第12話:教室炎上

「こいつはただの人間だ! そんな奴に魔術式が分かるはずがない! 未解決魔術式なのをいいことに、でまかせを言ってるだけだ!」


「いや、それより俺の席……」


 男子生徒は俺をびしっと指さした。


「三条男爵家の名にかけて、お前の正体を暴いてやる! 魔王候補だというなら、魔法を見せてみろ!」


 ああもう、気に入らないのならせめて無視してくれ。なぜマウントを取ろうとしてくるんだよ。


「……魔法を見せれば、席を用意してくれるのか?」


 男子生徒は、バカにしたようにフンと鼻を鳴らした。


「好きなだけ用意してやる。安心しろ」

「いや、一つでいいけど……」


 仕方ないな……まあ、昨日魔法を覚えておいて良かった。


 三条は手を広げると、まるで特撮ヒーローのような派手なアクションで腕を前に突き出した。


「まずこの俺が見本を見せてやる! 『豪炎ファイガ』!!」


 俺と三条の中間のあたりで、炎が上がった。


「おおっ!」


 と、教室がざわめく。


 しかし、その時にはもう炎は消えていた。


「……」


 イメージ的には、料理とかの映像でフライパンが一瞬燃え上がるカッコいい調理シーン。あれみたいな感じだった。


 思わず俺は沈黙。必死になって考えた。


 ……本当に、あれでいいのか?


 見たところ三条はドヤ顔してるし、教室のみんなも特に渋い顔はしていない。

 とすると、あんなもんで良いのだ。


「よし……じゃあ、俺の番だな」


 手の平を三条に向けて伸ばす。


 昨日、リゼル先輩に癒やしてもらったから、魔力は十分に残っている。これなら、昨日ゲルトを吹っ飛ばしたくらいの威力なら問題ない。


 あれの半分……いや、四分の一……いやいや、十分の一くらい?


 ――いや、待てよ?


 みんな貴族だし、今まで勉強もしていたんだろうから、きっと俺より凄い力を持ってるに違いない。


 ……もしかしたら、三条はわざと威力を弱くしてたとか?


 あんなもんで良いのかと思って、魔法を出したら「そんなショボいの認めねえ!」とか言われるとか! そういう作戦なのかも!?


 ああっ! 何だか、急に不安になってきた!!


 教室で席に座りたいだけなのに、何でこんな大変なんだ!?


「やっぱ、昨日と同じくらいだ!」


 そう決めると、手の平から魔法陣が広がった……けど、何だか、昨日よりも大きくないか?


「なっ!?」

「なによあれ!?」


 おいおい! 俺の体よりも大きいんだけど!? この魔法陣!!


 ――ええい、ままよ!


「『豪炎ファイガ』!!」


 次の瞬間、一年D組の教室内に炎の嵐が吹き荒れた。

 床も壁も天井も炎で炙られ、生徒たちは残らず火だるまになった。


「きゃぁあああああああああああああああああああああっ!?」

「うわぁあああ! た、助けてくれぇええええええええええええええ!!」


 教室は阿鼻叫喚のるつぼと化した。


 その直後、教室の壁や天井、床に魔法陣が浮かび上がり、炎が消えてゆく。

 スプリンクラーならぬ、魔法相殺安全術式が発動し、魔法の効果を止めたのだ。


 恐らく大怪我をした生徒はいないはず……しかし、机も椅子も、広げていた教科書やノートなどは、ほぼ消し炭になってしまった。


 全員、呆然として立ち尽くし、俺は全身から滝のような汗を流していた。


 やべえ……やべえよ、これ……。絶対怒られるだろ。


「あはははははは! ずいぶんハデにやったじゃん! ゴゴゴゴーってなって、ボアアアアって燃えて、もうサイコーっ!! あははははははは!!」


 雅だけが、脳天気にゲラゲラと笑っていた。


「お前の気楽さがうらやましいよ……」


 ひまわりのような雅の笑顔を見ても、明るい気分になれなかった。


 これは職員室に呼び出し間違いなし……停学とかになったら、どうしよう。


 床にへたり込んで、震えるまなざしで俺を見上げる滝沢先生に、何と言って謝ったら良いのか、しばらく悩んだ。

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