第40話 土のカラットとココア☆

 ココアと〝ぴぴ〟は再び真っ白な空間を歩く。

 心なしか先ほどよりココアの足取りが軽いのは他ならぬ〝ぴぴ〟の存在が大きかった。

「〝ぴぴ〟は一年前の記憶残っているんだね」

「そうじゃな。ワンダーラビリットの住人の記憶は消されないんじゃよ」

「それも悲しいね。こっちは記憶を消されちゃうのに、〝ぴぴ〟は覚えているなんてね……」

「ココア……。まぁ、仕方ないのじゃ。これも運命と思うしかないのじゃ」

「ねぇ、大切な人を覚えているのと忘れちゃうの。〝ぴぴ〟はどっちの方が嫌?」

「ワシはやっぱり……忘れるほうが嫌じゃな」

「うん。私も……。この試練が終わったら、合格してもしなくても、カラットと関わった記憶消されちゃうんだよね。嫌だな……。覚えたままにさせて下さいってお願いしようかな」

 ふふっとココアは冗談めかして笑ってみせるが、〝ぴぴ〟は表情を険しくする。

「ココア!! それじゃ、意味がないのじゃ!!」

「〝ぴぴ〟……?意味がないってどう言うこと?」

「ココアはちゃんと夢を叶えるのじゃ。次は自分の病気を治してもらうのじゃ」

「……うん……そうだね……。あっ、いたっ!!……くない?」

 その時、コツンと何がココアの頭に当たって、ソレは白い空間へと落ちていく。

「何だろう?石?」

 灰色の小さいソレは真っ白な床に映えるように落ちていた。ココアはソレを拾う。

「あれ?軽い?」

 石だったと思っていたソレは軽く、手に持って初めて丸めた紙だったことがわかった。

「なんだろう?」

 ココアは〝ぴぴ〟を一瞬見るが、特に何の反応もなく。ココアはとりあえずと、丸まった紙を広げる。

 紙はこの空間と同じ真っ白な色だけが広がっていた。

「うん?どういうこと」

 ココアが首を傾げたのと同時に上から、丸めた灰色の紙が再び落ちてくる。次は一つだけではなく、雨のように大量に。一瞬にして真っ白だった地面は灰色へと変えていった。

「えぇぇぇぇぇぇ〜、な、な、なにぃ!!??」

「ココア、とりあえず、近くに落ちている紙を5枚程広げてみるのじゃ」

「う、うん……」

 ココアは〝ぴぴ〟に従い適当に5枚拾い上げると、広げた。

「〝ぴぴ〟何も書かれていないよ?」

「うむ……。ココア、この中から何か書かれているものを探しだすのじゃ。きっとそれが先に進む手掛かりじゃ」

「えっ!? ……〝ぴぴ〟本当に言ってるの?」

「本気で言っておるぞ」

「こ、こんなの……どんなに探してもみつからないよ……」

「見つけないことにはきっと先に進めないのじゃ。探すぞココア!」

「〝ぴぴ〟……」

「今回はワシも手伝うから気長にやるのじゃ」

 〝ぴぴ〟はそう言うと、ココアの肩から灰色の地面へとダイブをし、一つ一つ紙を広げていく。

「ぴぴぃ……」

 ココアもしぶしぶ、紙を掻き分けて座り、紙を広げていく。

「気長にって言ったって、その間に合格者が出ちゃったら、どうするの?」

「それは、その時じゃ」

「うん……」

「何か不満そうじゃの?」

「だって……〝ぴぴ〟の夢が叶わなくなっちゃう……」

 ココアと〝ぴぴ〟だけが存在するこの空間の中で紙の擦れる音だけが静かに響いていく。

「ワシの願いは半分叶ったようなもんじゃからの」

「ごめん〝ぴぴ〟もう一回言って?」

 〝ぴぴ〟が小さく呟いた言葉は紙の音にかき消された。

「なんでも、ないのじゃ」

「もう!何それ」

 ふふふと笑い出すココアに自然と〝ぴぴ〟の表情も緩んでいく。



 次第にココアと〝ぴぴ〟の横には山積みになった紙束が出来て行く。

