第42話 ワンダーラビリットの女王とココア☆
「それは……」
〝ぴぴ〟は変わらずココアから目をそらしながら続けた。
「それは、後一年……ココアと一緒にいたかったからじゃ」
ココアは目頭が熱くなるのを感じた。じんわりと瞳に何かが溜まっていく。
「〝ぴぴ〟……」
こんなに真っ直ぐな言葉がこんなに嬉しいなんて、と……。
ただ、目の前でその様子を見ていた女王は興味がなさそうに続けた。
「ほう。この娘にそこまでの魅力は感じなかったのだがな。あの時は……、そこら辺にいる小娘となんら変わらなく見えた」
「女王様、あの時も言いましたが、ココアは自分の周りにいる人を大切にできるやつなんじゃ……」
「だったら、なんだ。人間界の理に背くような願い事をした事は変わりない事実だろう。可哀想に友人は寿命を伸ばされてしまって、これから苦しいことが沢山待ってるかもしれないと言うのに……」
女王はココアを見ずに嘆く。
「まぁ、ココアお主には今回はまあまあ、楽しませてもらったし、合格としよう。おめでとう」
女王は一つの感情も乗せず、淡々と足早に言葉を続けると、どこから出したのか、長い綺麗な指先には真っ黒なガラス玉が握られていた。
ココアに受け取れとでも言うように静かに差し出していた。
ココアは戸惑いながらも玉座まで歩みを進め、受け取る。
「これが……闇のカラット……」
自分の手に移ったカラットは今までのカラットとは違い、確かに漆黒の黒光りで綺麗には綺麗なのだが、何もかもを飲み込んでしまうような恐ろしさを孕んんでいた。
「さぁ、それを〝ぴぴ〟に食べさせるのだ」
ココアは〝ぴぴ〟にカラットを渡すと、〝ぴぴ〟はカラットを一口で飲み込む。
数分もしないうちに〝ぴぴ〟は今まで目にしていたカラットの倍以上大きくなった玉をゴロンという音と共に吐き出した。
吐き出された玉は表面から虹色の光りを放ち輝く。ガラス自体が鮮やかな7色を宿しているのだ。
宝石屋さんのショーウィンドーにこれの欠片が並んでいたら魅入ってしまいそうだと、ココアはまだよくも知らない宝石屋の外観をその脳裏に思い浮かべた。
わからない程度に顔を引きつらせながら、ココアはそれを拾い上げる。
やはり数分前に持っていたカラットよりもはるかに重みがあり、両手で支えて持たなければならなかった。
「寄越せ」と女王が言うと、(返すの?)と不思議に思いながらも、ココアは素直に従い、女王の両手の上にそれを乗せた。
「女王様でも何でも願いを叶えられる程の魔力は持ち合わせていないのだ。カラットが全部集まって、できた最後のカラットでその魔力を増幅させ、夢を叶えるのだ」
「なるほど」
ココアにだけ聞こえるように〝ぴぴ〟は静かに耳打ちをする。
「さぁ、早く願いを言いたまえ。ただ、さっき言った通り、叶えられない夢もあることを承知した上で聞き入れよう」
相変わらず、早くこの時間を終わらせたいような喋り方をする女王にココアはオドオドしながらも口を開いた。
「あの……女王様……。夢を聞いてもらう前に一つ聞いてもらってもいいですか?」
「なんだ?」
ココアは深呼吸を数回繰り替えした。
「私……中前さんの寿命を延ばしたこと、後悔してません。中前さんは今まで頑張った分、幸せを感じられると思うし、中前さんが悲しい顔をするなら私が楽しませてあげるの」
「綺麗事を……それが私に言いたいことか?」
「違います。その……、さっきのお話で女王様が人間に失望していることはわかりました。私も人間です。女王様に好かれたいとかは考えていないんですけれど……」
「だから、なんだ」
先ほどより、女王の言葉は強くなっていた。
「えっと……、夢とか願いとかって言うとその人を写しているように見えると思うんです。誰にとってもソレって、伝えるには勇気がいるし、叶えるために努力や時間を沢山使うから、とても大きいものに見えるんだと思うんです。私も誰かに夢を聞いて、その人が答えてくれたら、嬉しいし。大方この人はこういう人なんだっていう型に当てはめちゃいそうになる。でも、私は夢とか願いってその人の一部でしかないんだと思うの。だって、一言で伝わっちゃうでしょ。人……ううん、生きてる人やものの魅力や尊さって、やっぱり一言で表せない。表がある分、その人の嫌な暗い部分だって見える。だからと言って、一瞬見せた明るい部分や暗い部分で私はその人を好きにも嫌いにもなれない。だから、その……こんなこと女王様に言うべきではないのかもしれないけれど、もっと……人間を知ってほしい……な……って」
「ココア……」
「お主」
「その、やっぱり人の未来を無理やり奪うってことは絶対にしちゃいけないことだと思う。何があっても。絶対ダメ。女王様の人間界の理を外れちゃいけないって言うのもすごくわかるの。あるべき道を壊すことになるから。そのせいで、当事者じゃない誰かの人生も変わっちゃうと思うし……。一年前の私は分からなかったけど、今はわかる。でもね、女王様に知って欲しいのは、人間は短い人生を歩いている分、その中で今の自分が最善になるように必死で生きてる人達がいっぱいいる。それを知ってほしいです。私がワンダーラビリットに来た時にこんな素晴らしい世界があるんだと感動したように、全く違う人間が生きてる世界はもしかしたら、何か感じてもらえるものがあるかもしれないって思うの」
しばらく、ココア、〝ぴぴ〟、女王の間に沈黙が流れた。先にその沈黙を破ったのは女王だった。
「ココア!」
「えっ!はい!!」
「お主、私が人間のことを知らないと言うのだな。私はお主の何十倍も生きているというのに……」
「ご、ごめんなさい……。生意気言いました」
ココアが勢いよく頭を下げると、女王はクククと喉の奥から笑いを漏らした。
「本当に面白い娘だ。わかった。お主の言うことを少し信じてみよう」
「あ、ありがとうございます。でも、きっと私だけじゃないと思います。人間はきっと面白いですよ」
「また、生意気を口にして。少しだけと言っただろう」
女王はまた、一つ笑いをこぼした。
「さぁ、ココア、夢を言え」
ココアは大きく深呼吸すると、たった一つの願いを言葉にした。
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