まとめ37 出立・4

 もう一度眠ろう。そう思った君だったが、視線を感じ……そちらを見た。


「「「「「あ……」」」」」


 目が合った。同時に扉の隙間から5人の声が洩れるのを君は聞いた。

 君は何とも言えないままジッと見ていると、彼女たちの手によって……そっと扉は閉められた。……って、閉めないで!

 しかも最後のそっとして置こうっていうような優しい気遣いなんていらないから! 君は心の底から叫ぶように彼女たちを呼び止める。

 すると呼び止められた彼女たちは再び扉をゆっくりと開け、中へと入ってくる。

 部屋へと入ってきた彼女たちは、表情はそれぞれ様々であった。

 サンズは興味深げにしており、セインは顔を赤くしており、スミスは訳知り顔でうんうんと頷いており、クラフは観察するようにまじまじと見つめており、マジックはとっても羨ましそうに淫魔の妖しい瞳で見ていた。

 そんな様々な反応だったが、彼女たちは口を揃えて同じことを口にした。


「「「「「ゆうべはお楽しみでしたね!」」」」」


 とりあえず彼女たちは、下着姿で君に抱きついて眠っているフィン、ミルク、ココアを見てヤッてしまったのだろうと予想したようだ。

 一応性交などの知識はあるようでホッとした反面、彼女たちに待ったをかける。

 当然だ、ヤッていないのだから。


「おっさん、据え膳食わぬは何とかって言葉があるだろ?」

「その、お……小父さまも男ですから……、セインも分かってるです」

「おじさん、あちきとしては誤魔化すのはダメだと思うね」

「おやっさん、やったことを認めようさー」

「小父殿、このまま我輩も混ぜてくれないか?」


 ヤッていないと君は言っているのだが、彼女たちは信じていないようだった。

 そしてマジックに至っては興奮気味に君を見ている。

 君はそんな彼女たちへと昨日あったことを説明する。

 すると彼女たちは口を揃えて……、


「「「「「ヘタレ!」」」」」


 と口を揃えて言った。正直泣きたい。


「んっ、んん……っ」

「にゅぅ……」

「わふぅ……」


 君と彼女たちの会話が煩かったからか、フィンたちが目を覚ました。

 初めはぼんやりと君の顔を見つめていたフィンだったが、昨日何をしようとしていたのかを思い出したのか顔をボッと赤らめた。


「あ、あの、ご主人様……お、おはようございます」

「あるじ……おはよ……にゅう……」

「おふぁぁ~~……わふぅ……」


 ミルクとココアはまだ眠いようで、欠伸をしてうつらうつらしている。

 君は彼女たちに、おはようと声をかけてベッドから起き上がろうとする……が、彼女たちが起き上がらないと体を起こせないことを思い出した。

 とりあえず彼女たちの目が完全に覚めるまでこのままだろう。

 君はそう思いながら、暫くサンズたちの好奇の視線を浴びながらベッドに寝転んでいるのだった。


 それから目が覚めた彼女たちは恥かしそうに下着姿を体で隠しながら、君を見て頬を染める。

 それを見てから、サンズたちは君を見る。

 本当に自分はまだ何もしていない。20歳になっても想いが変わらなかったら分からないけれど。

 君はそう告げると、マジックが頷いてから尋ねる。


「小父殿、二十歳などあっという間であるぞ? 後悔しても知らぬぞ?」


 ……そのときは覚悟を決める。

 彼女の言葉に君は困った表情で返事を返す。

 まあ……、ココアとミルクにいたってはまだ6年もある。だからその間にきっと自分よりも良い相手が見つかるだろう。

 そう君は心の中で思いつつ、彼女たちを見る。

 そんな君の考えている事をフィンたちは理解しているのか拗ねるように頬を膨らませながら見ており、サンズたちも理解しているようだった。


「……おっさん、悪いことは言わない。なんだか数年後に後悔すると思うからそれ」

「セインもそんな気がするのです。というよりも、フィンさんたちをお嫁さんにしたら、セインも娶って欲しいのです」

「あはは、そのときはあちきもクラフと一緒に嫁ごうかね!」

「それは良い考えさー★」

「クククッ、そうなる未来はきっと近いだろう。我輩はそう予言させてもらおうではないか」


 なんだか口々に酷いことを言っているような気がするが、責任か……。

 まあ、そのときになってみないと分からないな。

 君はそう言って彼女たちの言っていることを有耶無耶にしようとする。


「お嫁さん……」

「およめさん?」

「なんだそれ?」

「簡単に言うと、ずっとご主人様と一緒に居られるってことですよ」

「だったら、あたしはなりたい。およめさん」

「オ、オレも……!」


 フィンたちの言葉を聞きながら、そうはならないだろうと考えることにした。

 だが、君は何故だか追い詰められた様な気がした。

 いや、気のせい。気のせいだ。

 そう考えつつ、君は朝食を作るために部屋を出て行く。

 昨日の夕食で食材の殆どを食べていたが、幸いにもパンは残っていたのでそれをある程度の厚さで切り、トーストして庭から採ってきた野菜と果物をカットしてサラダにして朝食を作り終える。

