第14話:魔王大戦

「アルカナが、自ら主人と定めた者の元へ行った……というのは例がない。君はイレギュラーもいいところだ」


「そうなんですか……でも、どうして俺のところへ?」


「それが分かったら苦労しないよ! 対応に困ったんだぜ!? おかげで職員会議も延長だ。昨今は働き方改革も叫ばれているというのに」


「はあ……すみません」

「いや、気にするな! 働き方改革などという言葉は、魔界には必要ない!!」


 じゃあなぜ言った。


「ともかく君が『恋人ラバーズ』のアルカナに選ばれたのは、疑いようのない事実。となれば、君は『魔王大戦』への参加資格があるということになる」


「魔王大戦……魔王のアルカナを持つ者同士が戦うんですよね」


「そうだ! 魔王のアルカナを持つ二十二名が戦い、その最終勝者が次期魔王となる!! いわば、この魔王学園の頂点を決める戦いさ!」


 校長は机の上に立ち上がり、謎のポーズをキメた。


「それって……その、殺し合い、みたいな?」

 恐る恐る訊いた俺に、ガンドウ校長はニカッと良い笑顔で応えた。


「そうとも!」


 笑って言うことじゃねえよなあ……。


「ハハハハ、心配性だな、君は! 大丈夫! 楽しいイベントだってあるさ!」

「楽しい、イベント……?」


 絶対、嘘だ! と思いつつ「どんなのですか?」と訊いてみた。


「なにせ魔王大戦は長丁場。一年かけて行われるんだ。その間、スポーツやら文化祭やら、アレやらコレやら色々な競技大会的なものがある。その成績も、魔王大戦の勝敗に影響するんだ。有利に進めるための、アイテムがもらえたりとかね!」


「なにそれ! 楽しそうですね!」


「そんなのを利用しつつ、一年かけて殺し合うのさ! いかに有効なカードを手に入れるか、どんなカードを揃えるか、その戦略もキモだよ! そして相手を蹴飛ばし、蹴散らし、蹴落とすんだ!」


「……」


 楽しげなイベントと、殺伐としたイベントのギャップがひどい。普通の人間にとっては、悪魔の感覚は理解し難い。


「――とまあそんなわけでカードも重要。魔王大戦は魔王候補だけじゃなく、他の生徒も参加型のイベントってわけさ」


 なるほど……それでアスピーテはリゼル先輩を欲しがっていたのか。単に美人だからってわけじゃなくて、能力を必要として。


「カードには誰でもなれるんですか?」


「ああ! 魔王候補とカードが契約を結べばね! だが気を付けるんだぞ。この学園の生徒は、これからの魔界と人間界を支配してゆく者たちだ。みな野心を抱えている。アルカナを得た者は『魔王』を目指して戦うが、他の者はどの候補者に付くかを決め、カードとなることを目指す。自分が付いた候補者が魔王になれば、二つの世界を支配する一員となれるからね」


「でも……全員がカードになれるわけじゃないですよね? 魔王候補になれなくて、カードにも選ばれなかった生徒はどうするんですか?」


「ここの生徒はいずれも魔族の有力者の子弟だ。こいつはと見込んだ魔王候補との人脈作りに励む。政治力、経済力を使った戦いだね」


「……なんか、凄いですね」


「ハハハハ! まあ仮にも、最も優秀な魔族が集まる学園だからね! 逆に、そんな連中のトップに立てないようじゃ、魔王になる資格はないってことさ!!」


 改めて聞くと、自分の置かれた状況に体が震えそうになる。


「だから君も、早く優秀なカードを手に入れた方が良いぞ!」


「はい、ありがとうございます……でも、そもそも人間である俺が、魔王大戦に参加しても、いいものなんでしょうか……?」


「そんなことより、アニメの話しようぜ!!」

「何でだよ!?」


 どうやら校長は、普段オタク話をする相手がいないらしい。


 結局、午前中の授業が終わるまでオタトークにつき合わされた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る