第20話:愛魔献上~三人の美少女魔族の癒やし

「……ん」


「あ、目が覚めたですです」


「ここは……」


 天蓋付きのベッドに寝ていた。答えを聞くまでもない。『恋人ラバーズ』のパレスだ。


 右側にリゼル先輩が寄り添い、左側には雅、体の上にはれいなが腹ばいになって乗っていた。本当に乗っているのか疑いたくなるような軽さだった。


 俺が気を失っている間に、『愛魔献上ヒーリング・ラバーズ』をしてくれていたのか……。


「みんな……迷惑かけて、ごめん」


 リゼル先輩は優しく俺の頭を撫でた。


「どうして謝るの? あなたは自分の力でキルガに勝ったのよ?」


「ですです! とてもかっこよかったです!」


 そう言われても、素直にはうなずけない。実際こうして今、みんなの世話になっている。魔力が尽きた俺は、電源が切れたように気を失ってしまう。


「みんな、ありがとう。俺が勝手にやったことなのに……しかも敵のために敵わない相手に挑むだなんて……バカだよな」


 リゼル先輩は枕に頭を乗せたまま、少し首を横に振った。


「いいえ、そんなところがステキだと思うわ」


「え?」


「それでこそ、『恋人ラバーズ』のアルカナを持つ魔王候補……私たちの魔王様よ♡」


 少し頬を染め、熱っぽいまなざしで言われると、何だかその気になってしまう。リゼル先輩の綺麗な瞳を避けるように、反対側を向くと――、


「なんか大人しそうだと思ってたのに、思ったより熱血なんだね! あー、アタシも見たかったなーっ。ユートがズバババーってやって、ドッカーンってやったところ!」


 やめてくれ、恥ずかしい。


 雅から視線を外して、天井を見上げると、


「やっぱりやっぱり! ユートさんは愛の魔王です!」


 そこには無垢な笑顔のれいながいた。


 なんだこれ。完全に逃げ場がない。どっちを向いても、美少女じゃないか。


 ……っていうか、


 もう覚悟を決めるべきじゃないのか?


「みんな――」


 俺はさりげなく訊いた。


 心の中に燃える心と、既に固めた決意を隠して。


「俺は、みんなが自慢できるような魔王になれるかな?」


 三人は顔を見合わせて、くすくすと笑った。


 そして俺から体を離すと、ベッドの上に座る。俺も体を起こした。


「ユート、それでは正式な契約を結びます。この私、姫神リゼルを『恋人ラバーズ』のカードに加えて頂けますか?」


「ああ。俺が魔王になるために。貸してくれ、リゼル先輩の力を」


 リゼル先輩の顔が近付いてくる。

 って、ち、近過ぎ――!?


 俺の唇に甘く柔らかい感触が広がった。


 俺のファーストキス。


 そのときアルカナから声が聞こえた。


『姫神リゼルが《女王クイーン》となりました』


 唇が離れる。


 リゼル先輩は指先で自分の唇に触れた。そしてうっとりした顔で誓約する。


「誓います。姫神リゼルは全てを捧げ、ユートのために尽くします」


 次は雅だった。

 さすがに照れているらしく、顔が赤い。


「えへへ……ちょっと緊張するね」


「ああ。俺だって――!?」


 不意を突いて、雅は俺の唇を奪った。


「……っ!」


『夕顔瀬雅が《王女プリンセス》となりました』


 さっと雅の顔が離れる。


「あ、あはは……その、とにかく、ヨロシクねっ! ユートっ!」


「ああ。こちらこそ」


 最後はれいな。


「あ、あ、あの、あの、ふふふふつつかものですですが、よろよろ――」


 ガチガチに緊張していた。


 なんか緊張がこちらにまで伝染しそうだった。俺は自分の方から顔を近付け、目を固くつぶっているれいなの小さな唇にキスをした。


『小岩井れいなが《騎士ナイト》となりました』


 唇を離すと、れいなは茹で上がったような顔で、ふらふらと体を揺らしていた。


 これで、もう後には引けない。


 俺はこの魔王学園で次期魔王を目指す。


 みんなのために。そして俺自身のために。

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