれるかしら?」

「はい!お邪魔します」

 ココアは玄関近くにある、階段を一段一段、登って行く。

 奈々の家には病気になる前はよく来ていた。ただ、外で遊ぶのが好きな奈々は家の滞在時間は短く、すぐに荷物を置くと、目の前の豚の滑り台がシンボルの公園で遊ぶことがほとんどだった。それが今日は、家で遊ぶのだという。何があったのだろうかとココアは考えながら、階段を登ったすぐ目の前にある扉を開けた。

 扉を開けた目の前の景色は遊びに来ていた頃と変わらない。

 右側にベッドがあって、左側には勉強机がある。その隣は本棚。

 ただ、勉強机のところに飾ってある女の子らしい小さな小物と写真が多くなっただろうか。

 ココアは写真を覗き込む。

(奈々が好きだった猫……とろろの写真だ……)

「ココア、お母さんが許可してくれて、よかったのじゃ」

 〝ぴぴ〟がいつもの場所からココアの頬をペシペシと叩いた。

「うん。帰りのチャイムが鳴るよりは早く帰ってきなさいとは言われたけどね。久々にこうして友達と遊べるのは嬉しい」

「そうじゃな。いつもこの時間は寝てるか、本を読むかのどちらかじゃからなぁ」

「しっ!〝ぴぴ〟静かに」

 ココアは耳をすますと、部屋の外が騒がしい。話し声も聞こえる。奈々のお母さんと……どうやら、もう一つの声は奈々の声のようだ。

 数秒後、声は止み、トタトタと階段が登る音が聞こえ、目の前の扉が開かれた。

「じゃーん!ココアちゃん、見て見て!!」

 そう言って奈々の手には何かが抱かれている。

 それはつぶらな目をしてココアを見ていた。

「ココア、どうしたのじゃ?」

 明らかに顔色が悪くなるココアに〝ぴぴ〟が心配して声を掛けた。

「ココアちゃん?」

 〝ぴぴ〟とは反対にそんなココアの様子は無視をしてニコニコと続ける奈々。

 その2人の落差にココアの頭の中はグラグラを沸騰を続ける。

「奈々ちゃん……それって……」

 やっと絞り出せた声はそれを言うのがやっとだった。

「うん!わかる?」

 そう言った奈々は相変わらず、笑顔を絶やさず、抱いているそれをもっとココアに見せるようにぐっと近づける。

「とろろ……だよね……?」

「うん、そうだよ!」

 変わらず大きな目とミルクのような純白の柔らかい毛がココアの両目を支配する。

「なんで……なんで……? とろろは……」

 ココアは猫から視線を少しずつ上に移し、奈々の目を見た。

「うん!蘇ったの」

 奈々のその声に同意するように手の中の猫はニャアと鳴いた。

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