まとめ24 一年経過・4
君は、チラリとフィンを見て……一度目を閉じてから、ゆっくりとボスが誰であるかを口にした。
そう……、組織のボスがフィンの父親であると。
「っ!! やっぱり……そう、なのですね……」
今にも泣きそうな顔をしながら、フィンは君へと言う。
彼女にとって父親との記憶は無いだろう。
それでも、自身の父親が悪事に手を染めている。それを知り、彼女は心を痛めているのかも知れない。
君はフィンを心配そうに見ながら、大丈夫かと尋ねる。
いや、君だけではない。ミルクもココアも心配そうに自身の姉を見ている。
「フィンねぇ、大丈夫……?」
「フィンねー、平気か……?」
「あ……。ごめんなさい、大丈夫だからそんな顔をしないでください……」
君と彼女たちの表情に気づいたフィンは謝る。
そんな君たちのやり取りを見ていたサンズは、ようやく口を開く。
「それで、おっさんはそのボスがいる場所が何処か分かるんだよね?」
君は彼女の言葉に首を横に振る。
フィンの産まれ、ルーナが育った森の場所は彼女から聞いてはいる。
だが今も彼女の元夫であり、フィンの父親はその森に居るとは限らないのだ。
それを伝えると、サンズは渋い顔をした。
「うーん、そっかー……。けど、行ってみる価値はあるよね? 居なくても、手がかりぐらいはあるだろうしさ」
どうやら彼女の頭の中では、手がかりとなっている森を調べる考えで固まっているようだった。
それを見ていたフィンが、突然声をかけてきた。
「あ、あのっ! わたしも、ついていってはダメでしょうか……?」
「あたしも、ついてく」
「オレも、オレも行く!」
「きみたちを? おっさん大丈夫なの」
フィン、ミルク、ココアの言葉にサンズは胡散臭そうに君を見る。
君はどう返事を返すべきか。そう悩み始めた瞬間、君よりも先にフィンが口を開いた。
「わたしたちだって、戦えますから自分の身は自分で護れます!」
「あたしも、行ける」
「オレも守ってみせる!!」
「…………へー、そうなの?」
胸を張るように言うフィンたちの言葉に、サンズは冷たい視線を送る。
君はその視線の意味を理解しているが、何も言わない。
彼女たちの言葉にサンズがどう動くか見ているからだ。彼女もそれが分かって居るのか、君をチラリと見てから……口の端を歪めた。
「それじゃあ、ちょっと試してあげるよ」
そう言って、サンズは立ち上がるとフィンたちに庭に来るように告げる。
同時に君を見て、声をかけてきた。
「おっさん、木の棒を使わせてもらうよ。それと……とめないようにね?」
「ご主人様、見ていてください!」
「あるじ、頑張るから褒めてね」
「オレも頑張るから、ごしゅじん褒めてくれよ!」
サンズが庭に出て行ったのを見てから、フィンたちは気合十分という風に声をあげながら庭へと出て行く。
そんな彼女たちを見つつ、君は傷薬をすぐに用意出来るように準備を始めた。
庭へと出ると、サンズが手頃な長さの木の棒を手に待っていた。
きっとアレで殴られると普通に痛いだろう。
そう思いながら君はフィンたちを見ると、何時ものように練習用の道具を装備しようとしていた。
……が、サンズがそれを止めた。
「ダメダメ、君たちは本気の装備をしてくれないと」
「え? で、ですが……」
「じゃあ言い換えるよ。――素人どもが、生意気にもほどがあるだろ?」
ピリッと空気が震えた。
気のせい、ではなく本当に周囲の空気が震えているのだ。
それを行っているのはサンズであり、彼女の茶色の瞳は今はドラゴン特有の縦に割れた瞳を金色に光らせていた。
