第47話 エピローグ

 アスピーテの屋敷にほど近いマンションの屋上で、二人の魔王候補が一部始終を見つめていた。


「あははははは! なにあれ!? まさかのパンチ!? ただ殴っただけじゃない! あれで魔王候補の勝負が付いちゃうわけ!? 信じらんないっ!! あはははははははは」


 星ガ丘ステラはすっかりご機嫌で、笑いが止まらないようだ。


 もう一人の少女、ネイト・カルナックは胸を押さえて、ほっと溜め息を吐いた。

「よかった……リゼル」


「なによ、そんなに気になるんだったら、助けてあげれば良かったじゃない?」

「ううん……あたしは、戦いは……ちょっと」


戦車チヤリオツト』という押しの強そうなアルカナのくせに、ネイトは弱気で引っ込み思案だった。


 やれやれ、と言いたげにネイトを一瞥すると、ステラは廃墟と化した屋敷に視線を戻す。


「にしても、なかなか面白いわね……『恋人ラバーズ』の魔王候補」

 すっと目を細めるステラに、ネイトは心配そうな声で話しかける。

「ステラも……何かするつもりなの?」


「さあ? でも、あたしがちょっかい出さなくても、他の連中が放っておかないんじゃない?」


 ネイトはさらに不安そうな顔をした。

「……そう、かな」


「そうよ。だって、『世界ワールド』の魔王候補アスピーテを倒したのよ? それも『恋人ラバーズ』の魔王候補が。しかも人間が!」

「うん……だよね」


「盛岡ユート、か……」

 リゼルに抱きしめられるユートを見つめ、


「あと何日――生きられるかしらね?」


 どこか楽しげにステラはつぶやいた。



     ◇     ◇     ◇



 目が覚めると、黒とピンクと白、三匹のバニーガールが立っていた。


「本当にこんな格好をするの?」

「もーセンパイ往生際が悪いなー。さっき決めたじゃん」

「でもでも、れいなはおっぱいのところ、がばがばで……見えちゃうです」


 ……ここは天国か?


 エナメル素材のバニースーツに網タイツ。お尻がこちらに向くと、白く丸い尻尾がフリフリしてる。


 三匹のうち、黒髪の黒バニーは完璧なボディスタイルを誇る。悪魔だけど女神のような美しさ。


 ピンクバニーは金髪むちむちで、大きなお尻とおっぱいを、バニースーツが持て余している感が凄い。まさにドスケベボディ。


 白バニーはまさに無垢なるつるべたボディ。逆に犯罪の香りしかしない。今にもスーツが、すとっと脱げ落ちてしまうのではないかと心配になる。


 と、ガン見してたら雅に気付かれた。


「あ、シャキッとした? ユート」


「ここは……あれ? 俺の部屋?」

「お、おはようございます、ですです」


 どうやらここは天国ではなく、自宅のようだ。死んではいないらしい。


「俺は、どうして……」


 リゼル先輩はベッドの横に腰掛け、いたわるように俺の頬を撫でた。

「アスピーテの屋敷から、あなたを運んできたの。よほど疲れていたのね。一日半も寝続けていたわ」


 時計を見ると、真っ昼間だった。


「すみません。手間をかけさせちゃって……でも、何でバニーガール?」

「それは……」


 リゼル先輩が頬を染めて、うつむいた。


 れいなも、恥ずかしそうに体をよじる。その拍子にバニースーツの胸部がぺろりとめくれ、色素の薄い乳首が見えてしまったような――でも、涙目になって慌てて直しているので、見えなかったことにしよう。


