第28話 友達になるのは難しい

 翌日、またもリゼル先輩の車で送ってもらい、俺は教室に入った。


「……あ」


 今まで空席だと思っていた席に、包帯を巻いた男子生徒が座っていた。

 相手は俺に気付くと、忌々しそうな顔で目をそらす。


 俺はその男子生徒に近付くと、声をかけた。


「ゲルト。もう大丈夫なのか?」


「……うぜえな」


 まあ、そうだろうな……。

 きっと俺に話しかけられるのも、ムカつくんだろう。そっとしておく方がいい。


 そう思って自分の席に戻ろうとすると、


「何で……俺を助けようなんて思ったんだよ」


 そっぽを向いたまま、独り言のようにゲルトがつぶやいた。


 俺もまたゲルトに背を向け、誰にともなく言った。


「――別に。お前も主人の力になろうと思ったんだろうし、認めて欲しかったんだろ? それなのに、あいつらはその気持ちを踏みにじった。負けた仲間を助けるどころか、逆にリンチにかけた。それが許せなかった。ただそれだけだよ」


 吐き捨てるようなゲルトの返事がした。


「ケッ、きれいごとを言いやがって」


 振り向くと、俺を睨むゲルトの目があった。


「きれいごとついでに、戦いが終わったらノーサイドってのはどうだ? 同じクラスなんだし、友達になってもいいんじゃないか?」


「んだそりゃぁ!?」


「いや……ほら、よくあるじゃないか。拳で語り合って、お互いを理解して友達になるって展開」


「いつの時代の少年マンガだ! 馴れ合うなら、他の連中としろ!」


 やっぱり、そう簡単にはいかないか。


「トボケた人間が……ったく、余計なことしやがって」


 そうつぶやくと、ゲルトは俺を無視するように顔を背けてしまった。

 俺は肩をすくめると、今度こそ自分の席に向かった。


 その背後で、


「何がダチだ……ふざけやがって」


 という声が聞こえた気がした。



     ◇     ◇     ◇



 その後もゲルトは大人しく授業を受けていたが、三時間目が終わるとカバンを持って堂々と出て行った。サボり方が堂に入っていると、妙な感心をしてしまった。


 俺はといえば、普通に授業を受け、放課後はリゼル先輩との特訓。

 ありがたいことに、車で家に送ってもらった。


「いつもすみません」


「気にしないで、ゆっくり休みなさい。それと危ないから、夜は外を出歩かないこと。いいわね?」


 普通なら子供じゃあるまいし……と思うところだが、恐らくは俺を狙う魔王候補を警戒してのことだろう。


 俺は素直にうなずくと、家の中へ入った。


「あら。お帰りなさい。ちょうどご飯が出来たわよ」


 リビングを覗くと、父さんもいる。今日は早めに帰ってきたようだ。


 早く着替えようと、二階の自分の部屋へ上がる。


 腹が減っているので、妙に気が急いてしまう。

 慌てて制服の上着を脱ぎ、部屋着を出そうとした。

 そのとき、ふと窓の外の様子が目に入り――、


 ――?


 外は真っ暗だった。


 思ったより早く日が暮れた――と、最初は思った。

 しかし次の瞬間、その異様さに気が付いた。


 窓の外が、本当に黒い。まるで墨で塗りつぶしたように。


「何だ、これ……」


 窓を開けようとするが、ビクともしない。


『警告――』


 突然、頭の中で『恋人ラバーズ』のアルカナの声が響いた。


『脅威が近付いています。危険指数4。速やかな撤退を推奨』


「……まさか」


 ――他の魔王候補の襲撃!?

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