第47話 駆ける噂

 部屋に戻ると机の上には屋台のジオラマとスマートフォンが置かれていた。電源を入れた端末が大量の通知を表示し、見ている間にも増やしていく。学内SNSに噂が流れているらしい。

「〝人形遣い〟とか〝おかっぱ眼鏡〟とか誰のことか丸わかりじゃん、これ」

「抜き身を手に廊下を歩いたみたいですね、私……」

「部屋のドアも開いてたもんね」

 夏休み中とはいえ寮にはそれなりの人がいた。ナイフを握った私の姿もスマートフォンのカメラに捉えられていたらしく、目に黒線が入り『噂のNさん?』と煽り文句のついた写真が学内SNSを駆け巡っていた。

「これ、提供元は月華さんじゃないかな」

「え?」

「あの人はこういう出来事も作品の一部だと思ってるし平気で利用するんだよね」

 戻っていた端末には確かに流出した写真のオリジナルがあった。

「本当にあの人は」

「騒動を振り返るとあの人がいるんだ、いつだって。屋台のあれは謝罪の前払いのつもりかも」

「困った人です」

「生徒会の天敵なんだよ」

「なのにコラボなんですね」

「天敵は根絶より取り込むのが生徒会の方針」

「その天敵の思惑通りになってしまいました」

 月華さんに具体的な企みがあって万事がその通りになったとは思えない。刀禰谷さんと私の問題は月華さんが関わらなくても拗れただろう。

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