まとめ21 一年経過・2

  →勇者サンズだった。

   僧侶セインだった。

   細工師クラフ、鍛冶師スミスだった。

   魔法使いマジックだった。


「よ、おっさん。ひさしぶりー」


 軽く手を挙げながら君を見る青年……のように見える少女はモグモグと口に君たちが食べるはずだった朝食を詰め込みながら挨拶をする。

 その頭の悪い行為に君は頭を抱えつつ、溜息を吐く。


「おいおい、疲れてるのかー? ちゃんとしたもん食えよー!」


 いま現在、君にとっての頭痛の種となっている少女はゴクッと口の中の物を呑み込むと君へと近付き、笑いながらバシバシと背中を叩く。

 君は4年振りの再会であるそいつ、今代の勇者であるサンズを見る。

 彼女はしばらく風呂に入っているのか分からないほどに、髪がボサボサとなっていた。

 良く見ると、顔のほうも汚れで凄く黒ずんでいた。

 ……というよりも、女性がしてはいけない異臭がする。主に生ゴミ臭が……。

 怒りそうになる精神を抑えながら、君は彼女に最後に風呂に入ったのは何時かと尋ねた。


「あー、おっさんセクハラだぞー? 女の子にこんなこと聞いちゃダ――アイタタタッ!」


 気がつくと、君はサンズの頭を力を込めながら掴み、彼女の体を持ち上げていた。

 頭からミシミシと軋む音、痛い痛いと叫ぶ悲鳴。

 久しぶりのアイアンクローに懐かしく思いつつも、君はフィンにお風呂の準備をするように言う。


「は、はい、わかりました!!」


 君の様子に驚いたように、彼女は返事する。

 そしてフィンがお風呂場へと駆けて行く音を聞きながら、君は掴んだままのサンズを見ながらどうしていたのか尋ねる。


「痛い痛い! その前に降ろして! 首もミシミシいってるし、頭もミシミシいってるからーー!! あー、でも数年ぶりのこれは懐かしぃ~~!!」


 ……すごく余裕があるようだ。

 もう少し力を込めるべきかと悩んだけれど、小さい子が見ているのだからこれ以上はいけないと君は考え……サンズを下ろす。


「ふー、痛かったよ! 容赦ないねおっさんはさー!!」


 頭を両手で押さえながら、サンズはカワイコぶりっ子アピールをする。

 今の見た目では可愛らしいよりも、胡散臭い。

 それを率直に言いながら、君はミルクとココアに座るように言いながら彼女たちに食事を出そうとする。……が、鍋の中は空っぽだった。


「ごめーん、お腹空いてたから全部食べちゃった。テヘペロ★」


 ……どう言う意味なのかは分からない。けれどイラッとした。すごくイラッとした。

 なのでもう一回。


「ぎゃ~~~~っ!! ごめんごめん、本当にお腹空いてたから、悪いと思ってたけど、久しぶりのおっさんのごはんだからペロっといっちゃったんだよ~~~~!!」


 ミシミシ軋む頭の感触を指に感じながら、君はサンズの悲鳴を聞く。

 ……一応、どれだけ食べていなかったか君は聞く。


「えーっと、最後に食べたのは血抜きしきってない鼠肉の丸焼けを5日前に……」


 ……とりあえず、君はそっと彼女を下ろした。

 というか、5日も飲んではいただろうが食ってないのはマズいだろう。

 そう思いながら君は怒りを抑えつつ、ココアとミルクたちのために食事を作りなおすことにした。

 ……一応、すべての食材を食い散らかすことをしていなかったようで、無事な物は幾つかあった。

 君はそれを確認しながら、スープを作っていく。

 その合間にサンズは君へと語り掛ける。


「いやー、本当に大変だったよー。おっさんの家でみんなと宴会してから国の用事が入ってさー」


 宴会……。それを聞いて君は数年前に彼女たち勇者パーティが現れたときのことを思い出す。

 家の庭でドラゴン肉の焼き肉パーティーをした悲惨な光景を……。

 ドラゴン肉の溢れんばかりの肉汁と柔らかかった格別な美味しさを……。

 そして、その日から異常な発育速度を見せるようになった畑を……。


「セインは聖女としての慰安活動にかかりきりだし、スミスは鍛冶作業で工房の中で缶詰状態、クラフも同じだしさー。マジックなんてちょっと世界中の魔書を読み漁りたいって何処旅してるか分からない状態だからさー。ボクに依頼が来たってわけだったんだよー」


