第19話 ルームメイト:涙
「女の子の涙って素敵だね」
「また消灯後ホラー・タイムですか」
「南畝さんの涙を吸った制服、私のなのになんかこう聖遺物的な何かになった気がする。聖骸布みたいな?
「あんたが永久保存されてしまえ」
「あの涙、マナとか慈雨ってやつなんだ。きっと飴みたいに甘いんだよ」
「んなわけあるかっ。制服、舐めたりするなよ」
「……しない」
「今の間はなんだ」
「南畝さんの涙さ、流れ落ちたら宝石になりそう」
「今度は乙女かっ」
「……最近思うんだけど、うちらお笑いみたいだよね」
「あんたがボケかますからでしょうが」
「ツッコミありがとう」
ルームメイトとの漫才のようなやりとりを終えてもなかなか寝付けなかった。
――頼られた。
寮暮らしの長い子たちとは違う髪の香り。周りの音を静寂へ変えるアルトの声。強く肩に食い込む指。
繰り返し思い出さずにはいられない。
一階のロビーにある柱時計が打つ鐘を十二数えた。眠りに落ちようとする努力は実る気配がない。
枕元のスマートフォンを手に取り、日記をつける。いっしょにテレビ布袋劇を見た記念日。乙女文楽を見せてもらった記念日。南畝さんと知り合って以来、カレンダーは毎日が記念日だ。
――――頼ってもらえた記念日。
写真アルバムもお気に入りマークのついた写真が並ぶ。一番はレプリカ・ドールと南畝さんが向かい合っているカットだった。
――写真部にちゃんとした写真を撮ってもらおう。
部員募集のポスターを作りたかった。学内ネット向けのPVのようなものもいいかもしれない。
――何より、私が欲しい。
スマホを胸に抱きしめてみる。じっとしていられなくて足をばたつかせてみたけれどベッドの上段からの寝苦しげな気配に自重する。
南畝さんの部屋があるだろうあたりに視線を向けてみる。
――友達というよりファンなのかもしれない。
中性的であったり背が高かったりする上級生のファンクラブを作る子たちの気持ちに近いのかもしれない。
南畝さんに惹かれていく気持ちを自覚しないわけにはいかなかった。
これは恋だろうか、と自分に問いかけ、違う、と否定する。
――友情だから、こんなにも惹かれる。
容姿。芸。普段の立ち居振る舞い。話し方。南畝さんと出会う前に思い描いていた理想の友達はどんなだったろう。今となっては彼女の姿以外に思い描けそうにない。
――友情と恋愛を履き違えるなんて、ありえない。
何より、彼女が友人であると思えることは誇らしく、恋愛感情よりもずっと尊く大切にしなければいけない気がした。
――本当の友達として恥ずかしくないように。
堅く心に誓った。
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