まとめ27 冒険者・2

「え……? こ、これって……どういうことですか?」


 金属の板を見た瞬間、わたしの口からポツリとその言葉が出ました。

 何故なら、板にはわたしの情報が書かれているはずなのに、大事なものが書かれていなかったからです。


―――――――――――――――


名前:フィン

年齢:18

種族:エルフ

職業:メイド、精霊弓士

称号:元奴隷、精霊に愛されし者、人に愛されし者、エロフ、初級冒険者

加護:森精霊の加護、???の祝福

技能:射撃、風魔法、水魔法、作物栽培、……


―――――――――――――――


 色々な情報が書かれています。何というか不名誉なものも含まれていますね。

 ですが、職業に奴隷がありません。

 これはいったいどういうことでしょうか?

 そのことに戸惑っていると、わたしの様子に気づいたのかサンズが近付いてきました。


「どうしたのさフィン、何か問題でもあった?」

「あの……サンズ、わたしってご主人様の奴隷……ですよね?」

「そう見えなかったけど……そうなの?」


 わたしの言葉に不思議そうに彼女は首を傾げます。

 まあ、ご主人様の扱いは奴隷に接するような扱いではないので、本当にそう思ってしまいますね……。

 奴隷だって知らない人がいれば、引き取られた子供たちという風に見えるでしょうか?

 そう思いつつ、わたしはサンズに板を見せます。


「なになに……。色々と面白い称号持ってるねー。あ、本当に元だけど奴隷だったんだね」

「はい……。ですが、わたしは解除された覚えもないです。それなのに何故……」

「普通奴隷だったら、解除されたら喜ぶのに……フィンって変わってるねー」


 わたしの反応を見ながら、サンズは苦笑します。

 わたしもご主人様じゃない人がご主人様でこの状況でしたら、凄く嬉しいです。

 けれど、奴隷であるからわたしはご主人様と繋がっている。

 そう思っていたのに、奴隷が解除されていることを知って驚きと戸惑いが隠せません。

 いったいどうしてこうなったのでしょうか?

 そんなわたしの様子にサンズは気づいているけれど、どう話せば良いのか悩んでいるようで顔を顰めています。

 ……とりあえず、落ち着きましょう。そう思いながら気を落ち着かせるために目を瞑っていると不安そうにわたしを見るミルクとココアの視線を感じます。

 ちらりと2人を見ると板を持ってますね。

 そうですね、2人と話したほうが落ち着くかも知れません。

 そう思いながらわたしは目を開けて2人を見ます。


「フィンねぇ、大丈夫?」

「フィンねー、悲しそうな顔してたぜ? 平気なのか?」

「大丈夫ですよ。証明証を貰ったのですね。どうですか?」

わたしが言うと、2人は嬉しそうにします。

「ん、貰ったよ。見る?」

「オレのも見てくれよ! というよりも、せーので見せ合おうぜー!」


 尻尾をブンブンしながら興奮するように2人は言います。

 そんな2人の様子を微笑ましく思いながら、わたしは2人の情報を見ます。

 先ずは……ミルクを見ましょうか。

 そう思いながらミルクの板を見ます。


―――――――――――――――


名前:ミルク

年齢:14

種族:猫族獣人

職業:メイド、性奴隷

称号:性奴隷(登録済)、家猫、けしからんおっぱい、かくれんぼ上級者、人に愛されし者、初級冒険者

技能:投擲、小太刀術、闇魔法、水魔法、隠れ身、……


―――――――――――――――


 ……色々と凄いですね、ミルクの称号……。

 ココアのほうは?

 そう思いながらココアを見ます。


―――――――――――――――


名前:ココア

年齢:14

種族:犬型獣人

職業:メイド、性奴隷

称号:性奴隷(登録済)、家犬、けしからんおっぱい、お馬鹿の子、人に愛されし者、初級冒険者

技能:盾術、土魔法、火魔法、庇う、体力向上、……


―――――――――――――――


 ココアはミルクと少し被ってますね。

 そう思いながら、わたしは2人を見ます。

 すると2人は自信満々に見えました。

 もしかすると情報が分かったことが嬉しいのでしょうか?

 ご主人様がいたら褒めてくれるはずですから……わたしが代わりに褒めましょう。


「良かったですね2人とも、これでわたしたちは冒険者ですよ」

「ん、これから強くなって絶対に一緒に行く」

「そうだぜ! オレたちは絶対について行くんだからな!」

「その意気です2人とも。これから頑張って行きましょうね!」


 やる気を出す2人の意欲を下げないように、わたしは言います。

 でも、これからどうすれば良いのでしょうか?

