まとめ22 フィン視点

「おっちゃん、こんちわー!」

「お、ココアちゃんいらっしゃい。今日も元気だな!」

「あんがと!」

「そんな元気なココアちゃんにはこれをあげよう」

「いいのか!? あんがとな、おっちゃん!」


 ココアが何時もの店に訪れると、店主さんが優しい笑顔を向けて干した果物を差し出しました。

 ココアは嬉しそうにそれを受け取り、店主さんに礼を言ってからそれを食べ始めます。

 そんなココアの様子を見てから店主さんへと顔を向け、わたしは頭を下げました。

 店主さんは気にするなとばかりに、わたしへと軽く手を振ってから隣に立つミルクへも同じ物を差し出しました。


「……ありがとう」


 それを受け取り、ミルクがお礼を言って、ココアの隣で一緒に干し果物を食べ始めます。

 わたしはその光景を微笑ましく見ていましたが、同時に店主さんの優しさを嬉しく思いました。

 けど店主さんの信頼を勝ち取ったのはココアとミルク2人の持っている優しさでもあることも理解しています。

 そんな干し果物を食べる可愛い妹2人を見ていたわたしですが、店主さんへと向き直るとご主人様にお願いされた用件を話し始めます。


「店主さん、これらをお願いしたいのですが売っていますか?」

「あの旦那に頼まれてお使いかい? なになに……、これならあるけど、こっちとこっちは向こうが安いよ」


 ご主人様に書いてもらった必要な物を纏めた紙を店主さんに見せると、店にある物を教えてくれた上に、別の店のほうが安く買えることを教えてくれました。

 店主さんの言葉に驚きながら見ていると、笑みを浮かべました。


「全部うちの店で買ってくれたら助かるだろうけど、安いほうを勧めるのも商売だよ」

「そう言うものですか?」

「そうだよ。それにお得意さんでもこちらから勧められたって言ったら向こうも悪い気しないだろ? 要するに周囲と仲良くする方法ってやつだよ」


 わたしの問い掛けに店主さんは答えてくれて、店員さんに用意してもらっていた購入物をわたしに差し出します。

 それを受け取り、対価として料金を支払います。

 店主さんはそれを受け取り、お釣りを差し出し、受け取ります。

 そしてミルクとココアを見たのですが、2人はまだ美味しく干し果物を食べていますね……。


「……すみませんが、ココアたちを見ていてもらえませんか?」

「わかったよ。行って来なさい」

「ありがとうございます。ココア、ミルク、ちょっと待っていてくださいね」

「ん、わかった。フィンねぇ」

「お菓子食って待ってるからな、フィンねー!」


 わたしの言葉に頷くミルクとココアを見てから、店主さんに教えてもらった店でそちらよりも安い品を購入していき、戻ろうとします。

 そんな中、ある店の前に置かれた服の山を見て、あることを思い出しました。


「そういえば……、サンズ様は着る物があるのでしょうか?」


 あの汚かった服は洗濯しても綺麗にならないだろうと思いつつ、店の前でわたしは立ち止まります。

 わたしに気づいた店の女性が声をかけて来ました。


「そこのエルフのメイドさん。服はいかが?」

「そうですね……。ではこれとこれをお願いします」

「わかったわ、それじゃあこれぐらいの値段ね」

「わかりました」


 店の女性にお金を渡し、お釣りと商品を受け取りわたしはココアとミルクの所へと戻ります。

 戻ると2人のお菓子は……増えていました。


「おかえり、フィンねぇ」

「おひゃへりー、フィンへー」


 もきゅもきゅと小さく口を動かすミルクと、パンパンに頬を膨らませるココアを見ながらわたしは苦笑します。

 2人とも、食べすぎですよ?

 そう思いつつ、わたしは店主さんにもう一度頭を下げる。

 何というか、2人がすみません。

 それに対し、店主さんも先ほどと同じように軽く手を振ります。

 とりあえず……2人が食べ終わるまで待ちましょう。

 そう思いながら彼女たちを見ていました。

 …………うん、考えないようにしていましたけど、やっぱりご主人様が気になります。

 あのとき、ご主人様も一緒に外へと行こうとしていたのですが、サンズ様が「おっさんと話があるからー」とわたしたちだけを外へと出して扉を閉めました。

 サンズ様とご主人様はなにをしているのでしょうか?

