まとめ20 一年経過・1

 鳥の鳴き声がまだなることもない、夜と朝が移り変わる光と闇が交わる時間帯。

 そんな中を駆ける者たちがいた。

 一人は静かにタタタッと上半身を前に出すようにして駆けており、一人は大盾を担いでガチャガチャ揺らしながら駆けていた。

 更に2人の胸は駆ける度に上下左右に激しく揺れて主張している。

 そう、前を走るのは少女だった。

 それも幼さの中に色気がある顔立ちをした犬と猫の獣人の美少女たちだった。


「ココアッ、ミルクッ! あまり全力で走らないように! 訓練前にばてますよー!」


 彼女たちの後ろから続くように金色の髪を一本に纏めたエルフの少女が2人へと注意する。

 彼女の声が聞こえたのか少女たちの耳がピクリと動き、走りながら後ろを見た。


「大丈夫、あたしまだまだ行ける」

「オレもぜっこーちょーだぜ、フィンねーこそ大丈夫かー!?」


 拳を握り締めるミルク。

 犬歯が見えるほどに爽快な笑顔を放つココア。

 逆に心配をされるフィン。

 遠くから聞こえるその声に君は耳を傾けつつ、練習道具を用意し始める。

 フィンとミルク用の遠距離練習用の的、ココア用の丸太や案山子。

 用意しながら、今までの訓練で付いた傷を見ながら君は懐かしく思う。

 一年前、君は3人に鍛えてくれとお願いされて訓練を始めた。

 初めは全員すぐに倒れた。

 自分に圧し掛かる重量に耐え切れずに力尽きたこと、それとそれを持続するための魔力の枯渇が主な原因であった。

 その時点で諦めるかと思ってしまった君だったけれど、彼女たちは諦めること無く頑張った。

 特にミルクとココアは君やフィンに魔力のことを聞き、調節出来るように頑張った。

 一月、二月と進む度に彼女たちの一度に出そうとしていた魔力は段々と調整され始めていった。

 その甲斐あって、駄々漏れだった彼女たちの魔力は大・中・小ではあるが調整出来る様になったのだった。

 ちなみに彼女たちに教えていたフィンは更に磨きがかかったのか精度な調節が出来るようになっていた。

 それから3人は体にかかる重量を変えながら、走りこみを続けた。

 お陰で彼女たちの体力は増えていき、簡単に倒れることは無くなった。

 そして今、彼女たちが腕輪に込めている魔力は最大限であり、もう少ししたら割れるだろうと君は考える。


「あるじー」


 と君の考えを中断させるように、声が聞こえる。

 見ると、ミルクが君へと近付くところだった。

 彼女はトンと一足踏むと君の胸へと飛び込んできた。

 君はそれを抱き締めながら、衝撃を逃がすためにその場で軽く回転をした。

 胸元に当たるやわらかい感触が素晴らしく感じながら、君は彼女を地面へと下ろした。


「あるじ、あたし速かった?」


 君は昨日の走りこみの時間を思い出しながら、ミルクを見て頭を撫でる。

 そして、速かったよと褒めた。


「にゃぅ♥ 嬉しい……♪」


 撫でられるミルクは嬉しそうに目を細めつつ喜びの声を上げる。

 それに遅れるようにしてドスドスという音が耳に届く。


「あー! ミルク撫でられてて、ずりーぞ!」


 ミルクに遅れるようにしてココアが到着した音だ。

 音の具合からして、かなりの重量がいま彼女の体に圧し掛かっているだろう。

 けれど彼女は君がミルクの頭を撫でていることに腹を立てているのか、頬を膨らませながら君へと近付く。


「ココア、もっと速くばいい。そうすれば、あるじに撫でられ三昧」

「むぅぅ、そうだけどさぁ……そうだけどさぁ!」


 ミルクの言葉にココアは悔しそうに地団駄を踏みながら唸る。

 そんな彼女へと君は笑みを浮かべながら、わしゃわしゃと頭を撫でる。


「わふっ!? わ、わふぅ~~……♥」


 突然のことで驚いたようだけれど、すぐに彼女は気持ち良さそうな顔をした。

 それを見ながら、君は彼女の耳の付け根を擽るように揉む。

 するとココアは体をビクビクさせながら、更に顔を蕩けさせる。


「わふぅ~~……。ごしゅじんぅ、そこだめだぁ~~……♥」


 尻尾をブンブン振りながらココアは言うけれど、頑張ったご褒美としてまだまだ撫でる。


「ご主人様、そのくらいに」


 最後の到着したフィンが君を止める。その声にハッとしてココアを見ると、ぽわ~っとした表情で膝がガクガクとなっていた。

 それに気づいた君はココアの頭から手を放す。


「わふぅ……、ごしゅじん。もっとぉ~……♥」


 まだ撫でて欲しい、そんな風にココアは言うが君は首を振る。

 訓練をしないと行けないのだから。


「あるじ、訓練が終わったらあたしにもして欲しい。ココアもいっしょに」


 訓練が終わってからと強調しているところに、君は断れそうに無かった。

 君が頷くとココアも瞳を輝かせてミルクへと親指を立てる。


「サンキュー、ミルク!」

「ん、どういたしまして」

「ふぅ、この子たちはもう……」


 呆れたようにフィンが2人の様子を見ているけれど、微笑ましい物を見る眼だ。