 彼女たちはそれを食べ終えたのだが、サンズとココアは肉が無かったからか不満そうに 見えたが我慢してもらうことに。

 それからフィンたちは着替えを行い、ある程度の荷物を背嚢に詰め込むと庭へと出た。

 すると先に庭に出ていたマジックが彼女たちを見てほくそ笑んだ。


「クククッ、ようやく来たかエルフの姫に獣の姫たちよ」

「お待たせして申し訳ありませんマジック様」

「あ、いや別に怒ってな――ククッ、気にするな。我輩は寛大なのだからな」


 頭を下げるフィンに一瞬素を出してしまうマジックだったがすぐに何時も通りに戻ると杖を掲げ、魔法の詠唱を唱え始めた。

 すると、彼女の詠唱に呼応するように事前に地面に描いていたであろう魔法陣が淡い光を放ち始める。

 そしてその魔法陣の中に何処からともなく扉が現れた。

 何処にでもある木で出来た扉だ。ただし宙に浮いているが……。


『――我が名はマジック、この扉を固定せし者なり!!』


 その言葉を最後に詠唱が終わり、彼女はふうと息を吐き汗を拭う。

 どうやらかなり魔力の消費が激しい上に体力を使うものだったのだろう。

 君はそう思いながらマジックと彼女が呼び出した扉を見る。

 ……やはり、何の変哲も無い扉だ。けれどそこがフィンたちの特訓の場となるのだ。

 君は彼女たちを見る。

 彼女たちは現れた扉を息を呑むように見つめていたが、意を決すように互いに頷くと魔法陣に向けて歩き出す。


「召喚維持は一週間、それが終われば生きていようが死んでいようが強制的にこちらへと連れてかるようにしてある。わかったな?」

「はい……、ご主人様――行ってきます!」

「あるじ、またね」

「行ってくるな、ごしゅじん!」


 口々に彼女たちは君へと声をかけ、魔法陣の中へと入り……扉を開けた。

 その瞬間、扉を開けた彼女たちの体が吸い込まれるようにして中へと入っていった。

 君はそれを見届け、無事に帰ってくるように心の中で祈る……。

 そして君は自分がやるべきことを行うことにした。

 食材の買い込み、日持ちがする食べ物への調理、武具の手入れ、やるべきことは色々ある。

 君は……、


  →食材の買い込みを行う。

   携行食への調理を行う。

  →武具の手入れを行う。

   移動手段を手に入れる。


 まずは武具の手入れを行うことにした。

 君が庭先へと赴くと、スミスとクラフがメタルドラゴン工房を開いていた。


「あ、おじさん。武器持ってきたみたいだね?」

「速く見せるさー」


 彼女たちの言葉に頷きながら、君は持ってきた剣を彼女たちに差し出す。

 それを受け取り、スミスは刀身を見始める。

 そしてすぐに一言。


「おじさん、ちゃんと振るって上げないとこの子怒ってるよ」

「手入れはキチンとしているけど、置き物のようになっちゃってるさー」


 彼女たちの言葉に君は苦笑する。

 ここ最近は木剣を振るい、フィンたちとの特訓の日々だったのだ。

 まあそれが無くても、あまり振るっていない。

 彼女たちにはそれが分かっているようで、不満そうに見える。


「おじさん、ちょっと体見せてくれるかな? 数年間でちょっと体変わったかもしれないしね」

「とっとと脱ぐさー。今すぐ脱ぐさー!」


 仕方ない、そう思いながら君は着ている服を脱ぎ、パンツ一丁となる。

 少し肌寒い。

 そんな君をスミスがまじまじと見つめ、体の細部や筋肉を見ているのだろう。

 ちなみに家の扉から熱い視線が2つほど感じるが、今は無視だ。