 やっぱりここは受付の人に聞くのが一番でしょうか?

 それともサンズに聞く?

 他の冒険者の人に話を聞くっていう手も……いえ、話しかけたらいやらしいことされそうな気がしますね。

 自分たちでギルドの中を見ながら探すっていう手もありますか?

 うーん、どうしましょうか……?


  →受付の人に話を聞く。

   サンズに話を聞く。

   他の冒険者に話しかける。

   ギルド内を歩き回る。


 ……そうですね、受付の人に尋ねるのが一番ですよね。

 そう思いながらわたしは受付の女性を見ます。

 女性はサンズのほうをチラチラと見ながら、汗をダラダラとかいてますが……もしかして怖いのでしょうか?

 まあ、怖いですよね……。わたしも怖いって思いましたから。


「あの、良いでしょうか?」

「は、はいっ!? な、なんでしょうか!!」


 わたしが受付の女性に声をかけるとビクリと体を振るわせながら返事を返してきます。

 ……なんでしょうか、苛めているつもりは無いのに苛めている気分になるのですが……。

 若干居心地の悪さを感じつつ、わたしは受付の女性に問いかけます。


「えっと、わたしたちは冒険者になりたてなので……どうすれば良いのかを聞きたいのですが、大丈夫でしょうか?」

「え? あ……は、はい、わかりました。それでは説明させていただきますね」


 わたしの言葉にキョトンとした表情を浮かべた女性だったけれど、すぐに表情を和らげ話し掛けて来ました。

 よかった……。あの変なテンションが通常かと思ってしまいそうになりましたが、アレは精神的にヤバイ状態だったのですね……。

 心で思いながらわたしはギルドの説明を聞きます。

 ギルドでは冒険者のランクで選べる依頼の幅が違うのですね?

 えっと、下から初級・中級・上級・特級ですか。

 わたしたちは初級ですから、横のほうにある掲示板の初級の所から選ばないと行けないのですね。

 え? 上のランクの人が居たら混ざることが可能なのですか? ですが、力が見合わないと危険、と……。

 そして、品質が良かったら報酬は割り増しになるのですか?

 初級だと薬草とツインテールですか……。

 依頼を受けるときは、掲示板で見た依頼を受付に告げたら良いのですね。

 なるほど。分かりました。

 あの……ところで……、内緒話をするかのようにわたしは受付の女性に顔を近づけます。


「サンズが怖いのですか?」

「ぅえ!? あ、いえ、その……は、はい、色々と逸話がある特級冒険者ですから……」

「と、特級!? サンズは特級なんですか?!」

「え? 知らなかったのですか? あの方を含め勇者パーティと呼ばれる方々は特級冒険者の上に二つ名を持っていますよ」


 わたしが驚くと受付の女性はわたしを見ながら驚き、説明をしてくれました。

 ということはご主人様も特級……?


「あー……おっさんは自分から辞退して、上級冒険者のままだよ」

「そ、そうなんですね……」


 サンズの言葉に返事を返し、わたしはご主人様のことを思います。

 あの人は地位や名誉なんて気にしないんでしょうね。

 きっと母やわたし、ミルクやココアが居る。そんな生活が出来れば十分なんです。

 そんなことを思いながら、ご主人様のことを考えているとココアとミルクは二つ名という言葉が気になっているのか、受付の女性に話し掛けています。


「なーなー、サンズの二つ名ってなんだよー?」

「あたしも、気になる。教えて?」

「えっ!? あ、あの、本人を前に言うのはちょっと……」


 カウンターに頭を乗せながら2人は受付の女性に尋ねます。

 ですが、本人が目の前に居る状況で言える図太さは持ちあわせていないようで、口元をヒクヒクさせています。

 そんな様子に気づいているのかいないのか、2人はなおも受付の女性に尋ねていますね……。

 とりあえず、止めましょう。


「ふたりとも、あまり受付の人を困らせてはいけませんよ」

「えー、でも気になるんだよー! フィンねーだってそうだろ?」

「ん、フィンねぇも気になるに違いない」

「少しは気になりますけど……、困らせてはいけませんよ。……それに、本人がいるのですから本人に聞いてあげてください」

「うえっ!? ちょ、ちょっとフィン、なに言ってるのさ!?」


 わたしが言うと、サンズは驚いた様子を見せました。

 わたしには二つ名なんてありませんから分かりませんけど、きっと本人が名乗ってないのに付けられた二つ名って恥かしいに違いありませんもんね。

 いえ、きっと恥かしいですよね。

 そう思いながらミルクとココアにせがまれるサンズをわたしは見ていますが、本当に困っていますね。

 観念して喋るか、それとも他の冒険者が気づいて二つ名を口にするか待ちましょう。

 ……まあ、待っている間に初級冒険者が受けることが出来る依頼はどんな物があるのか見てみましょうか。

 掲示板へと向かうと、そこには色々と書かれた羊皮紙が貼られています。

 手頃な依頼書を読んでみましょう。

 わたしは眼に止まった依頼書を読んでみました。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


依頼内容:リーフ族のお嫁さんをください!