 フィンも撫でられたいのかと尋ねてみると……。


「わ、わたしは……その……あの…………お、おねがいします」


 躊躇していたようだけれど、最終的に頷いた。

 そんな彼女たちの様子を見ながら、君は一度手を叩いてから訓練の準備をするように告げる。

 すると彼女たちは毎日の行動だからか、すぐに顔を引き締めて準備を始めた。

 ミルクは小太刀を腰にかけ、懐に金串が入った袋を忍ばせる。

 ココアは大盾を構えて、2人の前へと立ちはだかる。

 フィンはベルトに短剣を差してから、弓を構えた。

 それを見ながら君は距離を取り、剣と盾を構える。

 ちなみにどちらも殴られると痛い木製の物だ。


「準備かんりょう」

「こっちもオッケーだ!」

「わたしも大丈夫です」


 彼女たちの言葉を聞き、君は訓練開始の合図を出した。

 まず初めにミルクが小太刀を抜くと素早く駆け出し、君へと迫る。

 君は近付いてくるミルクへと剣を振り下ろそうとするが、剣が弾かれた。

 遠くを見るとフィンが弓を構えているのが見えたので、魔法の矢を飛ばしたのだろう。

 それを理解しながら、ミルクは君の懐に潜ると小太刀を振るう。

 だが君は振られた小太刀を避けるためにバックステップを踏んで、避ける。

 直後、ミルクは懐から金串を取り出すと君へと投げた。

 君はそれを盾で弾くと、再度剣を振り下ろす。

 しかし初手を失敗したと理解しているミルクは即座に後ろへと下がり、ココアの後ろへと隠れる。


「今日こそいけると思った」


 弾かれたことに不満なのか、ミルクは言う。

 その声を聞きながら、君は今度は自分が彼女たちへと踏み込んでいった。

 接近すると同時に剣を振り上げ、力を込めた振り下ろしを放つ。


「止めてみせる!!」


 振り下ろされる剣を見ながら、ココアは大盾を構える。

 瞬間、ドゴッという激しい音が響いた。


「~~~~っ!!」


 構えた大盾から衝撃が来ているのか、ココアから唸り声が響く。

 けれど盾を落さないのは評価出来る。

 そう思いながら君は今度は大盾を盾で殴り付けた。


「っ!? う、うわっ!!」


 剣撃が来るだろうと予想していたココアは突然の衝撃に大盾を落としてしまった。

 戸惑いを見せる彼女へと君は剣を打ち込もうとする。

 けれどそれよりも速くにフィンの矢とミルクの金串が放たれ、君は盾を構えながら距離を取った。


「大丈夫ですか、ココア!」

「だ、だいじょーぶだ。ありがと、フィンねー。ミルク!」


 心配する2人に礼を言いながら、ココアは大盾を拾う。

 それを見ながら君は魔法を使うように言う。


「いいのか!? やった!!」


 すると待ってましたと言わんばかりに、ココアが魔力を放出して自身の肉体を強化し始める。

 彼女の背後では先ほどまで感じていたミルクの気配が薄れるのを感じた。

 更にフィンが構える魔法の矢には風の唸りが見えた。

 彼女たちの様子を見ながら、君は盾を前面に構える。

 直後、いつの間にか背後から接近していたミルクが君へと小太刀を振るう。

 だが君は後ろを見ずに剣を横薙ぎする。

 突然振られた剣に驚き、ミルクは攻撃を中断し距離を取った。


「もらったぁ!!」


 防ぐことは無理だろうと判断したココアが接近する。

 肉体強化された彼女は大盾を振り被り、それで君を殴り付けた。

 君は盾を構え、その一撃を防ごうとするが彼女の力は思ったよりも強く盾が弾かれた。


「フィンねー!」

「わかりました! ご主人様、いきます!!」


 叫び、フィンはがら空きとなった君の胸目掛けて、風の矢を放った。

 君は体を素早く強化し、フィンの矢を受ける。

 瞬間、君の体は強化された体は彼女の放った風の矢の影響を受けて空中を回転しながら吹き飛ばされた。

 一回転二回転とグルグル錐揉みし、君の体は地面に落ちていった。

 それをやってしまった本人であるフィンが不安そうに見つめていたが、君は立ち上がる。

 そして彼女たちに向けて良く出来たと褒めた。


「あ、ありがとうございますっ」

「へへっ、やったぜ!」

「あたしまだまだだった……」


 頭を下げるフィン、大盾を掲げるココア、不満気なミルクを見ながら君は訓練を終えたことを告げて朝食を取るために中に入るように言う。

 君の言葉に彼女たちは頷き、家の中へと入っていく。

 今日も元気に動いたのだからお腹が空いているだろう。そう思いながら君が入ると彼女たちは居間の入口で固まっていた。

 どうしたのかと思いながら、君が居間の中を見るとそいつが勝手に食事を取っていた。

 君に気づいたそいつは軽く手を挙げる。

 そいつ、とは君がかつて共に過ごしたパーティのメンバーであり、君にとっての友人とも呼べる存在であった。

 そいつとは……、

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