 気になります……。それに……もやもやします。

 ご主人様と一緒に行きたかったのに……。


「フィンねぇ、大丈夫?」

「っ! な、何がですかミルク?」


 突然かけられた声に、わたしはビクリと肩を震わせます。

 見るとミルクだけでなく、ココアもわたしを見ていました。


「あるじ居ないと、さみしい……」

「そうだな。ごしゅじんがいないからか、美味しいお菓子が何時もより美味しくないや」

しょんぼりしながら、2人がわたしに言います。

それを見て、2人もご主人様のことが気になっていることを理解しました。

「……待っていても新鮮な食材が腐りますし、戻りましょうか」

「ん、戻ろう」

「戻ろうぜ、すぐ戻ろうぜ!」


 わたしの言葉に反応するように2人は尻尾を振りながら答えます。

 全員で店主さんに礼を言ってから、家に向かって帰ります。

 ……とりあえず、荷物は3人で分散して持ちます。

 1人では重いですからね。

 そして、家の中へと入るために扉を開けた瞬間、わたしたちの耳にサンズ様の声が届き、固まりました。

 何故なら、その言葉とは……、


   「おっさん、旅について来てくれよ」

  →「おっさんの探していたエルフを見たんだ」

   「ボク、おっさんの子供が欲しいな」

   「おっさんのこと、ボクは好きだよ?」


「おっさんの探していたエルフを見たんだ」


 その言葉が聞こえた瞬間、わたしの口からヒュッと声が洩れました。

 そして気がつくと、荷物を放り出して居間へと走っていました。


「サンズ様ッ、その話を詳しく聞かせ――って、何してるんですかぁ!?」

「あ、おかえりー。速かったねー」


 バンと扉を開けて転がりそうになりながら居間へと入ると、サンズ様はご主人様の膝の上に座りながら首へと両腕を回していました。

 それを見た瞬間、わたしは叫び声を上げ、それに気づいたサンズ様がわたしへと笑いかけながら軽い感じに手を振りました。

 ……今はっきりしました。この人、敵ですっ!

 心からそう思っていると、ご主人様が困った顔をしながら離れるようにサンズ様へと言います。


「えー? おっさん、本当は嬉しいくせにー★ って、あいたたっ! 痛い痛い!! 髪が少なくなった分痛みが凄く伝わるよ~~~~っ!!」


 ご主人様をからかっていたサンズ様はご主人様に頭を掴まれました。

先ほどから度々ご主人様がサンズ様を掴んでいましたけど、これは本気だったみたいですね……。

 そんなことを思いながらサンズ様が本気で謝っているのを確認したからか、ご主人様はサンズ様を下ろしました。


「ふぅ~、いたたた……。おっさん、女の子には優しくしてよー!」


 頭を押さえながらサンズ様がご主人様へと文句を言います。

 それに対して、ご主人様が「女の子ならもう少しお淑やかでいるように」と口にしていました。

 ……お淑やか。すみませんご主人様。

 わたしも、サンズ様と同じようにご主人様の膝の上に乗ってみたいです……。

 きっと、ミルクもココアも……。

 心の中でご主人様に謝りつつ、すぐに先ほどの言葉を思い出しサンズ様へと向き直ります。


「それでサンズ様、貴女は母を……ご主人様の探している人を何処で見たのですか!?」

「母!? ……へー、そっかそっかー。おっさんもすみにおけないねー。あははー!」


 サンズ様がわたしとご主人様を見ます。

 そして、すぐにニヤニヤと笑いながら口元に手を当てました。

 それがご主人様的にイラッと来たのか、手をサンズ様の前で開閉します。


「わ、わかった。わかったからそれやらないで! ……でも、いい話じゃないけど、いいの?」


 わたしを見ながら、サンズ様が尋ねます。

 きっと嫌な話だと思う。

 でも。


「母がどうなっているか、わたしは知りたいです。ですから、お願いします」


 そう言って、わたしはサンズ様へと頭を下げた。

 それを見て、サンズ様は呻き声を上げます。


「あー……うー……。まあ、ここにいる全員に関係する話だから隠すよりも、全員の前で話したほうが良いか!」


 サンズ様がそう言うと、わたしが放り出した荷物も持ってミルクとココアが居間へと入ってきました。

 2人に荷物を持たせていたことを思い出し、わたしは謝ってから荷物を整理します。

 それを終えてから、わたしたちはご主人様と同じように椅子に座りました。

 そして、サンズ様の話が始まりました。

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