『小父さまの肉体……引き締まってるのです……♥』

『クククッ、あの歳であの体は魅力的すぎる……。抱いて欲しいな』

「なるほどなるほど、大振りするための筋肉が少し落ちてるね。これは少し重く感じるなら刀身削るよ?」

「ついでに重量軽減もするさー?」


 彼女たちの言葉に君は刀身を少し短くして貰うことをお願いするけれど、重量軽減の記号は要らないと言う。

 軽くなりすぎると感覚が変になってしまうのだから。


「分かったさー。だったら簡単に死なないように胸当てに防御力向上と自動回復は細工しておくさー」


 クラフの言葉に君はお願いする。

 すると彼女たちは鍛冶作業を行い始める。

 まあ自分の場合は研磨作業と細工だけだろうが……。

 そう思いながら中を見渡すとサンズたちの武具が置かれているのに気づいた。


「これらはおやっさんのが終わったら始めるさー♪」

「セインのは普通だったんだけど、マジックとサンズはダメダメだね」


 ダメダメ? 首を傾げつつ君は彼女たちの武具を見る。

 セインの武器、聖杖エンジェリックフェザー。

 白で統一されたその杖は神樹を柄に使われ、天辺の飾りは聖別された白金を使って創られた聖なる属性を増幅させる効果を持つ杖だ。

 隣には彼女の防具であるセインのローブが置かれている。

 そのローブは防御力が低いセインのためにクラフとスミスが頑張って創り上げたローブで彼女たちと旅をしていたときには物凄く嬉しそうにセインが着ていたことを君は覚えている。

 けれどよく見ると所々解れが目立っているのが分かる。

 きっと2人が良い仕上がりを見せてくれるに違いないだろう。

 そう思いながら、サンズの武具を見ると……君は眉を寄せた。

 当たり前だ。

 何故ならサンズの武器、竜剣ドラゴンロアーが無残な有様だったからだ。

 硬く壊れ難いと言われる鋼鉄に竜の鱗を砕いた物を混ぜて、丹念に打ち込んで創られた剣はちょっとのことでは砕けないと言われていた。

 けれどそんなスミスの自信を打ち砕くかのように、ドラゴンロアーはヒビが走っている上に刀身も所々欠けていた。

 これはどう見ても手入れも行わなかったし、無茶な使い方をしたのだろう。

 そう思いながら隣の防具を見ると、欠片が置かれていた。

 ……欠片?


「……これしか残ってないんだってさ。ははは……」


 遠い目をしながら、欠片を見ていた君へとスミスが言いながら笑う。

 どうやらこの欠片はサンズが装備していた防具の残骸らしい。

 その言葉を聞いて、君は何とも言えない気分となる。


「一応この子から、次の子をお願いしますって頼まれたけどさ……正直、ね?」


 どう見ても創りたくなさそうだった。

 壊すこと確定の人間に喜んで創りたいと言えないだろう。

 君はそう思いながら、マジックの武具を見たが……またも固まった。

 マジックの防具であるマジックローブはまだ良い。

 ちょっと黒ずんで汚いだけだ。きっと洗濯したら黒い汁が出ることだろう。

 だが問題は、武器である魔杖ワールドマジックだ。

 この杖は世界樹の枝を柄に使われており、絶対に壊れない上に魔法の補助をしてくれるという優れものだ。

 その上、飾りには魔力の自然回復の効果を上げてくれるクラフ特製の宝珠が取り付けられていた。

 それが柄の真ん中でポッキリと折れているのだ。

 ……よく見ると、中が腐っているのが見えた。

 これは……普通に中まで木が腐ってしまって脆くなった。ということだろうか?

