まとめ26 冒険者・1
(冒険者編はフィン視点で動きます)
「あの、本当に良かったのでしょうか?」
「ん? 何が?」
ご主人様への申し訳ない気持ちを抱きながら、わたしは前を歩くサンズ様へと尋ねます。
尋ねられたサンズ様は分からない、といった風に首を傾げながらわたしを見ました。
なのでわたしは言います。
「その……ご主人様を置いていって、です」
「あー、いいのいいの。あのおっさん連れて行ったほうが厄介なことになると思うしさー。……というかボクが連れて行こうとしてるだけだってのに、今にも血の涙を流しそうな勢いで涙を流すんだよ?」
「……その、ついて行って欲しくない、ですね……」
「でしょ?」
頷くわたしにサンズ様は笑います。
ご主人様が見せた反応には驚きました。
それほどまでにわたしたちをギルドに連れて行きたくなかったのでしょうね……。
でも、あの姿はまるで子供を嫁に行かせたくないお父さんみたいでした。
里で暮らしていたときに見た近所のお父さんを思い出しましたね。
……おとうさん、かぁ。
「えへへ……」
「ん~? フィンはなんだか嬉しそうだねー? もしかして、おっさんのあの反応が気に入ったとか?」
「い、いえ、違いますよサンズ様! ご主人様は優しくて大人ですから!」
「そっかそっかー、でも子供みたいなところが良かったってとこかなー?」
「そ……それは……」
戸惑うわたしを見ながら、サンズ様はニヤニヤといやらしく笑います。
その反応にどう返事を返せば分からず、言葉に詰まります。
子供みたいに駄々を捏ねるご主人様も、なんだか可愛かったですよ?
で、でもでも、やっぱりご主人様は大人のお父さんみたいな感じのほうが……でも、おとうさんは嫌です。
「あはは、困ってるねー★ あと、ちょーっといいかな?」
「は、はひ!?」
笑っていたサンズ様がその表情のままわたしへとジリジリと近付いてきました。
突然のことに驚き、後退りそうになりますが必死に堪えます。
わ、わたしなにかしたでしょうか?
そう思っていると、サンズ様が口を開きました。
「フィン、ボクはね『様』とか付けられるのは好きじゃないんだよ。だから気軽に名前で呼んでよ!」
「で、ですが……サンズ様は勇者ですし……」
「良いの! おっさんの関係者なんだから! ……おっさんの家族なんだろ?」
「あ……。その、わかりましたサンズさ……いえ、サンズ」
サンズ様、いえサンズの反応が可愛らしく、わたしはくすりと笑い彼女の名前を改めて言い直します。
そうでしたよね、サンズもご主人様のことを信頼しているのですから……わたしも彼女のことを信頼しないと。
嫌な人、そう思っていた彼女への印象がわたしの中で少し変化しました。
「君たちもボクのことをサンズお姉さんとか呼んでも良いんだよ!」
「やだ。サンズで良い」
「オレもサンズでいーから!」
「そんなぁー……」
胸を張りながらミルクとココアにサンズは言いましたが、2人はまだまだ警戒……というよりも倒されたことを根に持っているのかサンズから視線を逸らします。
そんな2人の態度にサンズはガクリと落ち込みます。
……とりあえず、頑張って2人に認められてくださいね。
そう思いながら歩いていると、いつも市場へと向かう場所を曲がらずにそのまま真っ直ぐに進んで行きます。
「あ、そっちにギルドがあったんですね」
「知らなかったの?」
わたしの言葉にサンズは驚いたようにわたしを見ます。
頷きながらわたしは、ご主人様にそっちは治安が悪いからあまり行かないようにと言われていたことを言います。
「……あー、ある意味冒険者は荒くれ者が多いけど、おっさん本当に過保護すぎだよ……」
「そう、でしょうか?」
「そうなの! まあ、この辺りは初めてだってのは分かったから……あまり離れないように」
「わかりました。ココア、ミルク、離れないでくださいね?」
「ん、わかった。フィンねぇ」
「わかったぜ、フィンねー」
わたしが言うと、2人はわたしの両脇に並びます。
サンズはそれを見ながら羨ましそうにしています。
その視線を流しながら、初めて通る道を歩きますけど……町のこっちの辺りはこうなっていたんですね……。
ご主人様、せめてギルド入口辺りまでは見せて欲しかったですよ……。
ちょっとばかりご主人様に怒りの感情を抱いていると、目的の場所に到着しました。
