第41話 過ぎる日々
期末考査を控えた北国の空は曇天が続く。コラボ初めての通し稽古はさんざんだった。
「南畝。あんた、冴えないわ」
月華さんの指摘にに身体が竦んだ。松里さんが首を捻る。
「演技は先月よりは良くなってない?」
「動作は正確になってる。新しくできるようになったことも増えた。けどつまんない」
「表現力なら、すぐ技術に追いつくんじゃないかな」
悪口ばかり言っていたはずの松里さんが口にする庇いの言葉が痛い。
「人形遣いの技術が完成するのなんて何十年後なの? そりゃあ、うまくなってもらわないとあたしも松里も困るわ。けど、そもそも見込んだのは別のもの。なあに? その覇気のない演技は。呼吸はどこに行ったの。一度も掴まれなかったわ。ロボットにすらなれていない。そんなんじゃあたしの人形に息吹は入らないし阿知良のシナリオも完成しない。合唱部を迷子にするつもり? 松里の三味線に負けっぱなしのお荷物なんじゃないの?」
苛立ちを隠さない月華さんの唇の端には薄い笑みが漂っていた。
――なぜ。
最初はその笑みの意味がわからなかった。コラボ仲間たちの強ばった表情はかつて聞かされたフレーズを蘇らせる。
――「ぶつかって壊れる」。
イメージ・スケッチが脳裏を過る。
噂に聞く不幸の人形へとコラボレーションが傾き始めた兆しではないか、私はもう壊れはじめているのではないか。
首筋の産毛が逆立った。小柄な金髪の少女が恐ろしかった。その感情の窺えない笑みとともに振るわれるイニシアティブに異を唱えない少女たちの集団が怖かった。
刀禰谷さんは更新されたシナリオのチェックに視線を落としていて、ただ一人、私が頼りにするはずの人が不穏な空気に気づいていなかった。
――歯車が狂っていく。
部の活動は充実し続けていた。阿知良さんと作りあげるシナリオも演技も着々と洗練されていった。
「松里チョイスの曲、合ってそうじゃない?」
「タイトルはどうしようか」
「合唱はあれだよね、昔のアニメであった感じだし。ナントカ黙示録みたいな?」
「PC部の演出も期待できそうだし〝レヴュー〟を謳うのはどうかな」
「大昔流行ったやつだっけ? シーンごとのギャップもそれっぽい」
仲間たちの会話は異世界の出来事のようだった。
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