まとめ8 二日目・7

   家の周辺を散歩する。

   家の庭を散歩する。

  →家の菜園を散歩する。


 考えた末、君は菜園を散歩することに決めた。

 それをフィンに伝えると彼女は頷く。


「わかりました。それではこの靴を履かせていただきます」


 そう言ってフィンは椅子に座ると袋から靴下を取って穿き、その上に靴を履いた。

 そして履き心地を確かめるように立ち上がると、軽く動き始める。


「これ、すごいです……。わたしの足にしっかり合ってます。ご主人様が選んだのですか?」


 靴の感触に驚いてみせるフィンだが、君は素直にネコに選んでもらったことを告げる。

 そのことにフィンは残念そうな表情を浮かべるが、すぐに微笑む。


「そうですか……。ですが、本当にありがとうございます」


 そう言ってフィンは君にもう一度頭を下げる。

 そんな彼女へと君は、そろそろ行こうかと告げると、フィンは頷き君の後ろを歩き出す。

 隣に並んでも良いのに、君がそう言うとフィンは首を振る。


「いえ、わたしはご主人様の後ろで良いです。それに……」


 小さく彼女は自分の身分を呟くのが聞こえた。

 そのことに少し残念だと思いつつ、これからかと考えて君は裏口へと向かうと扉を開ける。

 すると開けた扉の先から光が射し込み、空を見上げると青空と夕焼け空が混ざり合い始めていた。

 いろいろあってバタバタしていたが、時間はもう夕方になっていたようだ。

 君はそう思いながら、外へと出る。


「んっ……わぁ、広い庭ですね」


 君に続いて外へと出たフィンが、庭を見て驚いた様子を見せる。

 フィンは驚いているようだが、庭の面積は君の家の半分ほどの大きさだ。

 一度討伐したドラゴンを解体するという状況が起きたとのだが、そのときははみ出して大変だったことを君は思い出す。

 同時に、それを押し付けた馬鹿オブ馬鹿な人物の藁い声も思い出し、少しイラッとするのだが……それを落ち着かせるようにして、菜園へと向かう。

 まあ、菜園といっても家庭菜園と呼ばれる種類の、ひと家族が賄えるような量と種類の野菜がある程度なのだが。

 君はそれをフィンに告げる。

 正直彼女たちがやってくる少し前にたまに来る友人たちとこれらの野菜を使って、市場で肉を買って料理をしたとしても一日で尽きたことを君は彼女に言う。

 ああ、そういえば肉が無いからドラゴンを捌こうということになったのだと君は思い出す。

 それを言うとフィンは……固まっていた。


「ご、ご主人様は凄いって思っていましたけど……、本当にご主人様って何者なんですか?」


 いまはただの冒険者だよ。と君は彼女の問いにそう答える。

 数年前まで別の職業をやっていたりするけれど、いまはもう冒険者だ。


「わかりました……。詳しくは聞きません。それで……菜園を見ていいですか?」


 諦めたように言うフィンに君は首を傾げるが、彼女の要望に応えるために彼女を連れて菜園を案内し始める。

 菜園は樹木、麦、地上に実る野菜、地中で育つ野菜という風に区切られており、それを説明しながら君は歩く。

 途中で君は昨日フィンが食べた葉野菜はあの辺りで育っていることを告げる。


「あの、ご主人様? わたしには収穫したと言うのにまだ生っているって聞こえるのですが……」


 君は彼女の問い掛けに、採取してもしばらくすると育ってくると答える。

 多分、ドラゴンの血が地面に何か影響を与えたんだろうと思う。あとは友人のどれかが何かをしたか。

 そう思いながらフィンを見ると、彼女は何とも言えない表情を浮かべていた。

 どうしたのかと思っていると、フィンがようやく口を開いた。


「ご主人様は凄いって思っていましたけど……、これは凄いってものじゃない……ですね」


 フィンは目の前の現実を受け入れようと頑張っている様に見えた。

 ……が、果実が生る樹木である物を見つけて、彼女の足が止まった。


「あ、これ……」


 彼女が立ち止まった果実を見て、君はエルフがある時期に必ず食べる果実だったことを思い出す。

 そしてフィンを見ると、失った日々を思い出しているのかどこか悲しそうに見えた。

 君はフィンへと、時期はまだだろうけど……果実を食べるかと尋ねる。

 するとフィンは驚いた様子で君を見た。


「ご主人様……。この果実をある儀式のときに食べることを人が知ってるのは、親しいエルフから教わる以外ないはずです。あの、ご主人様はわたし以外にエルフを……いえ、なんでもありません」


 尋ねたい。彼女からそんな気配を感じたが、フィンは追求するべきではないと判断したのか黙る。

 そんな彼女へと君はいつか話すよ。と告げると……フィンはわかりましたと言った。

 そして少し恥かしそうにしながら……。


「あの、ひとつだけ……頂けませんか?」


 と言った。

 君はそれを聞き、木から果実を捥ぎ取りフィンへと渡す。

 フィンはそれを受け取り、その匂いを嗅ぎ……頬を緩める。

 けれど今は食べようとはしない。

 当たり前だ、その果実を食べるのはその儀式のときだけなのだから。

 それ以外では香りを嗅いで楽しむぐらいだ。

 懐かしい匂いを嗅いで、何処か嬉しそうにするフィンを見ながら君はそろそろ家の中に戻るかと考える。


「ご主人様、わたしも……収穫をするときに手伝ってもよろしいでしょうか?」


 不意にフィンが君に尋ねてきた。

 それに対し、君は頷くが……出来るのかと尋ねる。


「わたしがエルフだと忘れたのですか? エルフは森とともに生きる存在ですから、収穫なんてお手の物ですし生育だって出来ます!」


 フィンはそう言って薄い胸を張る。

 君はそこまで言うなら任せようと考えて、任せると言う。


「任せてください!」


 そう言ってフィンは笑顔で返事を返した。

 そして君たちは家の中へと入ったが、ココアとミルクは下りている様子は無く、こっそりと部屋を覗くと気持ち良さそうに眠り続けていた。

 これは夜中に目を覚ますだろうか、そんなことを思いつつ君は扉を静かに閉める。

 食事は、昼にたっぷり食べたから問題はないだろう。

 そう思いつつ、君はフィンにお腹が減っていないか尋ねると彼女は首を振った。

 あまりお腹が空いていないようだ。

 そう思いながら君は万が一お腹が空いたときのために、テーブルの上に穀物を薄く伸ばして乾燥させ、甘く絡めた食べ物が入った袋を置く。

 夜中お腹が空いたら食べる用にだ。

 それをフィンに告げると彼女は頷く。


「わかりました。お腹が空いたらいただきます」


 彼女の言葉に満足しつつ、君はそろそろ眠ることにした。

 それをフィンに伝え、また一緒に寝るかと尋ねると……顔を赤くし、


「ひ、ひとりで眠れます! 子供じゃないんですから……!」


 と怒った。

 そのことを彼女に謝り、君は一緒に2階へと上がっていく。

 そして、君がおやすみと告げるとフィンは頭を下げた。


「おやすみなさいませ、ご主人様」


 と言って、君が部屋に入るのをドアの前で待っている。

 自分が入らないと彼女も部屋に入らないことを理解し、君は部屋へと入る。

 するとしばらくしてフィンの部屋の扉が閉まる音を君は聞いた。

 その音を聞きながら、君は部屋の椅子に座ると君はテーブルの上に置かれた酒瓶の栓を抜き、一口酒を飲むとベッドへと入る。

 そして君は、静かに目を閉じ……自らを夢の中へと沈ませていった。

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