まとめ23 一年経過・3
「さっきも言ったけど、この間までボクは違法な奴隷組織の殲滅を行っていたんだよ」
その言葉に君は頷き、話を待つ。
自分は落ち着いている。
そう君は思っているが、ようやく掴んだルーナの手がかりを前に少し焦っているかも知れない。
そう思いながら君は気持ちを落ち着かせる。
「おっさん、ちゃんと話すから落ち着いて」
「……あるじ、深呼吸して」
「ごしゅじん、怖いぞ……」
落ち着かせようとしていたが、君から感じる気配に彼女たちは怯えた。
それに謝りつつ、君はミルクの言うように深呼吸をして落ち着かせる。
……よし、良いだろう。
「うん。それじゃあ話すよ。末端組織ばかり潰していて埒が明かなかったんだけどさ、運よくその組織の競売場に入ることが出来たんだよね」
そこで彼女が見たのは見目麗しいエルフの子供、希少な獣人の子供、優秀な戦士の血を持つ子供が檻に入れられて売られている光景だったらしい。
それを見て、彼女は直情的に動きそうになったそうだけれど突然彼女の腕を引っ張り会場の通路に連れて行く者がいた。
「それが、母……ですか?」
「わかんないよ。でも、女性であることは確かだろうね……」
言いよどむようにサンズはフィンへと返事を返す。
君は話を進めるように言う。
「彼女は『突然ごめんね。あなたは強いでしょうね……でも、アレの数には圧されてしまうわ……』って言ってきたよ。最初何がなんだかわからなかったけど、その女性が指差した方向を見ると……エルフの護衛がいたんだよね」
エルフの護衛、それを聞きまさかと君は思う。
そしてそのまさかであったらしい。
「銀色の髪をしたエルフの護衛だったんだけどさ、全員が矢を持たず弓だけを持っていたんだよ。しかも、統一された動きで侵入者がいないかと視線を動かしてさ……」
「ちょっと待ってください。全員って……その護衛はひとりじゃないのですか?」
フィンの言葉にサンズは頷く。
「ああ、その護衛はみんな同じ銀色の髪で同じ顔をして、同じ弓を持っていたんだ……」
同じ顔で、同じ物を?
「で、ボクを引っ張ってきた女性が尋ねてきたんだよ。『それでもやるの?』ってね。当然ボクはやるって口にしたよ。だってドラゴンハーフは伊達じゃないから」
おい、それはどう見ても失敗する予感しかしないぞ?
心からそう思ってしまうが、目の前にいるのだから無事だったのだろう。
「その人はボクを呆れたように見えたんだけどさ、『そっか、わかったわ。だったら少しずつ護衛を減らすことにしましょう』って言って近くにいた護衛の口を塞いだんだ。
そして、見えないところへと連れて行くと……懐からナイフを取り出して、胸元へと突き刺した。でも、血は出なかった。
代わりに出たのは土だった。それを見てあの護衛たちはゴーレムだって理解したよ」
ゴーレム、奴隷……、正直嫌な予感がした。というか嫌な予感しかしない。
フィンを見ると顔面蒼白になっているのが見えた。
君は彼女に大丈夫かと声をかける。
「だ、大丈夫です……」
「それで女性は護衛がゴーレムだってボクにわからせると『それじゃあ、少しずつ減らして行きましょう。……大丈夫よね?』って心配そうに見たんだよねー。失礼するよね?!」
どう考えても心配するだろう。
何故なら目の前の彼女はどう見ても隠密行動向きではなく、大軍を前に剣を振るう存在なのだから。
「それでも頑張ってこっそりと護衛を減らしていったんだけどさ、少なくなるに連れて当たり前に気づかれたよ。で、そこに残った護衛と更に置くにいた護衛から集中砲火さ」
逃げ惑う客たちを巻き込む形で護衛たちはサンズに向けて魔力の矢を放ったらしい。
客たちの悲鳴、地面を濡らす血。それを見ながらも淡々と矢を放つゴーレム護衛たち。
「ボクはそれに対して怒ったさ。いい加減にしろってね! で、剣を振るってばったばったと破壊していく最中に声がしたんだ。
『奴隷となっている子は外に連れて行くから、心配しないで!』ってね。
で、安心して競売場を破壊したんだけどさ……そこのボスも……」
ゴーレムだったわけだ。君がそう言うと、サンズは頷く。
そして競売場を壊して、外へと出ると彼女に手を貸していた女性はいなかったらしい。
ちなみに競売場に来ていた客たちは怪我をしている者を含めて、捕縛はきちんとされていたという。
「それで奴隷となってた子供たちに、女性は何処に行ったのか聞いたんだけど……わからなかったんだよね。客を拘束するだけ拘束して、何処かに去っていったってさ」
「子供たちは、どうなったんだ?」
ココアが不安そうにサンズへと尋ねた。
どうやら彼女は助け出された子供たちがどうなったのか気になっているようだ。
それが分かっているのか、サンズは健康的な胸を張って答える。
「それは大丈夫さ! 軍とセインに協力してもらって、子供たちを育てる場所を用意してもらったから!」
孤児院だろうか。君はそう思うのだが……助け出した子供たちの数がどうなのかで下手をすれば村ほどになったのではないかと思ってしまう。
けれどサンズの言葉が嬉しかったのか、ココアはミルクと一緒に喜んでいる。
とりあえず、それで良いか……。
「で、あの後も奴隷を助けたんだよね」
その度に、あの護衛ゴーレムは現れて、時折あの女性とも会ったらしい。
「だけどあの人は名前を名乗らなかったんだよ。でも、あるエルフの繁殖場を叩き潰しに行ったときにさ、捕まってたエルフの子が叫んだんだよ。
『ルーナおねーさん!? ルーナおねーさんなのです!?』ってさ」
「っ!!?」
「それを聞いた女性は『まずったなぁ……』って呟いてから、ボクを見たんだよ」
彼女の口から出た名前を聞き、君とフィンはビクリと震えた。
はやく、速く続きを聞かせて欲しい。そう心から思う。
「そう慌てないでよ。ルーナって名前はおっさんの師匠の名前で覚えてたから聞いたよ。
そうしたらさ、その女性は頷いたよ。おっさんの師匠だってさ。
当然会いたがってるって言ったんだけどさ、会えないって言ってたよ」
君はサンズの言葉に、そうかと残念そうに呟き頷く。
ちなみにそれが今から半年前だったらしい。
「で、結論から言うとルーナさんはその組織のボスを知ってた」
彼女の言葉に君は違法な奴隷商組織のボスが誰なのか検討がついてしまった。
それを言うべきかどうか悩みつつ、君はサンズの話を聞く。
「そのあと、ルーナさんはボクに繁殖場にいたエルフたちを任せて、何処かに消えてったよ……。多分、ボスの所かも」
「っ!!? ご、ご主人様……っ!」
追いかけたい。そう言うようにフィンは君を見る。
飛び出さないだけまだマシだろう。君はそう考えつつ、サンズを見る。
「おっさん。ルーナさんはボスが誰かはおっさんなら知ってるって言ってた。教えてくれないか?」
多分、彼女は慰安もあるだろうが、それを知るために来たのだろう。
彼女の問い掛けに君は、知っているだろうと答える。
そして、君は違法奴隷商組織のボスが誰であるかを口にする。
それは……、
→フィンの父親だと答える。
ルーナだと答える。
自分だと答える。
王様だと答える。
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