まとめ18 四日目・1
君は外から聞こえる鳥の鳴き声と下半身の寒さにゆっくりと目覚めていく。
椅子に座ったまま眠るだなんて、それほど疲れていたのだろうかと思いつつ目を開けると……惨事が広がっていた。
君の股間は丸出しで、周囲にはココア、ミルク、フィンの3人が倒れるように眠っているのだ。
いったい何があったのだと君は戸惑いを見せたが、すぐにハンゲショウのツインテールが起こした出来事を思い出す。
君はハンゲショウのツインテールを即座に廃棄処分し、購入しないことを誓う。
……これの用途は種付けに悩む家畜に与える物なんだ。そう君は納得しつつ部屋まで向かいズボンを換える。
ナイフで裂かれたズボンは処分するけれど、パンツも処分だ。
気づいたが、眠っている間に夢精していたのだろう。すごく臭い……。
股間から不快感を感じつつ、君は朝風呂を入ることに決めた。
とりあえずは良い匂いがする入浴剤を混ぜて入ろう。
そう思いながら君は風呂場へと向かう。
……途中、彼女たちに掛かっていないかを確認し、かかっていないことに安堵しつつ、部屋の中に篭った臭いを散らすために窓を開ける。
朝の爽やかな風が部屋の中へと入り、眠る彼女たちがブルリと震えるけれど……問題は無いだろう。
まあ、冷えたらお風呂に入れば良いのだ。
そう考えながら君はお風呂を沸かし、花の香りがする入浴剤を入れて湯に浸かる。
椅子に座ったまま眠っていたから体が冷えていたのだろう、お湯がじんわりと体を温めていく。
それにほう、と溜息を吐きつつ、君は体と頭を洗いお風呂から出る。
「「「あ……」」」
彼女たちも目が覚めたようで、君を見た瞬間……恥かしそうに顔を赤くした。
具体的にいうとミルクは何時もの表情が少しだけ赤くなっており、ココアはしかめっ面のまま顔を赤くしており、フィンは両手で顔を隠しながら頭から湯気が出ていた。
この様子に彼女たちも昨日のことを覚えていることに気づく。
何というか居た堪れない雰囲気を感じつつ、君は彼女たちにおはようと声をかける。
「あるじ、お……はよう」
「わ、わぅぅ~~……」
「うぅ、すみません、すみません……!」
三者三様の様子に苦笑しつつ、彼女たちにお風呂を勧める。
すると彼女たちは即座にお風呂へと向かっていった。
どうやら今は君と話すのが恥かしいのだろう。
それを理解しているのか君は何も言わず、テーブルの上にある昨日の料理を片付けていく。
食べれる物は朝食に流用するけれど、腐っている物は処分だ。
それとパンを薄く切って焼こう。上に炙って蕩けたチーズを載せるのも良いだろう。
そう考えながら君は朝食を作っていき、瞬く間に出来上がった。
トロトロチーズを載せたパン、野菜と干し肉の塩スープ、昨日の夜の残りの肉料理。
これで十分だろう。君がそう思っているとようやく彼女たちがお風呂から上がったようで、出てきた。
「その、お……おはようございます、ご主人様……」
顔を赤くしながら、フィンが君を見ており……その表情にちょっとだけ君は悪戯心が芽生えた。
それを言ったら彼女はどんな反応をするだろう、そう思いつつ君はフィンを見る。
そして、君は言う――。
→パパって呼んでも良いんだよ?
すごくエッチだったよ。
行動力が凄かったね。
――パパって呼んでも良いんだよ?
そうフィンへと言うと、彼女はキョトンとした表情で君を見たけれど、すぐに理解し顔を赤く染めるとプイッと君から視線を逸らした。
「ご主人様、意地悪です……っ」
そう言う彼女は少し幼く見える。多分、頬をプクッと膨らませているのも原因だろう。
そんな彼女へと君は笑いを堪えつつ謝る。
けれどちょっとやそっとじゃ彼女の機嫌は治らないようだった。
「わたしは、怒ってるんですよ? ご主人様はパパじゃなくて、ご主人様なんですから。……で、でも、いつかは…………いえ、何でも無いですっ!!」
ごにょごにょと彼女は言葉を濁す。
いったい何を言いたかったのだろうか?
そう首を傾げる君だったけれど、ココアのお腹の音で考えが中断させられた。
彼女を見ると恥かしそうに顔を赤らめつつも、食欲には勝てないようで両手をお腹に当てつつ、視線をテーブル上の朝食に向けられている。
君はそんな彼女に頭をひと撫でする。
「わ、わふぅ……」
「あるじ、あたしも……して?」
見上げるミルクの頭も優しく撫でる。サラサラとした髪が手のひらに触れて心地良い。
撫でられるミルクは嬉しそうに目を細める。
しばらく撫でていたが、今度こそココアのお腹が限界だと思ったので君たちは朝食を取ることにした。
美味しそうに食事を取るココア、ミルク、フィンを見つつ君はゆっくりと食事を取る。
黙々と食べ続けるミルク、頬を膨らませながら食べるココア、君をチラチラ見ながら食べるフィン。
そんな彼女たちの様子に気づかれないように頬を緩める。
君は正直、こんな風に朝食を取ることに実感が出来ない。
けれど今ここにあるのは君の夢ではなく現実なのだ。
改めてそう思い、君の心は温かくなる。
同時にこの幸せを護りたいと、君は思った。
朝食を終え、食後のお茶を飲みつつ今日はどうしたいかと彼女たちに尋ねてみる。
するとココアがしゅたっと手を挙げた。
「はい、はいっ! オレ、練習したい!」
練習。つまりは盾を上手く扱えるようになりたいと言っているらしい。
その言葉を聞いてなのか、ミルクも君を見る。
「あるじ、あたしも練習したい。もっと、うまくなげたい」
どうやら昨日金属串が上手く投げれなかったことが悔しかったようだ。
その言葉に頷きつつ、君はフィンを見る。
彼女は何を言うだろうか?