適正ランク:上級~特級

報酬:金貨1000万枚

依頼説明:

『依頼者の私はリーフ族のお嫁さんがほしいです。

リーフ族は基本的には森に住んでいる緑色の球体をした生物ですが、私は見ました。

葉っぱを取った瞬間に美少女になるリーフ族の姿を!

調べるとリーフ族は恋人の前で葉っぱを取り、人型になり子孫を創るらしいです。

ですので、私もリーフ族のお嫁さんが欲しいので、リーフ族を説得して私のことを紹介してください。

ですがリーフ族は気難しく、お嫁さんが欲しいと言うと「どちゃくそがぁぁぁ!」と怒り狂います。

なのでどうにかして私とリーフ族の誰かを良縁に導いてください。

お願いします!』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ……何というか変な種族との結婚を求める人がいるんですね……。

 というかリーフ族ってなんですか? あ、そういえば、市場でたまに緑色の球体を見ましたね……。

 何というか特徴的なフォルムだったから覚えています。

 その依頼書から視線を逸らし、違う依頼書を見ます。

 これは……討伐?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


依頼内容:ハンゲショウ殲滅パーティー

適正ランク:全ランク

報酬:討伐証明ひとつにつき、銀貨3枚

依頼説明:

『え? 20歳なのにツインテールなんですか?!』

あの日、そんな風にオレはハンゲショウに言われた気がした。

だからオレはハンゲショウを狩る。

この命尽きるまで……!

奴のツインテールはひとつ残らず葬り去る。

でないとオレの気は治まらない。

ハンゲショウに怨みを持つ者よ、集え。

そして、共に狩ろう。憎きハンゲショウを……!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 な、何というか、ハンゲショウに怨みを持ち続けてる人の依頼書みたいですね。

 もしかして、ハンゲショウハンターですか?

 そんなことを思いながら、他の依頼書を色々と見て行きました。

 見て行くと初級冒険者用の依頼は、薬草採取とハンゲショウの討伐依頼、それとゴブリンとコボルトの駆除がありました。

 それらはきっと初級冒険者が一人、もしくはパーティで相手をするのに適している依頼なのでしょう。

 そう思いながら受付に戻ると、項垂れるサンズと瞳を輝かせるミルクとココアがいました。

 多分、二つ名を聞いたのでしょうね。


「クラッシャードラゴンかっけー!」

「痺れる……クラッシャードラゴン」

「うぅ……何度も言わないで欲しいなー……!」


 追い討ちをかけられ、サンズは益々項垂れます。

 というか、クラッシャードラゴンって……何をしたらそんな二つ名を貰ったのでしょうか……。

 ある意味気になりますが、死体蹴りをする趣味はわたしにはありません。

 ですので、後日別の人に教えてもらいましょう。

 そう思いながら、わたしは近づきます。


「ふたりとも、依頼を見てきましたよ」

「あ、フィンねぇお帰り」

「え!? あ、サンズの二つ名気になってて見るの忘れてたー!」

「おかえり……、色々と見てきたんだね?」

「はい、わたしたちで出来る依頼を探しました」


 ゲッソリするサンズへとわたしは返事を返しながら、見てきた依頼を口にする。

 それを聞きながら、彼女は頷きます。


「なるほど、それじゃあどの依頼を受けようと思うんだい?」

「そうですね……、どの依頼を受けましょうか」

「慎重に決めるか、それとも大胆に決めるか、初めての依頼を決めるのをボクは見させてもらうよ」


 そう言ってニコニコとサンズは微笑んでいます。

 そうですね……、分類を分けると『採取・討伐・駆除』の3つに分かれているですよね。

 ミルクとココアと相談しましょうか。

 そう考えてわたしは2人に話をし始めました。

 その結果、わたしたちが選んだ依頼、それは……。


  →採取依頼を選びました。

   討伐依頼を選びました。

   駆除依頼を受けました。

  →全ての依頼を受けました。

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