第21話:忍び寄る危機

世界ワールド』の控えパレスは、贅を尽くした会議室であった。


 王の座に座るのはアスピーテ。ライン侯爵家の御曹司である。


 細長いテーブルには、十四人分の座席が用意してある。

 座っているのは十一人。全員がアスピーテのカード――すなわち眷属である。


 魔王候補はカードを十四人まで持つことが出来る。


 2から10までの序列を持つ九人の組札スートカード。


 主力である

女王クイーン

王女プリンセス

王子プリンス

騎士ナイト

の四人で構成される宮廷コートカード。


 そして文字通りのエースである、エースカード。

 ――以上の十四人である。


「盛岡雄斗……人間の分際でキルガを倒すとはな……」


 席に座るカードたちは生きた心地がしなかった。いつアスピーテが怒り出すか分からない。腹いせに魔法でも使われたら、自分たちの命も危険だ。


 そんな中でただ一人、恐怖心を感じていないのか、麻痺しているのか、皮肉な笑みを浮かべている男がいた。


「アスピーテ様、お耳に入れたいことがあるんすけど」


「廃田か……言ってみろ」


 廃田と呼ばれた男は、制服の上にフード付きの上着を羽織っている。フードを深く被っているので、目元は分からない。しかし三日月型につり上がる口からは、どこか狂気を感じさせた。


「奴は既に三人のカードを揃えたそうですよ? しかもそのメンツってのが、姫神リゼル、夕顔瀬雅、小岩井れいな……」


 その名前を訊き、アスピーテが忌々しそうに顔を歪めた。


「リゼルめ……この俺の誘いを断っておきながら、正式に契約までしただと?」


 アスピーテの体から魔力が吹き出した。


「俺は、力尽くで相手を屈服させ、意に反することを強要する。泣き、苦しみ、怨み、しかし俺にひれ伏す。その姿を見ることこそ俺の喜び。そうすることで、俺は己の力を実感出来る。そして、真の意味で相手を支配することになるのだ。それを……あの女め」


 廃田以外のカードたちは震え上がった。魔力の波動を感じるだけで、震えが止まらない。それは本能的な恐怖だった。


 アスピーテの機嫌一つで、自分たちの命が消し飛ぶ。


 危険な主人ではあるが、実力は疑う余地もない。次期魔王の最有力候補だ。もしアスピーテが魔王になった暁には、自分たちにも栄耀栄華が約束される。


 但し、それまで生き残っていれば、だが。


「ねぇ、ボス。許せなくないっすか? うまそうなメスばっか手に入れて、許せねえっすよね?」


 アスピーテは目を細め、廃田を睨む。


 その瞳には殺気、そして廃田以上の狂気が滲んでいた。


「あんな奴はいつでも潰せる……奴本人はどうでもいい。それよりも、奴のカードだ。姫神リゼルを俺の前にひざまずかせるのだ。他の魔王候補に、使えるカードを取られるのは面白くない。それに――」


 アスピーテは嗜虐的な微笑みを浮かべた。


「リゼルを俺のカードにした上で、この俺に逆らった罪の深さを、永遠に思い知らせ続けてやる」


「そうっすよね! じゃあ、もしユートを倒して、女を攫ってきたら、姫神リゼルはあんたにやる! でも夕顔瀬雅は俺にくれ!」


「夕顔瀬……?」


「あの女、あんなドエロい体で校内を歩きやがって! けしからんっすよね? だってめちゃくちゃ犯したくなるじゃないっすか!?」


 フードの下から、爛々と光る瞳が現れた。


「だから俺が教育してやるんすよ! 首輪を付けて監禁して、徹底的に教え込んでやるんす! てめぇがただのメスブタだってことをなぁ! きひひひひひ」


 やや顔をしかめ、アスピーテはどうでもよさそうに答える。


「好きにしろ」


「っしゃあ! うちのボスは物わかりが良くて、助かるぜ!」


「その代わり失敗は許さん。貴様はうちのエースだ。敗北は死を意味すると心得ろ」


 廃田の口元に残虐な微笑みが浮かぶ。


「任せといてください! 必ずユートを殺し、姫神リゼルをアスピーテ様の奴隷にしてみせますよ! そして夕顔瀬は……俺の、性奴隷だ! ヒャハハハハハハ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る