威圧、それは一部の英雄や豪傑、ドラゴンなどが持っている強者特有の能力。
その威圧に中てられ、3人は体を振るわせた。
……が、すぐに威圧は解かれ、彼女たちは漏らすことなく、その場に座りこんだ。
「さ、それじゃあ本気の装備でかかって来てよ。あ、おっさん。壊れたらもうちょっと強靭な物にしてあげてね」
サンズはそう言って君へと笑いかけた。
そんな彼女に恐怖を抱きながら、3人は装備を整え直した。
そしてすぐに始める……わけには行かないため、少し精神を落ち着かせるために彼女たちに一旦休憩を行わせた。
「ご心配をお掛けしました。ご主人様……」
落ち込みながら、フィンが君へと頭を下げる。
君はもう大丈夫かと尋ねると、頷き返してきた。
「ごしゅじん、オレも大丈夫だ」
「あたしも……」
フィンに続き、ココアとミルクも返事を返してきたのを見ながら君は頷く。
そんな彼女たちの手には実践用の武装が握られていた。
当然刃引きされていない、殺傷能力のある武装だ。
「うん、それでオッケーオッケー」
「あの……サンズ様は、よろしいのですか?」
「ボク? ……ああ、防具?」
フィンが不安そうに尋ね、それに対しサンズは首を傾げるがすぐに笑った。
まるで面白い話を聞いたかのようにだ。
「おっさんが鍛えてるって分かるけど、君たちの攻撃がボクに通じるかな?」
「そうですか……。ご主人様、合図をお願いします」
君はフィンの声に従い、手を挙げる。
すると、フィンたちからピリピリと緊張が走るのを感じた。
一方でサンズからは余裕が感じられる。
経験の差だろう。それを理解し、君は手を下ろした。
勝負が始まった瞬間、ミルクは気配を消しながら静かにサンズへと近付いて言った。
「全然ダメ」
「……っ! ――あ」
ボカッという音が響いた。
サンズが棒を振るったのだ。
直後、糸が切れたかのようにミルクが彼女の前で倒れた。
「ミ、ミルク! て、てめー!」
「盾役だからって、動いたらダメってわけじゃないんだ。分かる?」
「う、うわっ!? っが!!」
ガンッ、と音が響いた瞬間、ココアが構えていた盾が弾かれた。
身体強化をしていたというのに浮き上がった大盾を信じられないとばかりに見てしまうココアだったが、彼女の鳩尾へと木の棒が打ち込まれ――喘ぎながらその場に崩れ落ちた。
「ふ、ふたりとも!」
「これで一緒について行くつもりだった? 笑わせるね。……で、やめる?」
「や……やめません!」
倒れた2人を見てサンズに恐怖しつつも、フィンは弓を構え君を吹き飛ばした風の魔力を込めた矢を連続的に放った。
これなら効果はある。そう考えた行動だったが、サンズが棒を一振りした瞬間……それらは霧散した。
「ドラゴンの魔法抵抗力を知っての行動だったら、本当に面白いよね?」
「そ、そんな……!?」
「足手纏いのあんたらを連れてったら、おっさんが絶対気にしてしまう。あ、そうだ。このまま足の骨を折るなりしてしばらく動けなくして、その間に行けば良いかな」
「あ、あ……」
威圧を込めながら、サンズはフィンへと近付いていく。
その恐怖に彼女は震え上がる。
歯がガチガチとなり、持っていた弓がポロリと落ち、股の間から液体が零れているのが見えた。
……どうやら、彼女たちの弱さはサンズの逆鱗に触れてしまったようだ。
威圧に耐え切れず、フィンはその場にしゃがみ込んでしまった。
「お漏らしとか、情けないね。それじゃあ、これで終わりだよ」
そう言って、サンズは怯えきったフィンへと棒を振り下ろそうとした。
その瞬間――君は、
そこまでだ。とサンズを止めた。
何も言わず、ただ見ていた。
