第40話 囚われのリゼル
「……ここは」
姫神リゼルが目を覚ますと、そこは見たこともない屋敷の中だった。
自分が横たわっているのは、赤いベルベットのソファ。
頭上には大きなシャンデリア。
暗い部屋にかすかなろうそくの明かりが揺れている。
クラシカルな内装は、フランス貴族でも住んでいそうな雰囲気だ。
「目が覚めたか」
薄暗い部屋に浮かび上がる、灰色の髪に白い制服。
寝不足のように沈んだ目の周り。そして世界の全てを見下したような微笑み。
「アスピーテ……あなたの仕業なの?」
リゼルは上体を起こそうとしたが、まだ頭が朦朧としている。
手を頭にやると、じゃらりと鎖が音を立てた。
手首に金属製の手枷がはめられ、鎖でつながれている。
「……ずいぶんと趣味の悪いアクセサリーね。これがライン家のしきたりなのかしら?」
「凶暴な野犬は鎖でつないで調教する。当然の手段だ」
「こんな仕打ちも、あなたの家に訪問することにも、同意した覚えはないのだけど」
「気にすべきは俺の意思だけだ。他人の意思など、どうでもいい」
「相変わらず傲慢ね」
「だが、許される」
アスピーテはリゼルが座っているソファの肘掛けに足をかけた。
「お前は俺のものだ。俺のカードになれ」
「お披露目で見たでしょ? 私はもう『
リゼルは挑戦的な瞳でアスピーテを見上げ――すかさず片手を前に伸ばす。
「はっ!!」
攻撃魔法が展開するはずだったが、何も起きない。
「……これは」
ぞくっと、全身に震えが走った。
アスピーテは、勝ち誇った微笑みでリゼルを見下す。
「『
アスピーテを中心にして、直径五メートルほどの球体が現れた。
それは球体に見えるが、幾何学的な図形や魔術文字で出来た球体――立体魔法陣だった。
リゼルは自分の周囲に展開した立体魔法陣を見回した。
「そう……この中では私の魔法も使えない、ということね」
「誰の魔法であろうとな。これが俺の、俺が支配する世界、俺が絶対的な存在である世界だ」
ふっと、リゼルは鼻で笑った。
「随分と小さい世界ね。自分一人で引き籠もるには丁度良いサイズだけど」
アスピーテの目が怒りに歪んだ。
肘掛けにかけていた足に力を入れ、思いっきり蹴飛ばした。
「あっ!?」
ソファが倒れ、リゼルが床に倒れる。
そしてアスピーテはリゼルに向かって手の平を向ける。
リゼルの魔法は起動しなかったのに、なぜか今度は魔法陣が展開した。
「きゃぁあああああああああああああああああああああっ!!」
リゼルの全身を、アスピーテの雷撃の魔法が襲う。
凄まじい衝撃と痛みが、リゼルの体を痙攣させる。
そして数秒の後、雷撃が止むとリゼルは動かなくなった。
服は焼け焦げたように破れ、煙を上げている。
「あ……う……あぁ」
喋ることすら出来ないリゼルを見下し、アスピーテは嗜虐的に微笑んだ。
「『
アスピーテはつま先でリゼルの体を軽く蹴る。すると、リゼルの体は体重がなくなったかのように、浮かび上がった。
「う……た、確かに……あなたの力はすごい……けど、私は……決して、あなたのものには、ならないわ」
「そうか。だが『
立体魔法陣が消えた瞬間、リゼルの体が床に落ちた。
その体を、アスピーテは容赦なく踏みつける。
「がっ!? ぐぅ……うっ!!」
「お前のためにパーティを企画してやろう。あの人間を『
「!? や、や……め」
「誰が次期魔王なのか。誰のカードになるべきか、よく考えろ」
アスピーテはリゼルに背を向け、部屋を出てゆく。
その後ろ姿がかすみ、リゼルは意識を失った。
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