第32話 『星』の魔王候補 星ガ丘ステラ
「……っ!?」
凄まじい恐怖が俺を貫き、ナイフのような殺気が俺を斬り付ける。
すかさず、リゼル先輩が俺の前に立ちふさがった。
それを見て、星ガ丘ステラは肩をすくめた。
「大丈夫よリゼル。今ここでやり合う気はないから。それと、あたしのことはステラでいいわ。いちいちフルネームで呼ばれるのは、ちょっとね」
「あ、ああ……」
先程の殺気がウソのように、ステラは広告や番組で見せる笑顔を振りまいた。その輝かしさは、まさにスターだった。
ステラは周囲の闇を見回した。
「あたしは認めるわ。だって否定する必要はないもの」
闇からの反応はない。
「みんなもそうでしょ? だって、人間ならおいしいじゃない。自動的にライバルが一人減ったようなものだし」
――な。
驚く俺の顔を見て、ステラは片目をつぶって見せた。
……確かに、その通りだ。
俺は他の悪魔たちと比べて大きく劣っている。
だから、単なる星稼ぎ要員と思われても仕方がない。
むしろ、今はそう思われて上等。
他の候補が舐めてかかってくれれば、俺はスタートラインに立てる。
ステラが言ったことは事実であり、そして他の候補も、俺も、反対する必要のない発言だった。
星ガ丘ステラ……頭も切れる。底が知れないな。
「あの……承認、します」
随分と控えめな声だった。
「ほら、ネイトは認めたわよ? 他の連中は後れを取っていいの?」
ネイト……という悪魔なのか。ステラと顔見知りらしいが、どんな人なんだろう?
紋章がもうちょっと明るくなれば、姿が見えるんだけどな……と思っていると、
「承認する。だが『
闇の中から、そんな声がして紋章が一つ消えた。
誰かが一人、帰ったということか……それにしても、最弱とか言われたけど、マジ?
「承認」
「承認します。それにしても人とは……せめて強いアルカナであれば、まだ戦えたものを……」
「どんなアルカナでも、人間じゃ……承認」
続けて声が上がり、次々と紋章が消えて、残ったのは――、
「認めてもいい……だが、条件がある」
紋章が明るく光り、『
「うちのカードが、どうしても手合わせしたいそうだ。もしカード一人に後れを取るようであれば、魔王大戦など元より無理な話。もし勝てば、参戦を承認しよう」
「他の魔王候補はみんな賛成しているのよ。一人だけ反対したところで、そんな条件飲めるわけが――」
反論しようとしたリゼル先輩を俺は押し止める。
「分かった」
「ユート!?」
驚くリゼル先輩、雅、れいなだが、俺は引くつもりはなかった。
なぜなら、俺もそいつと戦いたいと思っているからだ。
「それで、手合わせはいつにするんだ?」
「今からにきまってんだろぉおがぁああああああああああああああああっ!!」
「!!」
天井から廃田が襲いかかってきた。
「みんな伏せて!!」
咄嗟にリゼル先輩が上に片手を伸ばす。瞬間的に防御魔法の『
「それがどうしたぁあああああっ!!」
廃田が叫ぶと『
俺の体に、ぞくりとした寒気が走る。周囲の様子がおかしい。妙な魔力に取り囲まれているような、追い詰められているような感覚があった。
リゼル先輩の顔色が変わった。
「!? 雅っ! ユートを!!」
「らじゃっ!」
「うおぅ!?」
雅に襟首をつかまれ、引っ張られる。
瞬間的にもの凄い加速を感じ、気付けば十数メートルを移動していた。
れいなも、少し離れた所にいる。
それを確認すると、リゼル先輩も真横に飛んだ。
次の瞬間、さっきまで俺たちが立っていた床が、ごっそりと削り取られた。
「何だ……あれは」
見えない巨大なスプーンで、床をアイスの如くくり抜いた――そんな印象だった。
半球形にくり抜かれた床は宙に浮き、その上に廃田が立っている。
「ひゃはははっは! 驚いた? 驚いたかよ、これが俺の固有能力『
雅が廃田に対して、拳を上げて構える。
「アイツ……結界を武器に使ってる」
結界だと? あれが……か?
リゼル先輩が廃田から視線を外さずに、俺たちのところへやって来た。
「ええ、恐ろしく強力な結界よ。強引に結界の中と外を分ける力を持っている。もし、あれに体の半分だけを取り込まれたら……」
れいなが震え上がった。
「ま、まさか、体が、はんぶんに……」
地響きを立てて、くり抜かれた床が落下した。
「ははははっははは! そのとおーりだ!! 体のどこだってくり抜いてやるぜ? どうよ、みやびぃ? そのでかい胸をくり抜いてやろうか? ひゃははははっ!」
「く……そんなこと、させるわけないでしょっ!」
「出来るんだよ、俺には。ったく、いつもドエロい体を見せつけやがって、このビッチが。素直に俺のモノになりゃあ、可愛がってやるけどよぉ……逆らったら、二度と男を惑わせないようにエロいパーツだけくり抜いてやるぜ」
雅の頬に冷や汗が流れる。
「あんた……サイテー……」
「何とでも言え。あと一時間後には、てめーは俺の性奴隷だ。どっちにしろ、そこの人間が負ければ、お前は売られるんだ。早いか遅いかの違いだろーが」
「……っ!!」
雅が奥歯を噛みしめる。前に出した拳が震えている。
確かに雅は強い。でも、どれだけ強くたって、恐怖を感じないわけじゃないんだ。
リゼル先輩の顔に、明らかな怒りの感情が浮かんでいる。
「覚悟しなさい、廃田……あなただけは、許さない。生まれてきたことを、後悔させてあげる」
リゼル先輩の瞳が青く輝いた。
その殺気に、その迫力に、正直ビビッた。でも――、
「待って下さい、リゼル先輩」
「ユート?」
「ご指名ですから、俺がやります」
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