→ふたりの間に入った。
ゴッ! という鈍い音ともに自分の頭に衝撃が走る。
そうフィンは思いながら、両目を瞑った。だが何時まで経っても痛みは来ない……。
(いったいなにが……)
恐る恐る彼女が目を開けると、そこには彼女の主人である君の背中が見えた。
それを見た瞬間、彼女は驚きの声をあげた。
「ご、ご主人様!?」
「おっさん、とめないように。って言ったんだけど?」
君の手に握られた木の棒を見ながら、機嫌悪そうにサンズが君を見る。
そんな彼女へと君は首を横に振り、やりすぎだと言う。
君の言葉にキョトンとした彼女だったが、君の背後のフィンの様子を見て……呆れながら息を吐いた。
「はぁ~~……、ちょっとやりすぎたみたいだね。でも、これで君たちの実力がわかったよね?」
「っ! そ、れは……」
「はいけってー、君たちはお留守番。おっさんはボクらと一緒に違法な奴隷商組織のボス退治もしくは手がかり探しってことでけってー!」
「! そ、それでも、それでもわたしは!」
パンパンと手を叩き、サンズは一方的に言う。
そんな彼女に反論するようにフィンは立ち上がろうとしたが、またも睨まれ……その場でしゃがみ込んでしまった。
君は彼女に心配するなと声をかけようとした。……が、不意に空にかかった影に気づき上を見た。
「――――さまーーっ!」
何かが落ちてくる。
清らかな声とともに、空からなにかが落ちてくるのが見えた。
サンズも落ちてくる存在に気づいたのか空を見上げ、表情を顰めた。
「うわぁ、速すぎない……?」
「…………え? てんし、さま……?」
呆然としながらフィンも空を見上げ、落ちてくる存在を見たのかポツリと呟いた。
「――じさまーーっ」
その声はとても嬉しそうであり、背中の白い翼は彼女の心を代弁するかのようにバサリバサリと羽ばたいている。
そしてある程度の高さまで下りると羽ばたきをやめて君の胸元へと飛び込んできた。
突然のことで君は少し驚いたが、彼女を受け止めると衝撃を散らすためにその場で彼女ごとくるりと回転する。
回転を終えて、彼女の体を地面に下ろすと君に向けて彼女は純粋な笑みを向けた。
「お久しぶりです小父さま! セインはずっとずっと、小父さまにあいたかったですよ! ですから、今日やっと会えたことに感謝いたします神さま!」
そう言って彼女、僧侶セインは君を前に両手を組んで祈り始める。
君はそれを苦笑しつつ見ながら、久しぶりだと言いつつ彼女を見る。
彼女の姿は記憶の中にあるものと何ら変わっておらず、可愛らしい少女の姿だった。
白金色の長く美しい髪、すべてを見透かすような銀色の瞳という人ならざる神々しさを感じさせる外見。
そして頭の輪と背中の翼……まさに天使だった。
だが正確に言うと、彼女は天使の血を半分引いている……エンジェルハーフだ。
そんな彼女を見ていると君の視線に気づいたのか、彼女は祈るのを止めて少女らしく穢れのない笑みを君に向けた。
君はその笑顔を見ながら、元気だったかと尋ねる。
「はい、元気でした。ですが……」
そう言って彼女は俯く。
何かあったのだろうか、そういえば彼女は教会の聖女という役目を渡されて慰安活動を行っていたとサンズが言っていたことを思い出す。
もしかすると、酷い扱いを受けたのだろうか?
そんな心配が君の心をよぎる。
「足りなかったのです……」
足りなかった? 何がだろうか?
彼女の言葉に首を傾げる。
「足りなかったのです! 小父さま分が! みんなして全員全員、聖女様聖女様って言うのですが、普通に接してくれなかったのです!」
どういうことだろうか?
