まとめ35 出立・2

 本当に女の子らしい外見で、見た目と外での対応を変えたならば十人中九人は振り返るほどの魅力溢れる……少年だ。

 そう、魔法使いマジックは君が加入するまで勇者パーティの中での黒一点だった。

 けれど本人は性別などまったく気にしてなどおらず、少女みたいな外見で妖しい雰囲気を醸し出していた。

 君も初めは少女と思っていたけれど、泊まった宿屋でお風呂に入っているときに小さいけれど男のシンボルは確認していた。

 そして彼の厄介な特性、それはサキュバスの血を引いているからだろうか、男女問わず無意識に魅了してしまうのだ。

 それも本人は気にしてないようであったが、周りは気にする。

 町を歩けば浮浪者に路地裏へと連れ去られそうになったり、貴族に求婚されたりもしていた。

 それを君やサンズたちが止めたり、本人が如何にかしていたりしていたのを君は思い出す……。

 あれは大変だった……、そう思っていると。


「ねえおっさん、フィン大丈夫?」

「あ、魅了されたままなのです!」


 サンズの声にハッとし、セインも驚きながらフィンへと近付くと急いで魅了の解除を行う。

 それを見てから君はマジックへと向くと魅了を抑えるように言う。


「ふっ、小父殿。我輩が力を抑えることが出来ると思っているのかな?」


 マジックはそう言いながら、格好をつけるように手で顔を覆い隠す。

 相変わらずなその痛々しい言動に頭を抱えつつ、君は旅に出ていた理由は体から溢れる魅了を抑えるための方法を調べることではなかったのかと尋ねる。

 するとマジックは「くくく……」と含み笑いを浮かべ始めた。


「案ずるな小父殿、我輩はちゃんとこの身から迸る力を抑える方法をさがしたぞ」


 その言葉に君はおお、と返事を返す。

 これからは彼も酷い目に遭わずに済むだろうし、自分たちも面倒ごとをしなくて済むと感じての言葉だった。

 が、上げてから落とすというのがこの世界の仕組みなのだろうか?

 君はマジックの言葉を聞いて膝から崩れ落ちることとなった。

 何故なら……彼は、


「我輩はサキュバスの血から迸る魅了の力を抑えるべく、様々な魔法を調べると同時にその方法を探した。

 それはもう大陸中を探したのだ。そして我輩は気づいた……。これがその結果である!!」


 バサっとマジックはローブを捲り上げ、自らの肢体を君たちの前へと曝け出した。

 それを見て、君とサンズ、セインの3人は信じられない者を見た。


「あ、あるっ!?」

「な、ないのですっ!?」

「そう、これが我輩が導いた結果である。男であるから魅了を制御出来ない。ならば、女になればいい!

 どうであるか我輩の体は? 実に見事な女体であろう!!」


 さあ褒めろ、とばかりにマジックは君たちへという。

 だが君たちは何も言えなかった。

 当たり前だ。魅了を制御することを求めていたというのに、導いた結論がハーフサキュバスの男性から、ハーフサキュバスの女性になるというものだったから何にも言えなくなっていた。

 それにしても、実に女性らしい体型だ。

 黒い下着であろう肌着に身を包んだ肉体は、出るところが出て引っ込むところは引っ込んでいる。

 まさに理想的な女性の体型だ。

 そしてサキュバス特有のハートを模した紋様がお腹の辺りや腕周りに刻まれており、妖しい光を放っている。

 何というかむしゃぶりつきたくなるからだだ……。そう思いながら君は手を伸ばそうと――。


「小父さま! しっかりするのです!」

「おっさん、魅了されてる! されてるから!!」


 声がし、頭の中が晴れたような感覚を感じた。

 どうやら知らず知らずに魅了を受けてしまっていたらしい。

 君はマジックに伸ばしかけていた手を戻すと彼……いや、彼女を見る。

 いったいどう言うつもりなのか?

 君が尋ねると、彼女はローブを下ろすと先ほどと同じように顔を隠すように手を顔の前に掲げた。


「くくくっ、我輩は女となり、女を魅了することはなくなった。一応サキュバスなのだから、女を魅了するのはおかしいことであろう?」


 紫の瞳をキラっと光らせながら、マジックは言う。……つまりだ。

 サキュバスらしく、基本的に女を魅了するのは無くなったけれど……男をさらに寄せ付けるようになってしまったということか?


「そ、そそ、そんなわけがないであろう? わ、我輩はその様なヘマなどせぬ!」

「マジック……正直に言おうぜ?」

「マジック……黙ってたら酷いことになるのです」

「ぴ、ぴーぴぴ、ぴーぴー♪」


 キョドり始めるマジックを残念な目で見つめるサンズとセインに対し、誤魔化そうとマジックは必死に下手くそな口笛を吹く。

 だがそれは益々君の言った言葉が現実味を帯びさせるものであった。

 とりあえず君は家の中に入ることを勧める。

 外より中で問い詰めたほうが良い。

 君がそう言うと、サンズたちはマジックの両腕を抱える。

 これで逃げることは出来ない。そう考えての行動だ。


「えと、ご……ご主人様?」


 君たちの行動を不安そうにフィンは見ていた。

 なので扉を開けることを頼むと、彼女は困りつつも家の扉を開けて君たちが入れるように開けたまま押さえる。

 君はサンズとセインが置いた食材を持ち、そのまま中へと入る。

 それに続いて、マジックを拘束したサンズとセイン、最後にフィンが入り扉が閉められた。

 テーブルの上に買ってきた食材を置き、調理に入るべきかその前に、魅了を如何にかするべきかを考える。

 考えて君は結局……、


  料理を作ることにした。

  クラフたちに対策アイテムを創って貰う。

(またゼロ票でした。うわーん。)