 そうサンズはげんなりしながら言う。

 僧侶セイン、鍛冶師スミス、細工師クラフ、魔法使いマジック、そして勇者サンズというパーティ。

 そんな彼女たちの手助けをするために君はギルドから派遣されていた。

 初めはギクシャクとしていたけれど、打ち解けたら大分仲良くなれたと君は感じている。

 かつての仲間たちを君は懐かしく思う。

 そして、君はサンズにどんな用事だったのか尋ねる。……が、すぐに言ったらいけないことだったのではないかと後悔した。


「どんな用事かは別に言ってもいいと思うよ。……まあ、簡単に言うと違法な奴隷商組織の調査だったんだよねー」

「「っっ!!?」」


 彼女の言葉に、ミルクとココアが震える。

 けれど彼女たちが育てられた組織なのかは分からない。

 だが怯えている彼女たちを落ち着かせるべきだろうと考え、君は鍋を煮込んでる間にココアとミルクの元へと近付くと2人の頭を撫でた。


「わふぅ……」

「にゅぅ……」


 君の手の温かさに安心したのか、2人の緊張が解けた。

 そんな君たちの様子をサンズはジーッと見ていたけれど、話を続ける。


「正直調査が面倒臭かったよー。だってさ、末端組織ばかりは見つかるのに、大本には辿り着かないんだからさー。あ、ちなみに腹が立つけど牧場みたいな感じに種族別に子供が飼育されてたよ。獣人、エルフ、人間……」