「全然出てこないよ……」

「頑張るのじゃ。まだまだ、広げてない紙はいっぱいあるのじゃ」

 ココアと〝ぴぴ〟は目の前に広がる灰色の紙の海を一緒に見る。

「……」

「頑張ろう……」

「そうするのじゃ」

「ねぇ、〝ぴぴ〟これで、最後になっちゃうかもしれないし、思い出話でもする?」

「縁起でもないのじゃ」

「でも、する!だって、黙々とこの紙を広げるの嫌だもん。じゃあ、〝ぴぴ〟!一緒に居て一番楽しかったことは?」

「なんじゃそれ」

「いいから、いいから!」

「そうじゃの。ココアとならどこに行っても楽しかったぞ。学校に図書館に自然教室や里帰りに公園。本の中だって、なんでもじゃ」

「なにそれ」

「じゃあ、ココアの楽しかったことはなんじゃ」

「う〜ん……。私も一緒かな」

「なんじゃそれ、一緒じゃないか」

「へへへっ。じゃあ、悲しかったことは?」

「結構、カラットの起こした色々な事件はワシの心にも深く残ったのじゃ」

「そうなんだ……。結構、割り切っているんだと思ってた」

「やっぱり、辛いことは辛いし、悲しいことは悲しい。そこは人間と変わらないのじゃ。でも、色々と勉強もできたの。ココアのお陰で、人間の温かいところを学べた気がするのじゃ」

「そっか。じゃあ、怒ったことは?」

「ココアはたまに我儘じゃからの」

「なにそれ!私が悪いみたい」

 プクっと頬を膨らませるココア。

「ワシの言うことも聞かずに突っ走ってしまうところとか、イライラさせられることも多かったのじゃ」

「それは……ごめんなさい」

「でも、それはココアらしさの塊でもあったのじゃ」

「〝ぴぴ〟?私らしさの塊って何?」

「それは自分で考えるのじゃ」

「えぇ〜、教えてくれてもいいのに!!」

「秘密じゃ。記憶がなくなった後も考えておけるように課題としておくのじゃ」

 ココアは一瞬、紙を広げていた手を止める。瞳を数回動かした後、目を閉じて息を吸うと、再び紙を広げる作業に戻る。

「……。じゃあ、〝ぴぴ〟一番、嬉しかったことは?」

「それは、楽しかったことと違うのかの?」

「うん。嬉しいと、楽しいは全然違うよ。楽しいは楽しいなぁだし、嬉しいは嬉しいなぁだよ!!」

「何を言っておるのじゃ」

「まぁまぁ」

「そうじゃの……。嬉しかったことは、またこうしてココアと一緒にいれることかの」

 ココアはじっと〝ぴぴ〟を見る。

「そうだね……私と一緒だ……」

 その言葉と同時に持っていた灰色の紙を何位げなく広げる。

「〝ぴぴ〟……。あったよ……」

 紙を〝ぴぴ〟に見せる。

「書いてある紙!!」

「本当か!ココア!やったのじゃ」

 ココアは〝ぴぴ〟に伝えるようにそれを読む。

「あなたにとっての土のカラットとは?だって」

「ココアにとっての土のカラットじゃ」

「こう来ると思って、もう決めてたの!」

 ココアは立ち上がると、〝ぴぴ〟をその肩に乗せる。

「土って、地面にあるでしょ?きっと今私達が住んでる家も、土の上にある。そう、土がなければ、何も始まらなかったように、水や火や、木もその上に成り立っている。そして、それらがなかったら、愛もきっと生まれなかった。だから、私にとっての土のカラットは全ての源かな」

 ココアは〝ぴぴ〟と目を合わせると一歩前に足を踏み出した。

「ねぇ、どうなると思う? 」

「それは……女王様次第、わからないのじゃ」

 微笑み合うとココアと〝ぴぴ〟は光の中に包まれ、姿を消した。

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