「さ、ここがこの町のギルドだよ」
「ここが……」
「おー……」
「でっけー……」
周りの店とひと周りほど大きさが違う建物を見ながら、わたしたちは呆気に取られます。
巨大な建物の中央にはギルドの看板だと思われる物が設置されていますが、大きな翼が特徴的ですね。
「冒険者は何者にも縛られず、自由であれ。ってことだから、大きく羽ばたくための翼らしいよ。さ、入った入った!」
何者にも縛られない自由……。
わたしたちはご主人様の奴隷で、自由はないですね。ですけど、それで構わないと思っています。
きっとココアもミルクもそう思っているでしょう。
そう思いながら、同時にご主人様がここに連れてきたくないと思ってたのは……わたしたちを手放したくないから。だったのかと思ってしまいます。
本当の所はわかりませんが……、そうだったらいいな……。
そう思いながらわたしたちはサンズの後について、ギルドの中へと入りました。
ギルドの中は酒場と兼用となっているみたいで、酒盛りをしている男性や女性が見えました。
多分ひと仕事終えたパーティでしょうね。そう思いながら歩いていると、ジロジロと視線がわたしたちへと向けられていることに気づきます。
物珍しい者を見る視線や、侮られている視線です。
それに……舐め回すかのようないやらしい視線も感じます。
「フィンねー、ミルク……」
「大丈夫ですよココア、落ち着いてください」
「大丈夫、あたしたちは一応は強い」
その視線が苦手なココアは尻尾を内股に入れながら不安そうにわたしたちに擦り寄ります。
わたしたちはそんな彼女を隠すようにしながら、抱き寄せ落ち着かせつつサンズの後について行こうとしました。
ですが、わたしたちの道を塞ぐように何というか、荒くれ者としか言いようが無い風貌をした男性が立ち塞がりました。
「おいおい、てめーらなんのようだぁ?」
「……退いてくれませんか?」
「ガキが来るところじゃねーんだから、ママゴトなら帰ってやりなぁ。それとも夜のママゴトをお好みってやつかぁ?」
ニヤニヤと男性はわたしの言葉を聞いていないように近付いてきます。
……どうやら近付いていやらしいことでもしようとしているのでしょう。
わたしたちを見ている人たちを見ますが、やれやれ!と煽る者や実力を見ようとしているであろう者たちばかりで助ける様子が見られません。
良いでしょう、でしたらわたしたちが通用するか見てもらいましょうか。
覚悟を決めて近付いてくる男性へと先手必勝しようとした瞬間――、
「邪魔だよ」
「ほごぶ!?」
何時まで経っても来ないわたしたちを迎えに来たのかサンズがこちらへと来ており、邪魔な男性を裏拳で排除しました。
吹き飛ばされた男性は煽っていた者たち目掛けて飛んで行ったのは、必然でしょうかそれとも狙って?
「さー、3人とも。登録の時間だよー★」
「あ、は、はい……」
にこやかに笑うサンズに引かれながら、わたしたちは受付へと歩いていくと……受付をしていた女性が緊張した面持ちで立っていました。
ああ、そういえばサンズは勇者ですから、緊張しているのも当たり前ですよね?
わたしはそう納得していると、受付の女性が喋り始めました。
「よ、ようこそいらっしゃいました! ギルドへの登録ですね!? そ、それでは登録をしますのでこちらに手を触れてください!!」
「あ、は……はい、わかりました……」
必死に叫ぶように言う受付の女性に若干狂気を感じながら、わたしは従うように触れるように言われた場所へと手を置いた。
すると、手を置いた場所は道具だったようで、わたしの情報がギルドへと登録されているようでした。
そしてすぐに道具の横から金属性の板が出され、それを受け取ります。
「これはギルドでの身分を証明する物ですので、持っていてください! あとは自身の情報も見ることが可能となっています!」
「あ、ありがとうございます……」
「次は、あたしやりたい」
「オレもはやくやってみてーな!」
遊びのように思ったのか、ミルクとココアがこぞって瞳を輝かせます。
そんな彼女たちの様子を見つつ、わたしは自身の情報を見てみたいと思い、板を見ます。
そしてそこに書かれた情報を見てわたしは……、
→驚いた。
→戸惑った。
喜んだ。
首を傾げた。
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