 あっけらかんと言っていた彼女だが、組織の調査のときのことを思い出し始めたのか苛立ちが含まれ始める。

 良く見ると髪の隙間から見える彼女の茶色の瞳に暗い炎が見えた。

 どうやら暗い部分をかなり見てきたようだ。

 それを見て君はこのまま彼女を放り出してはいけないと感じた。

 君は彼女に少し休むように言う。すると待ってましたとでも言うように彼女は笑みを作った。


「ふふんっ、実はそのつもりで来ました。いやー、正直限界だって自分でも理解してたからさー、おっさんの世話になりたいって思ってたんだよー!」


 自分から言う手間が省けた。とでもいうように彼女は笑う。

 そんな彼女を見ながら、君はそれがから元気であることに気づく。

 だが気づいていても言わないでおくのがやさしさだろうと考え、君は黙る。


「あ、近い内に他の子も来ると思うから、そのときはよろしくー★」


 ……黙ることが出来なかった。というかこいつを黙らせてやろうかと思ってしまう。


「ちょ!? ギブギブ!! 折角いい雰囲気だったのに、なんでまた掴むのさーーっ!!」


 君は掴まれながら抗議する彼女に、いきなり来るよりも事前に連絡を出すように言ってただろうというが、掴まれながらも元気な彼女は親指を立てる。


「ああ、おっさん一人だからエッチな物を隠し――あいたぁーー!」


 どうやら彼女は君が独り暮らしのままで、酒とかエッチな本とかを放置しているだろうと思っていたらしい。

 そしてそれを使ってからかおうと思ってたのだろう。

 ……まあ、その前にお腹が空いて食事を取ってしまったのだが。


「えっと、ご……ご主人様。お風呂が沸きましたけど……」


 そんな中、お風呂の準備をしていたフィンが君たちの元へと現れる。

 君は彼女に礼を言って、サンズを掴んだまま脱衣所へと向かう。

 そして、お風呂場へとポイと投げた。


「ふぎゃ!?」


 顔から床に落ちた彼女は呻き声を上げたが、君はきちんと体を洗うように言ってから居間へと戻る。

 戻ってきた君へと、フィンは戸惑いながら尋ねてくる。


「あの、ご主人様……あのかたはいったい……?」


 君はフィンに昔の仲間だと言い、しばらく居候するかも知れないことも言う。

 君の言葉にフィンは驚きつつも頷き返す。

 ……と、そんな中、忘れていたお腹の音が鳴り響いた。


「あ……」


 鳴り響いた本人はすごく恥かしそうに頬を染めたので、彼女たちを席に座らせ、残った材料で作ったスープを食べた。

 そして食後のお茶を飲んでしばらく待っていると、お風呂に入って汚れを落としたサンズが戻ってきた。


「あー、さっぱりしたー! おっさん、飲みものないー?」


 そう言った彼女は先ほどまでの汚い格好とは打って変わっていた。

 というか、オレンジ色の髪が黒くなるほど汚くなるってどれだけ洗っていなかったんだろうか……。

 君は心からそう思いながら、お茶を勧める。

 彼女は喜びながらそれを受け取ると、温いそれを一気に飲み干した。


「んくっ、んくっ……ぷはーっ! あー、生き返るー」


 笑みを浮かべながら、彼女は空いている席に座るとグテーッとテーブルに上半身を伸ばした。

 ……そういえば、数年ぶりに会ったというのに彼女の外見はあまり変わっていない。というか内面も子供のままとしかいいようが無かった。

 そんなことを思いながらジッと見ていると、君の視線に気づいたサンズが笑みを浮かべた。


「なになにー? おっさん、ボクの魅力に気づいたのかなー?」


 即座に全然と答えると、しょんぼりした。

 正直君のとって彼女は手のかかる親戚の子供な印象でしかないのだ。

 そう思っていると彼女は立ち上がった。

 そして君に向けて、両手をピースして開閉を繰り返した。


「おっさん、ちょーっと髪切ってくれない? いい加減目に入って鬱陶しくてさー」


 そう言うサンズを見ると、汚れを取ったオレンジ色の髪はやはりボサボサのままだったことに気づく。

 数年前の旅のときもボサボサだったけれど、ここまでは……。

 どうやらまったく手入れをしていなかったのだろう。

 そう思いながら、君は散髪用のハサミを取って来るから庭で待つように言う。


「あんがと! 出来れば可愛い系でお願いね!」


 サンズは元気良く礼を言った後、そそくさと外へと出て行った。

 君はそんな彼女の後ろ姿を見てから、ハサミを取りに向かう。

 そして、ハサミを取り居間に戻ると……少し機嫌悪そうなココアとミルクがいた。

 ……良く見るとフィンも少し膨れている。


「ごしゅじん、オレの髪も少し切って良いんだぞ?」

「あたしも、切っても良いよ?」

「うぅ、切って欲しいですけど、この髪形似合うって前に言ってくれましたし……」


 どうやら3人はサンズに構っていたのが嫌だったようだ。

 君はそれに気づき、3人に謝りつつ彼女たちの髪は切らなくても良いという。

 ココアのロングなモフモフ毛並みも素晴らしいし、ミルクの背中まで伸びた髪もさらさらで綺麗だし、フィンの髪は金糸みたいにすごく美しいと言う。


「「「~~~~~~っっ!!」」」


 君の言葉に、3人は頬を染めつつ君を見る。

 ミルクはわかり難いが、君にはそんな感じにもう見えるのだ。


「あるじ、ありがとう……」

「わふぅ、ごしゅじんにそう言われるとうれし恥かしい……」

「あ、ありがとうございますご主人様……」


 君に対し、彼女たちは口々に礼を言う。

 そんな彼女たちを見ながら君は庭へと出る。

 そこには今か今かと待っているサンズが、丸太を椅子代わりにして座っていた。

 ……とりあえず、このボサボサとなった髪をどんな髪形に刈るとしようか?


  →短く切ることにする。(ショート)

   ある程度切ることにする。(セミロング)

   前髪を整えて、後ろで纏める(ポニーテール)


