第28話 新風

 あと、と刀禰谷さんは続ける。

「少女性という観点での乙女文楽は、今この学校でばらばらに頑張ってるはぐれ者をひとつにできる鍵だとも思った。この学校の変な方針のせいで個人で力を発揮する子はぽつぽついるけど、彼女たちを横に繋ぐものがなくてもどかしかったんだ。中等部から持ち上がった生徒はもうずっとそれぞれの方を向いて勝手にやってきて、互いの存在が当たり前過ぎて何も起きそうになくて。ほんとはそんなことないんだけどね。そこに乙女文楽を引っ提げた南畝さんが現れた」

 珍獣のような言い回しが少しおかしい。

「パズルの足りなかったピースを見つけた気がしたよ。南畝さんは新風なんだ」

 刀禰谷さんは不思議だ。

 ――この人には、何かが見えてる。

 成功のイメージを、幾筋もの道筋で見つけることができるのかもしれない。

 ――高一にできること?

 運動、絵、音楽。個人の技能の範囲ですごいと思える子は幾人もいた。中学生になれば大人と真っ向勝負する子も出てくる。高校生なら尚更だろう。松里さんや月華さんが良い例だ。

 都合の良い未来を夢見るだけなら私にもできた。月華さんが思い描いているだろうコラボレーションもその類だろう。

 けれど刀禰谷さんは少し違う。成功に繋がるための具体的なルートや手段が複数、細かに出てくるらしい。

 私はずっと稽古してきた乙女文楽に少女文化としての一面があるとは思いもしなかったし、そこに脚光を当てて輝かせるなんて尚更だ。稽古をともに楽しんでくれる仲間とのささやかな部活動を思い描いていただけ。男性しか立てない舞台でも、三十年かけて主遣いにたどりつくのでもない芸能を。

 そう、告白してみる。

「それも十分だと思う。特に変わったことをやらなくても秋の文化祭で演じれば『やりたい』って子が現れるんじゃないかな」

「いてくれるといいのですが」

「期待しよう。私や月華さんが動かされたんだよ。ただ、うちみたいに実質的な柱が南畝さん一人だと続けていくだけでも大変。部を支える人との繋がりが希薄になるんだよね」

「繋がり?」

「私たちがこれから築いていくもの、かな。組織とか伝統って迷ってしまったときに意外に助けになると思うんだ。目の前が真っ暗になってしまっても、道筋に沿って進み続ければやがて明るい出口が見えてくる、みたいな。うちの学校がたとえ一人でも部活という形にしてくれるのは、そういうことじゃないかな」

 あっさりと言った刀禰谷さんにまたおののいてしまう。私には思い当たることが多すぎた。

「気が進まないかもしれないけど、南畝さん、やっぱり先生と連絡を取ってみない?」

「え」

 一度提案され、前向きになれずに有耶無耶にしていた話だった。

「嫌だったら無理に、なんて言わない。えっと、例えば南畝さん、乙女文楽のお教室、ずっと続けてたわけじゃないんだよね」

「ええ……」

「やめてからも一人で練習を?」

「そうです」

「ずっと復習だけをしてきたのだと思うのだけど」

 私は頷く。

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