 とりあえず君はフィンへとスミスとクラフへと魅了対策の道具を用意して貰うように伝えるように言って庭へと向かわせた。


「わ、わかりました。それでは行ってきます!」


 フィンは君にそう言うと急いで庭へと出て行った。

 それを見届けてから君は、晩御飯の用意をすることにした。

 とりあえずは買い込んだ食材と持ち帰ってきた屋台の食べ物で足りるだろうと思いながら、君は調理を開始する。


「あ、おっさん。ボク、久しぶりにあの辛いスープ飲みたいんだけど」

「サンズ、いきなりなのですよ? でも、懐かしいのです……」

「おお、我輩もあの味が恋しいぞ」


 君が野菜を切り始めた所で、サンズがいきなりそれを言い始め……セインたちも懐かしむように言い始める。

 それを聞きながら君は何も言わずに寸胴鍋をコンロへと置くと辛いスープの準備を行う。

 材料は普通にベーコン、じゃが芋、人参、玉葱だ。

 それらの野菜の皮を剥き、大きく切っていく。

 それを角切りに切ったベーコンと共に鍋で柔らかくなるまで煮込み、塩で味付けを行う。

 これで普通のスープの出来上がりだ。

 けれどそこにひと手間を加えるのが彼女たちが懐かしいという辛いスープだ。

 君は順当に混ぜ合わせた香辛料をスープの中へと振りかける。

 香辛料はスープに溶けていく。

 そして香辛料が溶けたスープは香辛料の色としての赤と黄が混ざった色へと変わり始めていった。

 同時に淡白だったにおいが段々と刺激的なにおいとなり、ツンと来る刺激が君の鼻を襲い始めた。


「ん~~、このにおい、このにおいだよ! あんがとなおっさん!!」

「セイン、楽しみなのです」

「くくくっ、滾る。滾るぞ。このにおい、はぁ~……たまんない♥」


 漂ってくるにおいに3人は嬉しそうな声を上げ始め、マジックに至っては艶のある声を出し始める。

 正直しんどい。


「おやっさーん。魅了封じ創ってきたさー。お、お~、このにおいは辛いスープ! はぁ~、たまんないさー!」


 庭へと通じる扉からクラフが入り込んできて、漂ってくる匂いに気づき満面の笑みを浮かべた。

 うん、それはいい。それは良いから……速くマジックにそれを付けてほしい。

 君がそう言うと、クラフはマジックへと近付いた。


「おー、マジックんも成長したさー。凄い方向にさー……」

「くくくっ、真理を求めた結果である。久しぶりであるな、妖精の姫よ」

「はいはい、男から女になってもバカみたいな言動は相変わらずさー? さ、帽子とって角出すさー」

「む、むぅ……」


 呆れながらクラフが言うと、マジックは頬を膨らませながら帽子を脱ぐ。

 すると、黒く艶やかな角が晒された。

 サラサラとしたピンク色の髪に、黒く艶やかな角は物凄く栄える。

 正直今すぐに飛びついて、角をチュバチュバしたくなってしまう……!


「お、小父さま! 魅了、また魅了されてるのです!」

 慌てながらセインが解呪を行い、君は頭がはっきりするのを感じた。


 ――きみは、しょうきに、もどった!!


 正気に戻った君を見てセインがホッとする中で、クラフがマジックの角へと持ってきた魅了封じを取りつけ始めていた。

 どうやらスミスが急いで創り、クラフが細工を施したそれは角飾りだったようだ。

 その色からして、ミスリルを使ったのだろうと思いながら君は角飾りを見る。

 角飾りは彼女の角にも合っているし、今まで飾り気のなかったマジックには珍しいと感じられた。

 なので君は素直に可愛いし似合っていると言った。


「そ、そうか? 小父殿に言われると、嬉しいものであるな」


 照れながらマジックはそう言うけれど、その表情を見ても魅了される気配は感じられない。

 どうやらマジックはジッと見るべきではないようだ。

 それに納得と注意することを心掛けながら君は食事が出来たことを告げる。


「わかったさー、それじゃあスミスたちも呼んでくるさー」


 そう言ってクラフは再び庭へと戻っていく。

 暫くして残りの面子も揃い、君は皿へと辛いスープを注いでいく。

 席に座る彼女たちへとスープが入った皿を置き、君が席に座ると君たちは食事の祈りを捧げ食事を開始した。

 開始したのだが、お腹が空いていたのだろう。

 彼女たちは始まると同時に凄い勢いで食事を取り始めた。

 その様子に君は圧巻しつつも、彼女たちの様子を見ることにした。


 とりあえずは……、


   フィンたちを見ることにした。

   サンズとセインを見ることにした。

   クラフとスミスを見ることにした。

  →マジックを見ることにした。

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