第13話:校長室へ呼び出されて、オタトーク

 案の定呼び出された。しかも校長室に。


「いよう、よく来たね」


 一人で校長室に入って緊張しまくりな俺に、その人は立ったまま軽いノリで挨拶をした。


「あの……校長先生に呼び出されて、来たんですけど……校長先生は?」

「オレオレ! 俺だよ、俺!」


 何でそんなオレオレ詐欺っぽく言うんだ。


 魔王学園の校長は――学園に似つかわしくないおっさんだった。


 軍服っぽい服を、思いっきり着崩している。服も顔も、本当はカッコ良さそうなのに、全てを台無しにするだらしなさ。無精髭を生やし、垂れ気味の目は眠そうだ。


 背筋を伸ばせば背が高そうなのに、背中を丸めて口元にはへらへら笑い


 一言でいうなら、ちょいワルオヤジだろうか。ちょっと残念な感じの。


「改めて自己紹介しようか。俺は校長! 魔王学園、通称銀星学園のなっ!」

「逆です」


「細かいことはいい! それより俺の名を言ってみろ!」

「自己紹介とは一体!?」


「ワハハハハハハハ! 先生、少し先走っちゃったな! 先走りが出ちゃったな!」


 下ネタ!?


「だが心配いらないぞ! 先生まだ若い者には負けんからな! 抜かずの三連発くらい何ともないぜ!!」


「何の話ですか!?」


 またワハハハハと豪快な笑い声を上げると、校長は親指で自分を指さした。


「俺の名はガンドウ」

「がんどう?」


 どこか不吉な響きだなと思った瞬間、校長の目がギラリと光った。


「GUN道ちゃうわ! 先生の顔、作画崩壊してないよね!? これでもイケメンって言われてるんだぞ!? 京アニクオリティだから!」


「伝説のアニメの話なんてしてないですよ!  つか、自分のビジュアルの良さを作画会社で表現しないで下さい! いや確かに京アニすごいけど!? ハルヒとか」


 くそ! この校長、ツッコミが追いつかねえ!


 ガンドウ校長がギラリと光る。びしっと俺を指さした。


「ハルヒと言えばスニーカー! ならばスニーカー文庫アニメと言えば!?」

「魔装学園H×H!」

「同士!!」


 ガンドウ校長は右手を差し出し、俺はそれに応え、固い握手を交わした。


 何なんだ、この校長。いや、俺もつい握手しちゃったけど!


「フフ……若いのになかなかやるな。GUN道とハルヒを観ているとは。そして魔装をチョイスするあたりは、逆に若さにあふれている。情熱とパトス、そしてエロス!」


「エロスはともかく、昔のアニメを知ってるのは、うちの両親がオタクなんで」


「なるほど英才教育を受けていたか。『恋人ラバーズ』に選ばれるわけだ」


「関係ないですよね!? って……ガンドウ校長、俺が『恋人ラバーズ』のアルカナを持っていることを、知ってるんですか?」


 握手した手を離すと、ガンドウ校長は机に腰を下ろした。


「当然だ。俺は、がんどうバルバトス。ここの校長であり、現魔王だ」


「……」


 ウソでしょ?


 呆然とする俺を見て、ガンドウ校長はニヤリと笑った。


「リゼル君に色々と教わっているようだが、この学園と魔王大戦について、まだまだ知らないことが多そうだ」


「え……は、はい」


「よーし! では特別にこの俺が、教えてあげちゃうぞ! これでもセンセーは先生なんでね! ハハッ!」


 ……何で最後、某ネズミーマウスっぽく言った。


 いや、それよりこの人、本当に現在の魔王なのか?


 疑問を感じている俺を置き去りにして、校長は得意げに説明を始めた。


「この銀星学園が、なぜ魔王学園と呼ばれているか……それは、次期魔王を選ぶ際、この学園の生徒から選ばれるからだ」


「え、でも俺は、普通の人間の学校に通っていましたけど……」


「他の学校に通ってても、非常に優秀であれば例外はある。尤も、君の場合は特別だ。人間の生徒というのは前代未聞だからね!」


「もしかして、学園側の手違いとか?」


「いや、君は我々が選んだのではない。アルカナが選んだのだ」


 ガンドウ校長は、俺の胸の辺りをじっと見つめた。シャツの下に『恋人ラバーズ』のアルカナがあることを見抜いているかのように。

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