君が首を傾げると、サンズが説明をしてくれた。
「つまり、おっさん。セインはもっと普通に接して欲しいんだよ。それなのによー」
ウンザリしたように彼女は顔を顰める。
その表情で君は理解した。
彼女たちも人間なのだから、普通に接して欲しいだろう。
それなのに神聖な存在に近付くな。だの、アレは化け物だとか言って勝手に距離を取られているのだ。
そんな中で自分は普通に接していた。だから彼女たちは君を認めた。
「前にも言ったけど、そろそろセインのように他の奴らも色々と放り投げて来ると思うから」
「はい、放り投げてきました! 一応はサンズの手助けをしてくるって置き手紙は残して行きましたから問題はないのです!」
サンズがやれやれとする一方で、セインはその薄い胸を張る。
と、ようやく彼女は周囲に倒れている少女たちに気づいたようだった。
「小父さま、周りに倒れてる子たちは誰です?」
「あー、これ? おっさんの奴隷らしいよ」
「ど、奴隷です? お、小父さま! 小父さまにはセインがいるのに、セインを奴隷にして欲しいのです!」
「君はなにを言ってるんだい?」
君が奴隷を持ったことにセインはショックを受けたのか、彼女はとち狂ったことを言い出す。
それを聞き、サンズがツッコミを入れる。
だがどう考えても彼女は本気にしか見えなかった……。なので、意識を逸らすために君は倒れたミルクとココアの回復をお願いすることにした。
「むー、わかったのです」
はぐらかされたことに頬を膨らませながら、彼女は君がお願いした通り倒れたココアとミルクを回復させるために回復魔法を唱える。
ポワッと彼女の体が光り、それらが倒れた2人へと送られ……しばらくすると彼女たちは目を覚ました。
「うぅ……、痛……くない?」
「ど、どうしたんだ……?」
「ミルク、ココア、大丈夫ですかっ!?」
「フィンねぇ……?」
「フィンねー……。におうぞ……」
「っ!! そ、そんなことは良いんです! 大丈夫ですか!?」
彼女たちの元へと駆け寄ったフィンだったが、嗅覚の良い獣人にお漏らしをしたことがばれ、彼女は顔を赤く染め上げた。
けれどすぐに彼女は2人の様子を尋ねる、すると2人は叩かれたはずの場所を調べ始めたが……首を傾げた。
当たり前だ。そこにはたんこぶも何も無くなっているのだから。
「どういう、こと?」
「わ、わけわかんねーぞ?」
「当たり前なのです! セインの回復魔法は傷を残すわけが無いのです!」
首を傾げるミルクとココアへと、セインが声をかける。
その声にようやく2人はセインに気づいたらしく、誰だという風に首を傾げた。
「「……だれ?」」
「セインはセインです! 小父さまの仲間なのです! そして、ゆくゆくは小父さまの子供を……ふへへ……」
君は聞こえたが聞こえないふりをした。
だけど、成長したなぁと君は遠くを見つめる……(現実逃避)
そしてセインの言葉を聞いたミルクとココアは自己紹介をしていた。
「あたし、ミルク。あるじの奴隷」
「オレはココアだ。ごしゅじんの奴隷だ!」
「なるほどです。……それでサンズ。いったい何があったのです?」
倒れていた原因。それがサンズだとわかっているようでセインが彼女に問いかけた。
彼女の視線にサンズはうっと呻き声を漏らしつつ、言葉を詰まらせる。
「あー、それは……だなー……えーっと……。ボ、ボクたちの旅にってよりも、おっさんについて行きたいって言ったんだ! 弱いのに!!」
「弱いです? …………ああ、弱いのです」
首を傾げながら、セインはココアたちを見たけれどすぐに納得して頷いた。
その言葉に反論したそうにココアとミルクが尻尾を立てたが、すぐに尻尾を下ろしてしまった。
君はそんな彼女たちを見ながら、どうするべきかを考える。
だが、名案が浮かばない。
「小父さま、小父さまとしてはどうしたいのです? この子たちについてきて欲しいのです?」
その言葉に君はどう言うべきか言葉を詰まらせてしまった。
自分は彼女たちについて来て欲しいのか。それとも、ついて来て欲しくないのか……。
君は……、
→彼女たちに、ついて来て欲しい。
→彼女たちに、ついて来て欲しくない。
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