まとめ15 過去・3

 君は頷き、わかったと呟いた……と思う。

 もう大分眠っているのだから、多分言ったという覚えしかない。

 そして、翌朝になるとルーナは昨日の暗い雰囲気を払拭して何時も通りに君に笑いかけた。


「おはよう、今日はどんな依頼を受けようかしら?」


 そう言う彼女とともに君は冒険者ギルドへと向かった。

 それから君は何時ものように冒険者ギルドで依頼を受けて、森で採取できる素材を採取し、ルーナによる様々な訓練を行う日々を続けた。

 そして気づけば、君はその町で一番優秀な冒険者となり……周辺でも噂されるようになった。

 有名なパーティーが君に手を貸してくれるよう声をかける時もあった。

 君はその度に渋ったが、ルーナによって送り出され……その度に無事に帰ってきた。

 無事に帰った君の姿を見る彼女の微笑みは輝いており、君はその微笑みに……いや、彼女という存在に完全に惹かれていた。

 そして何時ものように彼女に送り出されて帰ってきたとき、君は彼女に指輪を送り……求婚した。

 君の言葉を聞き、ルーナは目を白黒させながら戸惑うように問いかける。


「え、あ……えぇ? わ、私、子供がいるし、夫も居たのよ? 君なんかよりも遥かにおばさんなのよ?」


 それでも貴女がいい、自分は貴女を愛している。

 君は力の限り口にする。

 それを聞く彼女は初心な少女のように頬を染めた。


「わ、わかった……わ。その、幸せに……してね?」


 君は彼女の言葉に絶対に幸せにすると誓うように頷いた。

 それから君はルーナとの結婚生活という更に充実した日々を送り始めていたのだが、彼女と買い物に行ったときに君はそれを見た。


「行商? 珍しいわね? ――っ!?」


 町に久しぶりに来た行商へと人だかりが出来ており、君たちは何が売られているのかと思いながら見て……後悔した。

 何故なら、売られているのは……エルフの奴隷たちだったからだ。


「さあさあ、エルフの奴隷だよ! 大量に入手したから安くしとくよ!!」


 行商人の声が響き渡り、人々がそれを見る。

 自身の同族の悲惨な状況を見たルーナは表情を引き攣らせ、君は彼女を連れてこの場から立ち去ろうとする。

 その直後、繋がれたエルフから悲鳴が上がった。


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!! 何で、なんで……!? どうしてっ!? どうして、生きてるの!? どうし――はぐっ!!」

「煩いぞっ! 黙って買われるようにアピールしろ! すみません、お客さんがた。何時もは大人しいんですよ」


 悲鳴を上げるエルフの腹を蹴り、黙らせ行商人は見物客に謝る。

 そんな声を聞きながら、君たちは去っていく。


「……ねえ、さっきの…………ううん、何でもないわ。行きましょう」


 何処か辛い表情でルーナは口を開いたが彼女はすぐに首を振って気持ちを落ち着かせると、君に微笑んだ。

 けれどその日から、彼女は何処か考え込むようになり……暗い表情を浮かべるようになっていた。

 そしてそれから少しして……事件は起きた。

 君は彼女とともに冒険者ギルドへと訪れた。

 だがギルドに入ると違和感を感じ、君は周囲を見回した。

 すると違和感の正体がすぐに判明した。

 それは君に度々突っかかってきた不良冒険者だった。

 初めの頃は金を奪おうとしたりしていたのだが、君が強くなって行くに連れて隅で睨みつけるということをするようになっていた。

 それは今でもだった。

 なのにいつも感じていたはずの視線はなく、不良冒険者は目を見開いたまま行儀良く椅子に座り続けているだけだった。

 それに違和感を覚えながら、君は窓口の職員に尋ねてみることにした。

すると彼女も眉を顰めながら言う。


「ワタシたちも良く分からないんです。依頼で森のほうに行ってからアレで」


 森、という言葉が出た瞬間、君の側で我関せずとしていたルーナはバッと不良冒険者を見て……固まった。


「そんな、うそ……っ!!」


 そして目を見開き、ポツリと呟いた瞬間……彼女は弓を構え、魔力で創られた矢を撃ち出した!

 それを見た周りは戸惑い、彼女を制止しようとした。

 だがそれよりも速く彼女は矢を放ち、不良冒険者を射抜いた。

 直後、不良冒険者の体からは血が流れる……ことはなかった。

 それどころか射抜かれた冒険者の体はボロボロと崩れ始め、土くれとなった。


「な、なんだこりゃあ!?」

「つ、土……!? 人間じゃないのかよ!?」

「鑑定士か、鑑定できる奴呼んで来い! 確認してもらえ!!」


 崩れ果てた冒険者を見て、戸惑いながらも周りの冒険者たちは対処するように動き始める。

 そして鑑定した結果、不良冒険者だったそれは土で創られた人工生命で、材料に人の体が使われているのが判明した。

 同時にそれを創ることが出来るのは邪教に魅入られた者だけだということも判明した。


「やっぱり、そうなのね……」


 ポツリと隣に立つルーナが呟いた瞬間、君は思い出す。

 あの日、彼女が語ってくれた昔話を。

 君は彼女に大丈夫かと声をかけようとした。

 だが、彼女は君に微笑む……。


「ごめんね、私は……行かないといけないみたい。きみに、これを預けておくわ」


 そう言って君へとルーナは自らの弓を差し出し、訳もわからず君はそれを受け取る。

 そして君は気づく、これは別れの言葉だということに。


「いつか、きみが私の娘に会うって確信があるから、会えたら……おねがいね。

きみとの日々は、本当に楽しかったわ。だからさようなら……」


 君へとそう言って、君が伸ばした手を擦り抜けて彼女は走り去っていく。

 それを君は必死に追いかけるが、ルーナはまるで消えたかのように君の前から居なくなったのだった……。


 それから君は、必死に彼女の行方を捜した。

 けれど彼女の姿はまったく見つかることはなく、手がかりであると思われる森の奥はまるで壁があるかのように入ることが出来なかった。

 そして不良冒険者の一件で調べられた結果、何名かの人間が入れ替わっていたことが判明した。

 だが何が原因であるかは分からず、日々は過ぎていった。

君はその件を調査しようとした。

 だが君の前にある高名なパーティーの救援要請が来ており、君は断わることが出来ず受けることとなった。

 彼らとの日々は楽しく賑やかであり、同時に空虚感を感じていた。

 そんなある日、君が暮らしていた町がモンスターに滅ぼされた話を聞いた。

 君は彼女と暮らした町が無くなったことに悲しみを覚えつつ、彼女との繋がりが途切れたことを感じた。

 それでも君は今の依頼をこなさなければならないと感じ、必死に体を動かした。

 結果、君は彼らとの依頼を終えた。

 そして君はある街に家を貰い、大金を得て……自堕落に暮らしていた。

 それは彼女が見つからないことへの悲しみなのか、それとも燃え尽きてしまったのかは分からない。

 だけど君は一人寂しく暮らし、時折仲間と呼べる程に交友を深めた者たちと交流をした。

 そしてそんなある日、君はふらりと奴隷市場に赴き……彼女と会ったのだった。

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