第17話 御神木と木曜日とココア☆後編

「ごめんね。ただ疲れさせちゃっただけだったね」

「いえ、そんなことないです。ありがとうございました」

 ココアは高野先生に頭を下げると、自分の部屋に戻った。食堂にリサがいたのを見つけたが、御神木も枯れていたし、特に話すこともないと思い、そのまま通り過ぎ部屋に向かった。

「ただいま〜」

「おかえりなのじゃ」

 部屋の中にいた〝ぴぴ〟はすでに起きており、ココアの読んでいた本をパラパラと読んでいた。

「面白い?」

「う〜ん。いまいちなのじゃ」

「そっか」

「それより、散歩はどうじゃったのかの?」

「う~ん。いまいちだった」

「そうじゃったか」

「じゃなくてね!先生がね、御神木があるところに連れて行ってくれたの。だけど……、この1ヶ月で枯れちゃったみたいで、可哀想だった……」

「木が枯れた?」

「うん。葉っぱもいっぱい付けていた木だったみたいだよ」

「ココア、その場所に連れて行け!」

「えぇ~、だったら、一緒に来たら良かったのに……」

「連れて行くのじゃ!なんなら、変身してでも、連れて行くのじゃ!」

「わかったよ……。私も疲れたから、変身するね」

 ココアは〝ぴぴ〟を手のひらの上に乗せると、徐々に慣れてきたその言葉を唱える。

「我が身に宿りし魂よ、古に伝わる魂と融合せよ」

 すると、ココアの体は眩い光に包まれ、光が消えるとココアの肉体は畳の上に倒れ、〝ぴぴ〟の魂とココアの魂が融合した。

「倒れてる間に高野先生来ないといいな 」

「大丈夫じゃろ」

「うん……、でも、早く戻って来よう!」

 そう言って、ココアは宿泊施設を飛び出した。



 ココアは御神木の所に戻ると先程のおじいさんが、まだ帰らずにそこにいた。杖をつきながらも、手を合わせるようにして、念入りに何かを祈っている。

「さっきはもう神力なんてないって言ってたのに」

「きっと、御神木に祈っているのではないのじゃろう。それ程、皆に愛されていた御神木じゃったということじゃ」

「うん?」

 ココアは〝ぴぴ〟の言葉に首を傾げるが〝ぴぴ〟は構わず続けた。

「それよりも見事に枯れておるの」

「うん……」

「ココア、周りを探してみるのじゃ」

「えっ?」

「どうも、1ヶ月で枯れたというのが気になるのじゃ」

「?」

「もしかしたら、カラットが関係しているのかもしれんからの」

「そっか!そうだね。カラットが原因なら、この御神木も元気になるかも!!」

 希望が見えたココアは張り切って、御神木の周りを探し始める。

 根っこの周り、周辺の土、周りを囲む木、どこを探してもカラットらしきものは見つからなかった。


「〝ぴぴ〟、見つからないよ……」

「うむ……。思い違いか。やっぱり、原因はカラットじゃなかったということなのかのぉ。戻るか?」

「そうだね……」

 ココアが宿泊施設に帰ろうと踵を返した時、

「待つのじゃ、そこの若いの」

 と、声がした。

「えっ!?〝ぴぴ〟なんか言った」

「ワシは何にも言っていないのじゃ、でも確かに声が聞こえたのぉ。そこのじいさんじゃないか?」

「嘘!今の私が見えてるってこと?」

 ココアは祈りを続ける、おじいさんに近づき「おじいさーん?」と声を掛けるが、ココアの声は届いておらず、ずっと、祈りを続けている。

「やっぱり、見えてなさそうだよ?それに……あっ!帰って行っちゃう」

 丁度、おじいさんは祈りを止め、そのまま来た道を杖をついて帰って行った。

「気のせい?だったのかな?」

「そうじゃの……。帰るか?」

「うん」

「ちょっと、待つのじゃ!若いの、こっちじゃ、こっち」

 帰ろうとするココアを先程聞こえた声と同じ声が呼び止める。

「えっ?」

「もしかして……」

「……御神木!!??」

 ココアと〝ぴぴ〟2人のひゅっと高くなった声が重なった。

「そうじゃ、やっと……気付いてくれたの、ほっほ」

「笑っているとは……枯れているのに、結構元気そうじゃの」

「元気ならよかったよ」

「それはそうじゃが……」

「さっきから何か探しているようじゃが、お主が探しているのは、きっとワシの中にあるやつじゃなかろうかの?」

「カラットのこと?」

「カラットと言うのかわからんが、1ヶ月前から、ワシの下の方にある幹の空洞に何か入ったようなのじゃ」

「それはどこにあるの?」

「教える前にの、少しワシと話をしてくれんかの、お嬢ちゃん!」

「うん!いいよ!」

「ちょっ、ココア!」

「少しくらいいいでしょ!〝ぴぴ〟こんな経験なかなか出来ないよ!」

「人間と話す機会なんてなかったからの、話が出来るのが嬉しくて仕方ないのじゃ」

「うん!御神木はいくつなの」

「うーん。いくつだったかな?遠い昔過ぎて覚えておらんの。それよりも今はコマが流行っているんじゃろう?お嬢ちゃんもやるのかの?」

「コマ?あの回すコマ?」

「そうじゃ、そうじゃ、少年達が1度ワシの前で遊んでいたことがあった」

「コマはしないよ。もう流行ってもないと思うし。私は漫画とかゲームとかをしているよ」

「まんが……げえむとな?なんじゃ、それは」

