第6話:目覚めると全裸美女が隣にいた

 は、ハダカっ!?


「す、すみませんっ!」


 はっと自分の体を確認すると、上半身は裸だが、幸い下はパンツを穿いていた。


「あ、あの……こ、これは……どういう?」


 答えを求めるようにつぶやくと、リゼル先輩は悠然と微笑んだ。


「回復の儀式魔術……『愛魔献上ヒーリング・ラバーズ』を行っていたの」


 リゼル先輩は腹ばいになって頬杖を突いた。毛布はお尻の半分ほどから下を隠しているだけで、割れ目が半分くらい見えてしまっている。

 むき出しになった白い背中がまぶしい。


 そしてベッドに潰され、横にはみ出すように曲線を描く大きな胸。


 リゼル先輩は俺の視線に気付いているだろうに、隠そうとする素振りもない。


「え、えっと……儀式? 魔術? 『愛魔献上ヒーリング・ラバーズ』?」


「あなたはまだ魔王候補として目覚めたばかり。簡単な魔法を使うだけで、魔力を使い果たしてしまうわ。だから、魔法を使った後でこうしてあなたを癒やして、私の魔力を分けてあげるの。そうすれば、すぐに魔力を回復させることが出来る。これはあなたの『恋人ラバーズ』のみが持つ、特殊な能力――固有魔法よ」


 俺は、首からペンダントのようにぶら下げている『恋人ラバーズ』のアルカナに触れた。上半身は裸だが、これは着けたままだった。


 さっきは、このアルカナから魔法の知識を得た。


 そして背中に当たっていたリゼル先輩のおっぱいから、魔力が注入された。少なくとも、そう感じた。


「あの、リゼル先輩。さっき、ゲルトと戦ったとき、俺の背中から――」


「ええ。『愛魔献上ヒーリング・ラバーズ』を使って、私のおっぱいから、魔力を送り込んだわ」


 そうはっきり言われると恥ずかしい。特に女の人の口から「おっぱい」という単語を聞くのは、妙に気恥ずかしかった。


「ユートは魔法を使うのは初めて?」


「ええ、そりゃもちろん」


「ふふ、本当に普通の人間だったのね。なんだか新鮮だわ」


 リゼル先輩は胸を抱えるように隠しながら体を起こした。片足が毛布から出て、むっちりした太ももが覗く。


 思わず、ごくりと喉を鳴らした。

 リゼル先輩は片手で胸を隠し、もう片方の手を俺の胸に伸ばす。


「あ……」


 少しひんやりした手が、俺の胸に触れた。

 すごく柔らかい。

 女の人の手の平は、こんなに柔らかいのか。


「『愛魔献上ヒーリング・ラバーズ』はこうして触れ合うことで、魔力を吸収してあなたを回復させる。相手との絆が深ければ深いほど、相手への思いが強ければ強いほど、その効果は大きくなる。それと、親密な関係でなければ触れ合わない箇所での接触が、より効果的よ」


 なるほど……それでゲルトと戦ったとき、先輩は敢えて胸を俺に押し当てたのか。そして、今は気を失った俺を回復させるため、この状況ってわけだ。


「私もするのは初めてだったけどね」


 リゼル先輩は頭を軽く傾ける。艶やかな黒髪がさらりと白い肌の上を滑った。

 確かに上級生で、俺の一つ上……ではある。しかしこの妖艶さは、とても高校生とは思えない。


 その色っぽさに思わず目を奪われるが、先輩もまた俺を見つめていることに気付き、つい視線を外して目をさ迷わせる。


 ベッドの他には大きなテーブルに椅子とソファ、TVに食器棚、クローゼット、姿見。置いてある家具はどれも立派で、どこかの高級ホテルのようだ。しかし壁や天井、窓を見ると、どこか違和感がある。


「ここは、どこなんですか?」


「『恋人ラバーズ』チームの控え室――通称『宮殿パレス』よ。校舎の三階になるわ」


「……って、もしかして、ここは学園なんですか!?」


「もしかしなくても学園よ。次期魔王候補には、控え室が与えられるの。勝手ながら、内装はこちらで用意させて頂いたわ」


 俺は改めて部屋の中を見回した。控え室と言っていたが、広さは普通の教室と同じくらいでなかなか広い。このベッドだってキングサイズ。しかも天蓋付き。やけに寝心地が良いし。


 リゼル先輩は俺に背中を向けると、サイドデスクに置いてある黒い下着を手に取った。セクシーな黒のブラジャーを着けながら、先輩は俺に話しかける。


「詳しいことは、これから順番に教えてゆくわ。あなたがこの次期魔王を決める、魔王大戦に勝利できるようにね」


 ――まおうたいせん?


 不穏なキーワードに、嫌な予感を抱いた。


「な、なんか……穏やかじゃない雰囲気ですね?」


「ええ。魔王の玉座に誰が就くのかを決める争いですもの。戦争よ」


「はあっ!? それって、さっきみたいなバトルをまたやらされるってことですか!?」


 先輩は背中に手を回して、ホックをはめる。その動作がやけに生々しい。


「いいえ、それは違うわ」


 良かった。あんなことが続いたら、命が幾つあっても足りない。


「あんなお遊びじゃなくて、本物の戦いよ。魔王のアルカナを持つ、最強の悪魔たち……とびきりの化物との真剣勝負。命の保証はないわ」


 もっとダメじゃん!!


「あの、もっと平和的にですね……話し合いとか、選挙とか……」


 リゼル先輩はベッドに座ったまま、前屈するように体を前に倒す。そして立ち上がると、パンツを引き上げた。


 一瞬、お尻が見えたような、見えなかったような。

 思考の止まった俺を振り向き、リゼル先輩は安心させるように微笑んだ。


「大丈夫よ。戦うのはあなた一人じゃない」

「え?」

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