 世界樹が? どうやって? ……深く考えるのはよそう。

 そう考えながらスミスとクラフを見ると、疲れたように……はあ、と溜息を吐いていた。

 どうやら彼女たちが予想していたよりも遥かに上の酷さだったようだ。

 君は期日の間に直るのかと不安そうに尋ねる。

 だが、君の言葉に彼女たちは半ば諦めたように首を振るう。


「おやっさん、直るのかじゃなくて直さないといけないのさー……」

「仕事が嫌で飛び出したのに、仕事以上のことをさせられることになるとはね……」

「がんばるしかないさー……」


 乾いた笑いを漏らす2人にどう声を掛けたら良いのかわからず、君はせめて食事だけでも彼女たちの好きな物を作ってあげようと心で誓った。

 そのためには食材が必要だ。

 考え、君は2人にここを離れる旨を伝えてからこの場を後にする。

 そして……、


「ククッ、我輩に同行を頼むのかな? 良いだろう」

「はいはい、バカ言ってないで速く行くのです」


 マジックとセインの2人を連れて、君は市場へと出向いた。

 サンズ? 彼女は放置だ。多分、暫くするとスミスの指示で鉱石を採取しに行かされることだろうが……。

 まあ、そんなことは別に構わないだろう。

 武具を雑に扱った罰だと思えば良いのだから。

 とりあえず、サンズのことは別にいい。今は食材を買うことに集中しよう。

 そう考えながら君はセインとマジックを連れて市場で食材を買い漁って行く。

 肉屋で干し肉、腸詰、塩漬けのブロック肉、そして準備までの間に食べる生肉を購入し、金を支払うとマジックを呼ぶ。

 マジックはポーズを決めながら、


「クククッ、我輩の力をようやく見せるときが来たか……!」


 うん、そういうのはもう良いから。速く収納するように君はマジックへと言う。

 言われたマジックは不服そう……というよりも、拗ねるように頬を膨らませていた。


「マジック速くするのです」

「……分かったのだ」


 セインの言葉に頷き、マジックは短い詠唱を唱える。

 すると彼女の手に小さな箱が現れ、それを君が買い込んだ肉類の前へと出した。

 彼女の手に置かれた箱がぱかりと開き、次の瞬間――吸い込むように箱が肉類を取り込んでいった。

 久しぶりに見たけれど、収納魔法というものは本当にすごい。

 そう実感しながら、君は干物、燻製、生魚といった魚類。パンやクッキーといった携行食になる物、小麦粉を購入し……マジックの収納魔法に詰め込んでいった。

 そして君たちは買い物を終え、家へと帰宅し……クラフとスミスが好物としている料理を作り、食事を行った。

 それから君たちは思い思いの行動をして過ごし……、金槌の音が響く中で一日が終了した。

 翌朝、君は……。


  →移動手段が無いことを思い出した。

   一日中、保存食を作ることにした。

   畑の野菜を収穫することにした。

   家の掃除をすることにした。


 翌朝、鳥の鳴き声……よりも金槌の音とメタルドラゴンの唸り声が鳴り響く中で目が覚めた君は眠っている間に強張った筋肉を解すように体を伸ばし、今日の予定を考え始めた。

 保存食を作るのも良いだろうし、野菜を収穫するのも良い、それとも旅立つ前に家の掃除を行っておくべきか。

 そんなことを考えていると、君はふと思った。

 この町から自分たちが向かう目的地である森までは大分距離があると言うことを。

 普通に歩いて向かうのであれば、一月はかかるだろう。

 それでも歩いて向かうのだろうか? ……いや、彼女たちは普通にやりそうだ。

 君はそんな不安を抱き始めた。

 けれどそこまで彼女たちも馬鹿では無いだろう。

 首を振って浮かんだ自分の考えを振り払い、朝食の準備をするために下へと下り……朝食の際に彼女たちにどうやってそこまで行くのかを訊ねてみた。


「歩いていく」

「そういえば考えていませんでしたです……」

「メタルドラゴンに乗ってくさー」

「メタルドラゴンは何人乗ってもビクともしないから安心だね」

「クククッ、我輩の転移を使って送り届けてみせよう。……成功率は低いが」


 ……まったく何も考えていなかったようだ。

 尋ねてよかったと思う反面、君は自分の馬鹿さ加減に頭を抱えたくなる。

 とりあえず、ひとりひとり尋ねて行こう。

 サンズの歩くは妥当だろうが、時間があるようで無い状態だから正直言って厳しいものだろう。

 セインも旅をしていなかったからだろうか、そのことを忘れていたらしい。

 スミスとクラフの2人はメタルドラゴンに乗れば良いと言うが……あれは大丈夫なのだろうか?

