第37話 火のカラットとココア☆
(今のは……〝ぴぴ〟とワンダーラビリットの女王? なんで? 私の名前も出てた……。記憶……なの……?)
鏡を通って来た先は再び、黒い鏡が作る迷路だった。薄暗いのも変わらない。ただ一点違うのはその薄暗さを作っているのがポツポツと置いてある、ろうそくだということだった。
(また、鏡の迷路……)
「はぁ……」
ココアは溜息を吐いた後、頭を横に振りそれを打ち消した。
(この試練に参加している以上、頑張らないとなぁ……。終わったら、〝ぴぴ〟に会えるかもしれないし……)
しばらく、歩くとぼんやりと作っていたココアの影が消える。
(あれ?この道はろうそくがない……。でも、先が見えないことはないし、歩いてみよう)
ココアはしばらく一つ一つの鏡の中を確認しながら歩くが、先程のように変わった鏡も見当たらない。
(どうしよう……結構歩いているのに……。何もない……。どうしよう……わからないよ……)
ココアは立ち止まる。
(ダメ……。何か考えないと……。きっと、さっきとは違うところに何かヒントが……、さっきいた空間とは違もの……違うところ……。考えないと)
「ろうそく……」
ココアは来た道を振り返る。
「もしかして、ろうそく!?」
引き返し、ココアはろうそくの場所まで戻ると、先程は気付かなかったが、それは続いて置かれていた。
ココアはろうそくの置いてある道だけを進む。
だが、ある程度進むとその道は途切れてしまった。
周りを見渡すが、ろうそくがある道はなく、途切れた場所の鏡にも、これといって特に変わった様子はない。ココアがそれに触れてみても、やはりひんやりとした感触を指先に残すだけだった。
(どういうことなの……。わからない……。ううん。考えるの。考えるの……。今、私が歩いてきた順序を思い出そう。まず私は真っ直ぐ上に向かって歩いて来た。その後、その道は通らず、真下に……。そして、そこから左に歩いて行った。そして右に……また、来た道を通らず、その場所から左下に歩いた。これが何か関係あるの?)
ココアは空中にそれを描いていく。
空中に描いたそれはいびつな形をしていたが、その手の動きは何かを思い起こさせた。
(この手の動き、覚えがある……)
ココアはその手の動きを再び繰り返す。上、下、左、右、左……。上、下、左、右、左。
それを繰り返し一つの模様を描く。
「星……?」
(私は戻って来た時、最初のところにいたってこと? でも、その場所に戻ってきた時に周りを確認したけど、何もなかったはず。じゃあ、この星は何を示しているんだろう……)
ココアはその場にしゃがみ、地面に星を描く。
いつも描いている星の順番で。
(私の星は頂点から書き始める。星は描く人によって、書き始める場所が違うって聞いたことあるし……。もし星の中に何かを隠すとしたら、私はどこに隠すかな……?)
「……私だったら、星の真ん中かな……」
おそらくの場所に向かってココアは歩き出す。
来た道を引き返し、ろうそくの灯っていないその場所に飛び込んだ。
(きっと、このあたりが真ん中だと思う。お願い何かあって!!)
ココアは辺りを必死に探す。
すると、後ろに何かの気配を感じ振り向く。
その鏡に真っ先に向かう。
触れると、変わらずひんやり冷たい感触は一緒だが、そこに浮かび上がる白い文字があった。
「やった……」
『あなたにとって火のカラットとは?』
「私にとって火のカラット?」
(火のカラット……あの時は、私は熱を出して体調を崩してばっかりだった。久しぶりに行った学校で皆、びっくりするくらいやる気になっちゃって……。本当に火のカラットでよかったよ。危うく、学級崩壊だったもん。火のカラットは人のやる気に火を着けた。それは時にいいことだと思うけど、度が過ぎると人の心を傷つける……でも……)
ココアは目を閉じて、一つの答えを紡ぎ出す。
「私にとって、火のカラットは時に人の心を傷つける危険性もあるものだけど、上手く使えば、人の背中を押してくれる力強い存在」
そして、ココアの答えと同時に目の前の炭を塗られたような鏡は普通の鏡へとその姿を変えていく。
ココアは迷わず、鏡に向かって1歩を踏み出した。
再び、ココアの頭の中に捻じ込められるように一つの記憶が流れ込む。
女王の前で1人の少女が謁見をしている。
少女はココアのこの世でもっともよく知った人物だ。
「さぁ、時間だ。お主の夢は何だ?」
「私の……私の夢は……」
その瞳は微かに揺れている。
「私の夢はこれからも中前さんと……中前リサと未来を歩いて行きたい」
その少女はココア自身だった。
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