まとめ28 冒険者・3

  相談の結果、採取依頼にしようと考えました。

 それを受付の女性へと言って依頼を開始しないと。

 そう考えながらわたしは受付へと向かいます。


「あの、薬草採取の依頼を受けたいのですが」

「え? ああ、分かりました。それでは依頼を引き受けたことを――「待った」――え?」


 受付の女性が言い終わる前に、彼女の言葉をサンズが遮ります。

 いったいどうしたのかと思いながら、わたしと受付の女性が見ていると彼女は口を開きました。


「初級冒険者用の討伐・駆除・採取、それら全ての依頼を受けるよ」

「あ、あの、一度に全てというのは……」

「あの、サンズ、理由を……」


 突然話に入り込み、決めていた依頼の内容にさらに被せたサンズに何故そうしたのかを尋ねます。

 というかいきなり被せるように言ったから受付の人が困ってますよ?


「ああごめんごめん。フィン、君たちは強くなりたいんだよね? それなのに採取だけで強くなれると思う?」

「そ、それは……」


 サンズの言葉にわたしは言葉を詰まらせます。

 そうでした……、わたしたちは強くなりたいからギルドに来たのでした……。

 彼女の言葉に気づいたのはわたしだけでなく、ココアとミルクもだったようで2人とも表情を暗くします。


「ああ、ごめんごめん。気落ちさせるつもりはなかったんだよ」

「……でしたら、詳しい説明をお願いします」


 落ち込むわたしたちを見たのか、サンズは謝ります。

 わたしは少し下がったテンションのまま、サンズに全部受けることにした理由を尋ねました。


「つまりね、フィンたちは採取依頼を受けたけどさ、採取するだけで済むわけがないんだよ」

「えっと、それって……?」

「薬草の採取地は基本的に森の中なんだ。森には動物もいるけど、モンスターもいる。その意味、分かるよね?」

「……採取に行ったらモンスターに襲われるのは確実、っていうことですか?」

「その通り★」


 わたしの答えが合っていたようで、サンズは指をパチンと鳴らした。

 つまりは、採取依頼と一緒にモンスターの討伐依頼や駆除依頼を受けるのが当たり前ということですね。

 でもギルドとしては推奨しない方法なんでしょうね……。受付の人を見ますけど、複雑そうな表情をしているのが見えます。

 きっと片方を疎かにしてしまう可能性があるからでしょうね。

 そう納得していると、サンズが受付の女性へと話し掛けました。


「依頼を一度に2個ぐらいしか受け付けてないのは分かるし、初めての依頼だから心配なんだろうけど、ボクが同行するから承認してくれないかな?」

「え、えっとあの……ひとグループでも2つまでなので……申し訳ありません」


 受付の女性は物凄く困った表情を浮かべていたけれど、最終的に申し訳なさそうに謝った。

 その瞬間、ピリッとした空気が周囲を包みました。


「「「っっ!!?」」」

「あ……あ……」

「へー、ふーん? ボクのお願いが聞けないの? こんなに頼んでいるっていうのにねー?」


 ジッとサンズが受付の女性を見ますが、これは若干苛立ちが混ざっていますよね?

 一気に重苦しくなった空気にわたしは怯えそうになります。

 ですが、余波でこれなのですから直接視線を受けている受付の女性は溜まったものではありませんよね?!


「あ、あ……」


 不安そうに女性を見ます。

 彼女は怯えたようにその場で立ち尽くしており、しゃがむことも出来ないようでした。

 そして多分ですけど、床におしっこも垂れてるのでは……。

 そんな不安を感じていたわたしですが、ハッとしてサンズを止めます。


「サ、サンズ! そこまで、そこまでですっ!!」

「フィン、止めないでよ。聞きわけがない受付に文句言ってるんだからさ」

「聞き分けがないのはサンズのほうですから! 落ち着いてください!」

「落ち着いてるよ。ボクは」

「そ、それご主人様の前で言えますかっ!?」

「おっさんの前で? ……あー、ちょっと気が立ってたかも」


 ご主人様の名前を出した。その瞬間、サンズは一気に落ち着きを取り戻しました。

 ご主人様は本当に凄いです……。

 そう思いながら受付の女性を見ると、口から泡を吐きながらその場でへたり込んでいました。

 周囲を見ます……。ドン引きしていました。

 ク、クラッシャードラゴンって由来はこれなのでは?

 二つ名の由来はこれでは無いのかと思いつつ、しばらく待っているとギルドの職員が受付をしていた女性の肩を掴んで奥へとつれて行きました。

 わたしは心の中で女性へと合掌を送ります。

 そしてしばらくすると、男性が受付にやって来てわたしたちの依頼を受理しました。

 ……ちなみに全部です。

 顔を顰めつつわたしたちへと金属板を返しつつ、男性はわたしを見ますが特に何も言いませんでした。

 きっとですけど、無茶言うなという非難の視線を送っていたのでしょう。

 わ、わたしは悪くないですよ……? そう心から思いつつ、わたしたちはギルドから出て行きます。


「そういえば、サンズたちがギルドの依頼を受けるときに応対してたのはご主人様ですよね?」

「うん、そうだけど? どうして分かったんだ?」

「ちょ……直感です。そのとき、依頼はどうしていたのか分かりますか?」

「全部受けてたはずだよ。だって、討伐証拠を集めてたしさ」

「あ……そ、そうですか」


 理解しました。多分ですけどご主人様は要領よく、2つだけを一度に受けて、終了と同時に討伐していた別のモンスターの討伐証拠を出してたのでしょう。

 というか、きっとこれが正しいギルド内での依頼の受け方なんですね。

 サンズが異常なだけですか……。

 そのことを理解しつつ、わたしたちは町を守る門の前へと到着しました。

 ……ここを出ると、町の外……少し不安を感じます。

 そんなわたしの手をぎゅっと握る感触があり、見るとミルクとココアが両側に居ました。


「フィンねぇ、行こ」

「フィンねー、行こうぜ!」

「ええ、そうですね」


 2人に頷き、わたしは久しぶりに町の外へと出ました。


「あ……、そういえば」


 ……が、わたしはあることに気づきました。

 突然立ち止まったわたしを2人は不思議そうに見ますが、これは大事なことなのでどうしようか悩みます。


 わたしが気づいたこと、それは……、


  →服がメイド服のままでした。

   薬草の種類を聞くのを忘れていました。

   森の場所を知りませんでした。

   適当に歩けば問題ありませんよね?


「わたしたち、メイド服のままですね」


 そう、わたしたち3人はいつものメイド服だったことを思い出します。

 その言葉でミルクとココアも、あっという風に尻尾を立てました。


「そうだった……」

「着替えに行ったほうが良いんじゃないのか?」

「そうですよね……。これは心許ないですし……」


 わたしたちが口々に言い始めると、サンズが口を開きました。


「別に良いと思うよ。だって、そのメイド服ってそこらの革製の防具なんかよりも頑丈だと思うし」

「え? そ、そうなのですか?」

「うん、多分だけど魔法の道具だと思うよ。服に魔力を通すと強度が増すタイプのさ」


 その言葉にわたしは驚きます。

 だって、ご主人様はそんなこと一言も言ってくれませんでした……。

 あ、でも、前着ていたメイド服と違って動き易いなって思っていましたけど……そんな秘密があったなんて。

 帰ったらご主人様にお礼を言わないと。

 そう考えながらわたしはグッと拳を握ります。


「それでは行きましょうか! …………あの、そういえば森って何処ですか?」

「知らない」

「わかんねー」

「ボクが知るわけないよ」


 …………門番の人に聞きました。

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