第10話:クラスメートはギャルで巨乳

 止まっても降りる気配がないので、どうしたのかと思っていると、運転手が降りてドアを開けた。なるほど、自分で車のドアを開けたりしないのか。さすがお嬢様。


 車から降りる動作ひとつとっても上品だ。俺は先輩と並んで歩きながら、しみじみとつぶやいた。


「やっぱり先輩は、いい家柄のお嬢様なんですね」


「どうかしら? 一応、貴族ではあるけれど」

「疑いようもなく、いいじゃないですか」


「尤も、偉いのはご先祖で、私は何もしていないけど」


 しかし、他の生徒たちが道を空け、恐れるような顔でこちらを見ている。

 リゼル先輩は他の生徒たちから恐れ多い存在と思われている、ということだろう。


 思ったことをそのまま口にすると、先輩は俺に流し目を送る。


「そのうち、私よりもあなたを恐れるようになるわ」


 またまた。ご冗談を。

 そう心の中で思いながら、軽く笑う。


 昇降口で靴を履き替え、教室に向かう廊下でも、周囲の生徒たちの反応は変わらなかった。


「じゃ、私が送ってあげられるのはここまでね」


 一年D組の教室の前で、先輩は立ち止まった。


「ありがとうございます。ここからは、一人でも大丈夫ですよ」

「いいえ、そういうわけにはいかないの。一人にはしないわ」


「え? でも先輩は二年生ですよね?」

「次の担当に引き継ぐから」


 ……次の担当?


「おっはよーっ! ユートっ!」


 教室から飛び出して来たおっぱいに腕を挟まれた。


「なっ!? み、雅っ!」


 昨日パレスで顔合わせをしたギャル、夕顔瀬雅だ。


 今日も露出度の高い着こなしで、胸の谷間を見せつけている。その胸が、俺の腕を挟んでむにゅっと形を変えている。


「今日から同じクラスだよ。ぎゃるっとヨロシクね!」


「それじゃ雅、頼んだわよ」

「えへへ、バッチりょーかい」


「……それと、無意味な接触は避けて」

「無意味じゃないよ? こーして好感度をメキメキ上げて、カードにしてもらうんだから」


 リゼル先輩は頭痛がするというように、眉間を押さえた。


「そういうことではなく、信頼を得られるような行動を心がけて」

「はーい」


 返事は良いのだが、腕を放す気はないようだ。


 先輩は諦めたように溜め息を吐くと、去って行った。何だか悩みが多そうで、気の毒だ。


「えへへー」


 にへらと笑うこちらは、まるで悩みなどなさそうだ。


 腕を引っ張られて教室に入ると、それまでざわついていた教室が、しんっと静まり返った。


 ……あれ?


 全員の視線が俺に集中しているような?


 迷惑そうな、或いは侮蔑、そして敵意に満ちた視線が注がれている。


「なあ、雅」


「ん、なに?」


 俺は声をひそめた。


「やっぱり俺が人間だから……みんなに嫌がられてる?」


「あー、そうかもね」


 あっさり認められると、ちょっと傷付くな!

 しかし雅は、一点の曇りもない笑顔で俺をなぐさめた。


「でも気にする必要なんか、ゼンゼンないって」

「雅……」


 不思議なものだ。雅の明るい笑顔を見ていると、俺も明るい気分になる。屈託のない無邪気さが、今の俺には救いだ。雅が同じクラスだったのは良かった。


「そんなん、ちょっとユートの実力を見せてやればいいし! ドーンってやって、ババーンってして、ドヤァって!」


「擬音で話されても、何だか分からんが……もう少し穏やかに行こうぜ」


 そのとき教室の扉が開いて、先生と覚しきスーツ姿の女性が入ってきた。メガネをかけて髪を結った、なかなかの美人だ。


「はーい。みなさん席に着いて……」


 俺と目が合った瞬間、眉をひそめる。


「ああ……そういえば、転校生がいたのですね」

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