 それよりも何かを牽いてもらったほうが良いのでは無いか?

 そしてマジックは転移魔法を使って移動と言っているが……嫌な予感しかしない。

 マジックに使ったことはあるのかと訊ねてみた。


「我輩がしていないと思ったか? 使ってみたぞ」


 使った結果どうなったのか訊ねてみた。……目を逸らされた。

 ちゃんと答えるよう言うと、


「初めは岩を転移させてみた。ちゃんと転移したぞ……次に我輩に襲いかかろうとしたモンスターに使ってみた」


 成功したのかと尋ねてみる。……思いっきり目を逸らされた。

 素直に喋ったほうが身のためだ。


「……その、だな……逆となっていた」


 逆?

 彼女の言葉に君は首を傾げる。他のメンバーも同じように首を傾げる。

 逆とは一体なんだろうか?


「つ、つまり……だな。外見と中身が入れ替わっていたのだ」


 ……襲ってきたモンスター、憐れ血を巻き散らす残がいに。

 想像した瞬間、食事時にするべきでは無かったと君は理解する。

 けれど、そんな危険過ぎるものでの移動は危なすぎる。

 君は、いや君たちは全員でマジックの案を却下した。


「ではサンズの案が一番妥当……です?」


 歩いていく。それが一番良いだろうが、寝泊りをするのに不便だ。

 なので君は彼女たちに告げる。

 ――馬車を買おう。と。


「馬車かー……でもさおっさん」


 君の言葉にサンズが顔を顰める。

 当たり前だ。馬車を牽くための馬が彼女たちを牽くのを嫌がるのだから。

 過去の旅で一度彼女たちを馬車に乗せようとしたが、馬は怯えるだけだった。

 どうやらサンズの中に宿るドラゴンの血に恐怖してしまっていたようだ。

 だからあのときは基本的に歩いての旅だった。

 その言葉を聞きながら、君はスミスとクラフを見て尋ねる。

 メタルドラゴンで馬車を牽くことが出来ないかと。


「メタルドラゴンで馬車を牽くかー、スミスはどう思うさー?」

「可能と言えば可能だけど、大きめの馬車じゃないと大きさが合わないと思うね。この店にそれだけの馬車はあるの?」


 何となくだけれどツテはあると君は彼女たちに言う。

 それに無理だった場合はマジックに任せよう。


「まあそれなら分かったさー」

「とりあえずは小父さんに任せて、あちきらは作業だね!」


 君にそう言って、スミスとクラフは半ば自棄気味に叫びながら庭へと出て行く。

 彼女たちに心の中で頑張れと告げ、君はツテへと向かおうとする。

 その前にサンズとセインはどうするのかと尋ねると……。


「あー……ボクはちょっと採掘作業に行ってくるよー……あまりにも素材が無いってクラフとスミスが怒っちゃってさー」

「セインは不安なので、一緒に行くのです」


 君はセインへとサンズを本当に頼むとお願いする。本当に頼む。


「分かっているのです、あれは一人で行動させたら行けない類いなのです」

「ぶー、何か酷くなーい?」

「今までの行動を鑑みてからその言葉を言ってほしいのです」

「はーい。ってことで行ってくるね、おっさん」

「行ってくるのです」


 2人に気をつけていくように言うと、彼女たちは飛び出すようにして家から出て行った。

 とりあえずマジックは……。


「クククッ、我輩は何も無いので小父殿について行こう」


 彼女はそう言ったので、君はマジックと共にツテである『クレセントムーン』へと向った。


「おや、いらっしゃい」


 店に入ると入店した君へと店主のネコが声をかけてきた。

 君は返事を返しながらネコへと近付いていくと、彼女は君の背後を面白そうに見ていた。

 そちらを向くと、マジックが普通に入店するのが見えるだけだった。

 一体どうしたのだろうか?

