第5話:はじめての魔法
ったく、勘弁してくれないかな、この人。
愚痴を必死に押さえ込み、再びアルカナに祈る。
このままじゃ、俺も、背中の姫神リゼルも焼け死んでしまう。
頼む。魔王のアルカナ。
俺に、戦う手段をくれ。俺と、背後にいるこの人を救うために!
すると――、
『攻撃魔法「
アルカナの声が聞こえると、俺は右手を前に出した。
手の平の少し先に、先程とは違う形の魔法陣が浮かび上がる。
これは、さっきゲルトが造ったものと同じ。
しかし、クオリティが違う。
俺は今さらながら、胸にぶら下げた『
そして俺に魔力を提供してくれている、姫神リゼルの力を。
「『
そう叫ぶと、俺の魔法陣から炎が走る。
ゲルトの数倍の火力とスピード。炎が濁流のようにゲルトに襲いかかった。
「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
防御魔法を張るゲルトだが、その魔法陣ごと押し流す。
ゲルトの体は吹き飛び、昇降口に叩き込まれた。その衝撃で下駄箱が倒れ、その下敷きになる。
遠巻きに見つめる生徒たちが声を失った。
俺はあまりの威力に、ゲルトの無事が心配になった。
「……大丈夫か、あれ」
答えを求めるように、俺は振り返る。
そこには、驚きの表情の姫神リゼルがいた。
思わず俺は息を呑む。
至近距離で見る、その美しさに。
「……信じられない。まさか本当に成功させるなんて」
え?
それじゃ……まさかこの人、俺を殺す気だった!?
「一応、私が助けるつもりだったのだけど……予定が変わっちゃったわね」
俺の表情を読んだのか、そう付け加えて微笑む。
「初めての魔法で、こんな威力を叩き出すなんて……正直、ここまでとは思わなかったわ。さすがは魔王のアルカナの所持者……いいえ、それだけじゃない」
姫神リゼルは熱っぽい瞳で俺を見つめた。
気恥ずかしくて、思わず目を泳がせる。
超絶美人に正面から見つめられるのが、こんなに恥ずかしいとは知らなかった!
「え、えっと。姫神、リゼルさん? あなたは一体……」
「私は二年A組の姫神リゼル。リゼルでいいわ。よろしくね、私の魔王様」
二年生……やっぱり、先輩だったんだ――って、魔王様!?
「リゼル先輩……訊きたいことは……色々あるけど、とりあえずは、ありが……」
あれ? 礼を言おうと思うのだけど、目まいがして……。
リゼル先輩が慈しむように微笑んだ。
「無理をしなくていいわ。ゆっくりおやすみなさい」
なんか目も霞んできた。美人を近くで直視したせいだろうか?
そんなわけあるか――とセルフツッコミをしたところで、俺の意識は途切れた。
◇ ◇ ◇
気が付くと、ベッドに寝ていた。
保健室に運ばれたのか……?
「良かった、気が付いたみたいね」
「え?」
横を向くと、リゼル先輩の顔があった。
「……っ!?」
びっくりして飛び起きた。
その拍子に、俺とリゼル先輩の体にかかっていた毛布がめくれ上がり、
「やんっ♡」
可愛らしい声をあげて、リゼル先輩は胸を押さえる。
毛布の下から、一糸まとわぬ裸体が現れた。
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