そう思っていると、おずおずと手を挙げた。
「ご主人様、あの……わたしも、魔法を学びたいです」
彼女の言葉に君はエルフの里で学んでいなかったのかと尋ねる。
すると彼女は悲しげな表情をした。
「学びました。ですが、少しだけでも母の魔法を覚えてみたいのです……」
母、つまりルーナの魔法を彼女は学びたいようだ。
君にとっては普通に学んだことだった。だけど、彼女にとっては大事なことなのだろう。
その言葉に納得しながら、君は頷き教えることを約束する。
するとその言葉を聞いていた2人も耳をピクリと動かす。
「ごしゅじん、オレもまほーつかえるかな?」
「あるじ、あたしもつかえる?」
爛々と瞳を輝かせるココアと、こてんと首を傾げるミルク。
その2人を見てから、フィンを見ると微笑んだ。
「ご主人様、先ずはココアちゃんとミルクちゃんに適正があるか調べてみませんか?」
君は彼女の言葉に頷きながら、少し待つように言って部屋へと向かう。
そして戻ってきた君の手には、一枚の板が握られていた。
これは最近創られた適正魔法測定器であり、手を置き魔力を注ぐと即座に得意な魔法を表示してくれる物だった。
君はそれに触れるようにフィンへと言う。
「あの、ご主人様? わたしの適正はもう分かっているのですが……」
君の言葉に首を傾げるフィンだったが、もう少し詳しく調べたほうが良いだろうと言うと彼女は頷く。
「わかりました。じゃあ、触れてみますね?」
君の言葉に頷き、フィンは測定器に手を置き魔力を注ぎ込む。
すると、彼女が置いた手を中心に線が伸びていった。
伸びていく線をフィンが見ている。
するとある線はすぐにピタリと止まり、またある線はそれよりは伸びたが止まり、2つの線は長く伸びていった。
止まった線を見ると、板の先に文字が書いてあるのに彼女は気づいた。
「……やっぱり風と水が高いみたいです」
彼女の言葉に君は納得しながら頷く。
それを見ていた2人は興奮していた。
「すごい、これでわかるんだ……」
「ごしゅじん、次オレ、オレやりたい!」
尻尾をブンブン振る2人に慌てないように言いつつ、君はココアの適正を調べることにする。
「見てろー! オレすげーのつかえるんだから!」
自信満々に言いながら、ココアが板に手を置く。……が反応しない。
どういうことかわからず、ココアは首を傾げる。
「ごしゅじん、びーってのびないぞ?」
君は彼女に魔力を込めているか尋ねてみる。
すると彼女はまた首を傾げた。
「魔力ってどうやってだすんだ?」
「あるじ、あたしも知らない。……おしえて?」
どうやら彼女たちは魔力の出しかたを知らないようだ。
君は2人に目を閉じてその場に立つように言うと、彼女たちは言われるがままその場に立って目を閉じる。
君は彼女たちの近くでしゃがむと、2人のお腹に手を当てる。
「んっ……、あるじ?」
「ご、ごしゅじん!?」
突然触れられ、2人は驚きの声をあげる。
君はそのまま立っているように言う。
その言葉に従い、2人は君の手がお腹に当てられたままその場に立つ。
君は彼女たちにお腹に温かいものを感じるか尋ねる。
すると2人は頷く。そしてその温かいものを広げていくように告げる。
君の言葉にミルクは静かにそれ……魔力を広げており、全身に魔力の膜が広がるのがわかった。
一方でココアは不器用なのか、ゴツゴツとした感じに広がっていくのが見えた。
それでも今、彼女たちは魔力を感じているはずだ。そう思いながら君は彼女たちのお腹から手を放し、彼女たちへと尋ねてみる。
すると、彼女たちは心配そうな表情をしたけれどなんとか分かったようだった。
「じゃあ、もう一回やってみる」
ココアが君にそう言って、板に手を置き魔力を込めてみた。
すると今度はちゃんと線が伸び始めていく。
君とフィンはその線を見ていると伸びは止まった。
「ココアちゃんは……火と土が得意みたいですね。多分身体強化が良いかも知れません」
フィンの言葉に君は頷く。
「あるじ、今度はあたし。みてて」
そう言ってミルクが板に手を当て、魔力を込める。
すると線が伸び始めていくが、珍しい伸びをしていた。
「珍しいですね。ミルクちゃんは……水と闇ですか? 闇って隠れるのに適した魔法が多かったんですよね?」
「もっと上手にかくれることができる」
フィンの言葉にミルクはフンスと鼻息を出しつつ気合を入れる。
とりあえずは、いま必要なことはこれか。
フィンはルーナの魔法を教えることにする。
ミルクとココアには体力作りと武器を使った練習、それと読み書きと魔法の練習。
そう納得しつつ、君は行動に移すべく動き出す。
……その前に、彼女たちの練習用に木で作った武器を用意するべきだろう。
刃引きもされていない武器を使っての練習は危険過ぎる。
ああ、魔法を使うときもか……。
それを考えながら君はどれから初めに行うか考える。
君は……、
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