 それを尋ねてみると、ネコは面白そうに笑いながら。


「いやー、昔ノリとテンションでスパークリングして書いた物をまさか本当に実践してくれる人が居たから面白かったんだよね。しかも使ったら一生そのままだってのにノリノリみたいだしさ」

「なっ!? ま、まさか……貴様、いや貴方様はあの性転換魔法『テイエスエフ』の著者であるのかですか!?」


 ネコの言葉を聞き、マジックは驚愕の表情を浮かべながらポーズを取る。

 そんな彼女を見ながら、ネコは頷くと……マジックはその場で神でも崇めるかのように土下座をして、祈りを捧げ始めた。

 なんと言うかマジックの残念さが益々際立ってしまった。

 君はそんなマジックから視線を逸らし、ネコへと用件を伝える。


「なるほど、遠出をするための馬車かあ」


 君の言葉に頷きながら、ネコは机の上の台帳に何かを書き始めている。

 多分、君の注文の要望を書こうとしているのだろう。


「それで何人乗りが良いのかな? 全部で10人ぐらい? 馬はいらないけれど、巨大なドラゴンが動かす? ああ、ロボットねロボット」


 ろぼっと? よく分からない言葉だ。

 とりあえずその名称は気にしなくても良いらしい。

 それを聞き、話をしていき……ネコは頷きながら書いていく。


「……要望結果纏めたんだけどさ、これって動く家があれば良いんじゃないかな?」


 ある意味そんな感じだろう。

 ネコの言葉に君はそう返事を返す。


「まあ、お金を用意したら造るよ」


 そうネコが言うのだが、遊びに行くよ。という軽く言うかのように馬車を用意するとネコは言う。

 本当に大丈夫なのかと少し心配そうに君は尋ねるが、挑発的な笑みをネコは君へと向ける。


「金を貰ったら商品を用意をする。それが商人ってやつだよ」


 その言葉に君は分かったと頷き、金を差し出す。

 とはいっても出すのは何時も出している財布ではなく、大きな買い物をするときの一枚で大層な値段になる特別な硬貨を入れた財布からだ。

 ネコは差し出された硬貨をまじまじと確認し、頷く。


「毎度あり。この間、空飛んでたアレに付けるための馬車だよね? なるべく速めに用意するから、受け渡しは町の外で良いかな?」


 そのほうが良いだろう。

 彼女の言葉に君は頷くと、あとの作業を行うために店から出て行ことするのだが……マジックのほうを見る。


「我輩はもう暫く神を崇めている」


 ……とりあえず放っておいても大丈夫だろう。

 そう考えながら君は店を出て行った。

 そして色々と準備を整え、あっという間に一週間が経った。

 君たちは魔法陣の前に立ち、中に浮かぶ扉を見守る。


「さて、それでは呼び戻すぞ」


 マジックの言葉に君は頷く、それを見てマジックは詠唱を行い始める。


『異界に送られし者たちよ。我が声に従い、扉を潜れ――、我が名はマジック。この扉を開けし者なり!』


 カツン、と魔法陣を杖で叩く。

 すると魔法陣の中の扉が開かれ、中から3つの光が勢い良く飛び出してきた。

 勢い良く飛び出したからか、砂が舞い上がり周囲が見えなくなる。

 君は砂が沈むのを待ちながら、フィンたちがどうなったのか心配する。

 彼女たちは元気にやっていたのだろうか? 強くなったのだろうか?

 向こうではどれだけの時間が流れたのだろうか?

 不安が募り始め、速く砂が沈んでほしい。彼女たちの姿を見せてほしい。

 そう心から思い始めていた。

 ……どうやら自分も彼女たちが必要だったのかも知れない。

 たった一週間だが、君はそう思ってしまっていた。

 そして砂が沈み終え、そこには……、


   骨が置かれていた。

  →変わらないフィンたちが立っていた。

   見知らぬ美女たちが立っていた。

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