 ココアは御神木に聞かれたものを説明していく、御神木は自分のおじいちゃんやおばあちゃんより、知らないことの方が多かったが、ココアは何よりもその時間が楽しかった。


「それよりも、さっきから聞いてると、お嬢ちゃんは1人で遊ぶことが多いのじゃな」

「うん。病気になってから、あまり外で遊べないの」

「その歳で、病気とは苦労しているのじゃな」

「ううん。そんなことないよ。たまにね、少し寂しいけれど、大丈夫だよ」

「そうか、そうか。お嬢ちゃんにはきっとこの先、いい事があるよ。ワシもこんなに枯れる前はいろんな人間が来ての、病気を治してほしいという願いも多かった。少しでも力になりたくての、力を少しだけ、あげたりもしていたのじゃが、ほんの微力にしかならんのじゃな、後はもう……自分を信じてあげることじゃ。大丈夫じゃよ。お嬢ちゃんはきっと治る」

「うん、ありがとう!御神木に言われると、治る気がしてくるから不思議だね」

「ほっほ!それなら、よかった!」

「私の病気が治ったら、また、御神木に会いにくるね。あの時はありがとうございましたって、お礼言いにこないと!」

「……そうじゃな。それよりもそろそろ教えてあげないとじゃな」

「あっ!忘れてた」

「ココア!忘れるでない!御神木、早く教えるのじゃ」

「ほっほ!よく見えんが、威勢がいいのもいるんじゃな。幹の空洞は今のお嬢ちゃんから見て、左のほうじゃ」

「ワシの声が聞こえているのか……ますます、不思議じゃ」

〝ぴぴ〟が呟き、少し怪訝そうな顔をしている。

「御神木、こっち?」

 ココアは言われた通り、左に周り回り込んで歩いていく。

「そうじゃ、そうじゃ、おっ!そのあたりじゃ、そこら辺を探してくれんかの」

「ここら辺かな?」

「そうじゃ。そうじゃ」

「あった!ありがとう!」

「そうか、そうか、よかった!」

 ココアは御神木の幹の部分に分かりずらいが小さな穴が空いているのを見つけた。

 穴は、ココアの腕がやっと入るぐらいで、ココアは考えなしに手を入れようとするが「ココア!待つのじゃ、本当にカラットじゃったら、穢れを祓ってからじゃないと」と〝ぴぴ〟からの静止がかかる。

「あーーーー!!!」

「どうしたのじゃ!ココア!」

「杖、家に忘れてきちゃったよ……」

「そんなのどうでもいいのじゃ」

「だって、杖ないと、それっぽく見えないんだもん」

「どうでもいいのじゃ……とにかく、祓うのじゃ」

「うん……。それじゃ」

 ココアが幹に手をかざした。

「ピュリフィケーション!!」

「……大丈夫じゃ」

「呆気ない……」

 ココアは幹の穴に手を入れると、中から出てきたのは……

「これは……木のカラットじゃな」

 ココアの両の手の平に収まるそれはガラス玉の中で小さな木が生きており、葉っぱを散らしていた。その木の周りは緑や黄緑の宝石のような石で装飾されていた。

「すごい……、中で木が生きてる……」

「よくやったのじゃ。ココア、カラットをワシの口元に持ってくるのじゃ」

「う、うん」

 ココアは〝ぴぴ〟の口元にカラットを持っていくと、それを飲み込む。

「これで、御神木も元気になるね」

「じゃな」

 ココアが御神木を見上げると、少しずつ葉をつけたのも束の間、つけたと同時にパラパラとその葉を散らして行く。

 ココアは急いで御神木に駆け寄った。

「どうして?なんで?」

「……カラットがあったにせよ、なかったにせよ。どちらにしろ寿命だったという訳か……」

「そうじゃ」

「そんな……嫌だよ。どうすればいいの?」

「どうしようもできないのじゃよ。お嬢ちゃんはまだ若いから、受け入れ難いかもしれんが、生きているものには何かしら終わりがあるのじゃ。ワシにはそれが来てしまったってことじゃ……」

「そんな……」

「お嬢ちゃん、ありがとうな。最後に話ができる人間が来てくれただけでも幸運じゃった。人間達にいくら話掛けても、ワシの声は届かなくての……」

「嫌だよ……、もっとお話しようよ……。また、来るって約束はどうなるの?」

「ココア……」

「すまないのお嬢ちゃん。最後に1つだけお願いがあるのじゃが、聞いてはくれんかの?」

「最後のお願いだったら……聞かない……」

「ほっほ!厳しいの。どうか頼む。ワシの声は人間には届かん。だから、今までもどうしても伝えたいことが伝えてこられなかったのじゃ。ここに来る人達は本当にワシに良くしてくれた。皆は神木として崇めてくれてはいたがの、元気を貰っていたのはこっちのほうじゃった。そして、最後の最後までワシの威厳を保とうとしてくれている。じゃからーーーー」

「っ!!」

「ココア、叶えてやってはどうかの……」



「いやだ、いやだよ……」

 ココアは宿泊施設が見えるところまで戻ってくると、1つ、2つと地面を濡らした。

「ココアはよくやったのじゃ」



『ワシの幹に〝ありがとう〟と刻んでくれないかの』


 ココアは御神木に言われた通り、近くで手頃な枝を見つけその幹に〝ありがとう〟を手を震わせながら刻んだ。



『ありがとう。小さなお嬢さん』

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