 君はサンズの髪を短く切ることに決めた。

 僧侶セインか、細工師クラフが彼女と同行をしているならば身嗜みをきちんとしてくれるだろう。

 けれど彼女たちは自由になれない状況らしい。……近いうち来るらしいのは確定だろうが。

 まあ、そういうことなので、君はサンズの髪を短く切ることにした。


「そんじゃー、よろしくおっさん!」


 白い歯を剥き出しにするように笑いながら、彼女は君へとお願いする。

 その言葉を聞きながら、まず初めに君は長く伸びきった後ろの髪を肩口辺りまでバサっと切る。

 ジョギリ、と髪を切る感触がハサミに伝わりながら、彼女の後ろ髪はボトンと地面に落ちた。


「勢い良く切ったなー。んじゃ、前のほうもよろしくー。正直見え辛くってさー!」


 軽くなった頭に嬉しそうに彼女は言いながら、指で前髪を指す。

 君は軽く返事を返しながら、ある程度の長さにハサミを当てつつ彼女に確認を取る。


「んー、もうちょっと前に。あ、行きすぎ行きすぎ。そこで」


 彼女の基準を聞きながら、ジョギンとハサミを閉じ、髪が切られる。

 するとオレンジ色の髪に隠されていた彼女の茶色の瞳が周囲に晒された。

 君は目を開けていると髪が入るから目を閉じてジッとするように言う。


「わかったよ。おっさんのセンスに超期待させてもらうねー」


 そう言って彼女は目を閉じる。

 君は一度バサっと切ったサンズの髪をマジマジと見てから、首が隠れる程で良いだろうと考えハサミを走らせる。

 ジョギジョギ、ジョギジョギとハサミが髪を切るの音が周囲に響く。

 響くのだが、その様子を見ていたフィンたちは目をパチパチとしていた。


「あの、ご主人様……髪を切ってるのですよね?」


 不安そうに尋ねてくる彼女に対して、君は頷く。

 一方で切られているサンズも彼女の言葉にカラカラ楽しそうに笑う。


「おっさんおっさん、この子らってボクが何なのか分かってないんじゃないかな?」


 彼女の言葉に君は納得し、確認を取る。


「別に良いよー。減るもんじゃないしさー♪」


 その返事に礼を言いつつ、君はフィンたちをこちらに近づけるとサンズの前髪を軽くかき上げた。

 すると髪に隠れていた前頭部のそれが彼女たちの視界に晒された。


「え、これって……」

「つ、つの?」

「この人、……獣人?」


 それ、小さいけれど黒く光る2本の角を見て彼女たちは目を点にする。

 彼女たちの言葉を聞きながら、サンズは楽しそうに笑う。


「ボクは獣人、ってよりも……ドラゴンと人間のハーフだから、ドラゴンハーフっていうほうが正しいかなー★」

「どらごんはーふ……って、ドラゴンッ!?」

「ド、ドラゴンってあれだよな? あのでかくてぐわーって炎をはくってやつ!」

「どらごんはーふ……かっこいい」


 フィンは頭が追い付かずぽけっとしていたが、追い付いた瞬間驚きの声をあげた。

 ココアは両手をぐわーっと広げながら、ドラゴンのイメージを口で伝える。

 ミルクは瞳を輝かせながら、サンズを見ていた。

 そんな彼女たちの様子をサンズは嬉しそうに見ている。

 君は彼女の嬉しそうな様子を見つつ、フィンたちが種族の違いで忌避感を表すわけがないと心から思う。

 君はサンズに彼女たちと話したいだろうけれど、今は髪を切るのが先だと告げる。


「わかってるってばー。あ、ちなみに髪を切るのにすごい音してるのはね、触ったら普通なのに切るときだけは……」


 ジョギン、と君はハサミでサンズの髪を軽く切る。


「ドラゴンの鱗並の硬度を出すんだよねー」


 だから切るときにすごい音が出るのだと君はフィンたちへと言う。

 それを聞きながら、ココアが地面に落ちた髪を数本手にとって触り始めた。

 けれど地面に落ちた瞬間、髪は普通の髪になっている。

 そんな切られたサンズの髪を指でグニグニしながら、ココアたちは君の言葉を聞いていく。

 君は髪の感想を口々に言う彼女たちの声を聞きながらハサミを走らせ、もう少し細かい作業を行う。

 一気に切った前髪と後ろ髪を綺麗に……とはいかないけれど、ある程度見栄え良く切っていく。

 一度仕上がりを確認してから、君は良いだろうと判断しサンズに声をかける。

 君の声を聞いて、彼女は目を開けるとジッと座っていたのが疲れたのか背をうんと伸ばした。


「んっん~~~~っ!! あー、肩が軽いやー。あんがとおっさん!」


 首をこきこき鳴らしながら、サンズは君に礼を言う。

 その言葉を聞きながら、君は切った彼女の髪を破れかけの麻袋へとまとめていく。

 あとで麻袋ごと燃やして処分するつもりだ。

 そう思いながら君は彼女へと振り返ると、彼女はフィンたちへと向かっていた。