 一方雅は、誇らしげにセクシーポーズを取って、俺にウインク。


「寝ている間に癒やしてあげてたんだけど、全然起きないからさー。目が覚めたときのサプライズ? ってゆーか、頑張ったご褒美かな!」


 体を起こした俺の隣に、当然のように体を寄せる雅。バニースーツから覗く胸の谷間が深すぎて、見ていると遭難しそうだ。


 慌てて目をそらすと、


「照れなくてもいーよ。ユートだったら、いくら見てもいいんだし……」


 雅は大きなおっぱいを俺の腕に押し付けた。

 形が歪んで、おっぱいがスーツからこぼれ落ちそうになる。

 再び目を奪われてしまった。


「見るだけじゃなくて……いいよ? ユートになら、何をされても」


「はわわわわわっ!?」

 雅の大胆発言に、れいなは真っ赤になった頬を冷ますように、両手で押さえた。

 当然、スーツの胸部分がぺろん。


 リゼル先輩はといえば、頬を染めて、口をへの字にしている。

 ぐぬぬぬ……という声が聞こえてきそうな感じ。


「雅、ユートも気が付いたことだし、もう帰って休みなさい。あとは私がするから」

 あからさまな対抗意識を燃やし、リゼル先輩は俺の腕を胸に抱きしめる。


「センパイこそ休んだら? もう歳だし」

「一つしか違わないでしょ!! それに、誕生日もまだ来てないんだから十六よ!」


 リゼル先輩にしては凄くテンションが高いのでびっくりした。

 ゼロから急にレッドゾーンへ飛びこんだような。


「えーでも、ほら、寝不足だと太るっていうし」


「ふ、太ってない! 太ってないわ!! 言いがかりよ! 冤罪だわ! ちゃんと栄養士も付けてカロリーコントロールもしてるんだから!」


 してるんだ……ダイエット。


 やはりリゼル先輩に、体重の話は地雷らしい。

 容赦なく踏みに行く雅も凄いが、明らかにわざとだよな。


「あ、あのあのっ! れいなが一番寝ちゃってたので、れいなが見てますから! 先輩方はお休みになってください、ですです!」

 汗を飛ばしながら、必死にこの場を収めようとするれいな。


 ただし、平らなおっぱい丸出しで。


 その背徳的ないやらしさに、リゼル先輩と雅の顔が険しくなる。

「れいな……恐ろしい子」

「うわ、捨て身でポイント稼ぎに行くなんて! アタシだってぎゃるっと稼ぐよ!」


 そう言って、あろうことかただでさえヤバい胸元を広げようとする。


「へ?……はわぁぁぁわあわわわわ」

 今さら気付いたれいなが、慌てて胸をたくし上げる。


 そのとき、更なるカオスが足音を立てて二階へ上がってきた。


「ゆーくん! 目が覚めたのね!!」

「ユート! 大丈夫かぁあ……あああぁっ!?」


 母さんと父さんが部屋に飛び込んできた。そして、息子の部屋に突然開店したバニーガール・バーに絶句。

 すかさず母さんが、父さんを部屋から叩き出す。


 相変わらず何気にひどいな、母さん。


「なにコレ? 何の騒ぎなの!?」

「あ、あの……これは、その」


 さすがのリゼル先輩もしどろもどろ。


「分かった! パーティなのね! 若いからハメを外してるのね! だったらお母さんも着た方が良いのかしら? 着た方が良いわよね? だってお母さん、まだ若いし!!」


 いや、あんたアラフォーだろ。見た目はともかく。


 俺の部屋は混乱の度を増し、そして笑いに包まれた。


 今回は、母さんと父さんにも迷惑をかけた。

 二人とも無事だったが、それでも、もう二度と巻き込みたくない。


 それにリゼル先輩や、雅、れいなも、出来るだけ危険な目に遭わせたくない。


 しかし、これからもっと、恐ろしい魔王候補が現れるだろう。


 それでも俺はみんなを守り、『恋人ラバーズ』のアルカナと共に魔王大戦を勝ち抜き、次期魔王を目指す。


 三匹と一匹のバニーガールにもみくちゃにされながら、俺はそう決意した。


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魔王学園の反逆者 ~人類初の魔王候補、眷属少女と王座を目指して成り上がる~ 久慈マサムネ @kuji_masamune

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