第51話 ファイヤスターター
「
本州よりも二週間早い夏休みの終わりに行われた三度目の通し稽古を終えて、見物に徹していたはずの月華さんの第一声がそれだった。意味は取れなかったけれどきっとろくでもないものだろう。
「なんであんたたちはこの期に及んでこんなの出してくるのっ」
「なんでって」
ね、と松里さんと私は頷き合う。松里さんの三味線は数日で根こそぎ変わっていた。音の変化を受けた阿知良さんのシナリオも私の演技もだ。
「月華さんが言ったんだよ。ボクの音ができたら人形にするって。どう? 今度こそ作ってくれる気になった? みんなで作った音だけどさ」
「それは意味が違っ……。違わないわね。そうじゃなくて、なんでこの時期になってよ。卒業制作、押しちゃうじゃない。手芸部だって文化祭が終わるまで衣装作りを手伝ってもらえない。刀禰谷っ――」
「何です?」
「あんたでしょ。仕掛けたの。南畝の件の意趣返し? 丸きり別物になってるじゃないのっ」
「一泡吹かせましたか」
「吹いたさ。洗剤かけたカニみたいに」
「死んじゃいます、それ。まあ、いいじゃないですか。南畝さんと私が月華さんを吊して人形劇をするよりは、ずっと」
「――それはそれで惹かれるわね。じゃなくてっ、時間がっ、足りないのっ」
豊かな巻き毛を振り乱し、きいっ、と少女漫画のような癇癪を起こした月華さんが地団駄を踏む。刀禰谷さんが笑顔で応じる。
「ミシン使える子、手配します?」
「……話が通してあるってんじゃないでしょうね」
敏腕の生徒会役員が肩を竦める。
「一人。明後日からミシン付きで寄越して」
「ボク、月華さんが慌ててるとこ、初めて見た」
「癇癪起こすと、見た目相応になりますね」
見てなさい、と月華さんが私たちを睨む。
「今度は人形であんたたちの舞台、圧倒してあげる。この顔触れを可能にした私が主役じゃないなんて赦せない」
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