「改めて自己紹介するけど、ボクはサンズ。勇者をやってるよー!」

「はあ……、はい!?」


 軽く手を挙げながら、サンズはフィンたちへと爽快な笑みを浮かべながら挨拶をする。

 その言葉に戸惑いつつもフィンは頷くけれど、すぐに彼女の肩書きに気づき素っ頓狂な声をあげた。

 一方、ココアとミルクはわかっていないようで首を傾げている。

 彼女たちのこれまでを考えると当たり前だろう。


「えと、あの、ご主人様の昔の仲間で、勇者様で……え、え? え?」

「うんうん、面白いよねー。そう言う反応ってさー★」


 アタフタするフィン、そんな彼女を見てサンズは腕を組んで楽しそうに笑みを浮かべる。

 君はそんな彼女に意地が悪いと言う。

 そんな君へと、ミルクとココアが近付く。


「あるじ、ゆうしゃ……って何?」

「すげーのか? すげー人なのかこのひと!」


 フィンの様子にミルクは勇者が気になっているようで、ココアは目の前の人物が有名人なのか気になって仕方ないようだ。

 君は改めて彼女たちに勇者という存在を説明する。

 まあ、大雑把に凄く強い敵を倒しに行く人と言う。


「いや、うんまあ、そうなんだけどさ……。おっさんもう少しいい感じに説明してよー!」


 文句を言うサンズに対し、君は厄介ごとを押し付けられた集団のほうが良いかと尋ねる。

 それを聞き、彼女は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


「あー……それは簡便してほしいな……」


 そう、勇者などという素晴らしい肩書きの彼女だが……それは国側の言い分で、正直なところドラゴンハーフという異常な種族である彼女に厄介ごとを押し付けるための方便であった。

 ここには居ない彼女の仲間たちも同じようなものだから、勇者だからと誇れるはずがない。

 そう思いながら君は思い出す。

 国からの依頼で派遣されたパーティで彼女たちと初めて会ったときの様子を。

 死んだらそれまでの使い捨てと言われていたのか、それとも仲間が何度か入れ替わったのか……その度に仲間の死を見た結果、感情をすり減らして、人形のように表情を変えることがくなっていた彼女たちを。

 初めは居ないような扱いをされていた君だったけれど、段々と打ち解けていき……最終的に彼女たちは君を信頼してくれた。

 だから危険な旅をして、彼女たちと共に倒すべき敵を倒すことが出来た。

 分かれたあとも度々来るようにもなった。

 それを君は懐かしそうにしみじみする。


「え、と……ということはご主人様は噂の6人目だったのですかっ!?」


 ようやく追い付いたのかフィンが驚いた声を君に向ける。

 というか、6人目って何だろうか?

 そう君は首を傾げる。

 するとフィンが話し始める。


「一応エルフの里にも人の情報は入ってきてたのですが、その中にこんな話が……」


 そう言って彼女が放し始めた話はこんな感じだった。

 曰く、勇者パーティは5人以外に1人いる。

 その幻の1人は5人を支える存在であり、色んなことをこなす万能な存在だったらしい。

 その人物が居ただけで戦闘での連携が上手くなり、ギスギスとしていた雰囲気も和らいだらしい。

 更にその人物の料理は美味しく、勇者パーティは魅了されていたらしい。

 その人物がバラバラだったパーティをひとつにまとめたらしい。

 だから勇者パーティは強大なモンスターを倒すことが出来たのだと言う。

 それを聞き、サンズは懐かしそうに目を細め……君は顔を顰めていた。

 当たり前だ。

 こんな話を聞いたことはなかったのだから。というか聞いていたらすぐに君は噂を消しただろう。

 だから君にばれないように噂は広まったのだと思う。

 君はそれを理解し、頭に手を置く。

 色々とツッコミたいとも思った。そう君は呻くように言う。

 そんな君にサンズが口を開いた。


「んー、でもおっさんが居なかったら本当、ボクらは死んでたかも知れないや。だから、他のみんなもおっさんを信頼してるんだよ」


 そう彼女は君に言う。

 それを聞きながら君は彼女たちが、おっさんとか小父さまとかおやっさんとかおじさんとか小父殿とか言ってたのを思い出す。

 と、君は空に昇る太陽が上にのぼっていることに気づき、話し過ぎていたことに気づく。

 サンズが来たことで食料が大分減ったから補充が必要だと考える。

 今ならまだ朝市はやっているだろう。

 市場に行き慣れた彼女たちだけに行かせるか、それとも自分もついていくかを君は考える。

 君は……、


   彼女たちだけで市場に行かせる。

   全員で市場に向かう。

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